早朝の月と火星
ソフトウェアエンジニアだったころ、土曜日の午前3時から作業することがあった。知っている人も多いと思うが、ソフトウェアのリリース作業は”ユーザーが使っていない”時間帯にやることが多い。週末の早朝。土曜日の作業になる。日曜は予備日だ。
で、この時間の作業は非常に危ない。当然、通常で寝ている時間であり、作業のために早寝をしたとしても、脳はそう簡単に活性化してくれない。徹夜で挑んだとしても同様。よってミスが多い。そんなわけで、オレはタクシーで現場に向かった後、晴れていれば月を見上げることにしていた。夜空ってのは、いろいろ想像力をかき立ててくれる。だから少しでも頭を動かしてミスをしないように対策をしていたのだ。
7年前の1月。リリース作業があった。デヴィッド・ボウイの死を知らせるニュースが流れた週の土曜日。
「寒いな」
と月を見上げると、少し離れたところに火星が見えた。いつでも見えていたけれど、ボウイが逝ってしまったことを思い出し
「ああ、ボウイが帰った星だな」
なんて考えた。
イヤホンからは彼が歌う『Lazarus』を流れていた。
人は死ぬと星になって、星は死ぬと人になるというけど、ボウイはいつか帰ってくるのかな。
オレは星になれなくていいから、ボウイには帰ってきてほしいな。