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ガリバー "法螺吹き" 男爵の冒険Ⅰ

ーーガリバー "法螺吹き" 男爵の証言より。

「わたくしは南方艦隊6番艦、"白星号"に下士官として乗船し、南東諸島の探検任務に就きました。出航後2か月程で激しい雷雨と強風に遭い、やがて高波に呑まれて白星号は沈没したのであります。その後、わたくしが3年の月日をいかに過ごし、再び帝都に帰還した由は、以下に申し上げる通りでございます」

「わたくしの艦上における最後の記憶は、マストが風になぎ倒され、艦が真っ二つに割れ、甲板に四方から真っ黒な海水が入りこんで来た光景であります。あっと言う間もなく重い水に足をとられ、体がひっくり返されたと思うと、たちまち海の中へと入りました。もがくうちにわたくしは気を失い、波に流されるままとなったのです」

「次に目を開いた時には、白砂の浜辺に打ち上げられておりました。どれほど海の中を漂っていたのかわかりませんが、沈没した地点からさほど離れてはおりますまい。浜辺にはわたくしと共に流れ着いたと思われます樽の破片、割れたボート、細切れの板材などが散らばっておりましたが、人の姿はありませんでした。陽射しは温かく、時折湿気を孕んだ海風が吹いて、椰子の葉を揺らしておりました」

「楽園のような目の前の景色が大荒れの海からあまりにかけ離れていたせいか、わたくしは目を覚ました後、しばらく呆けてしまったのであります。気がついた時には日が翳りはじめ、軍衣はすっかり乾いておりました。わたくしは空腹と疲労を感じて起き上がり、椰子の並木の方へ、陸地の奥へと歩いて行きました」(続)

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