
ガリバー "法螺吹き" 男爵の冒険Ⅸ
「ぼんやりと光る球を見ていると、鈴のなるような、しかし乾いた音が聞こえてきました。扉が開き、はじめに出会った青年が入ってきたのであります。青年は両手にジョッキのような形をした植物を持っておりました」
「植物のジョッキをテーブルの上に置くと、青年はわたくしを縛っていた蔦を外してくれたのであります。そうしてテーブルの上に置いていたジョッキを取って、わたくしに渡しました。中を見ると、澄んだ薄緑色の液体が溜まっています。青年はもう一つのジョッキを取り、自ら口をつけてごくごくと飲みました」
「わたくしは手元のジョッキに顔を近づけてみました。液体から少し青さがある爽やかな香りが漂ってきました。目を閉じて一口飲むと、香ばしい匂いが鼻を通り抜けていきました。飲み込むと胃の中から例の爽やかな香りが立ち上がって、口の中に広がりました。舌には微かに甘い風味が残っておりました」
「わたくしの体は乾ききっておりましたので、再びジョッキに口を付けるとぐいと傾け、残っていた液体を飲み干してしまいました。全身に水分がじんわり広がっていき、わたくしは深く息をつきました」
「思わず『ありがとう』と青年に言っておりました。かの人は意味は分からなかったでしょうが、わたくしが涙ぐんでいるのを見て、静かに頷いて聞いてくれました」
「青年は自らのジョッキを空にしてから二言三言、何か言葉を発すると、ジョッキを持って立ち上がりました。かの人がわたくしを見てポン、と手を叩くと球の光が消えました。再び叩くと光が戻りました。数回手を叩き、光を点けたり消したりしてから部屋を出ていきました」
「青年が出て行った後、わたくしも両手を叩いてみました。青年の時と同様に光が消え、再び点きました。わたくしは部屋にあったマットレスの上に寝そべり、再び手を叩いて部屋の灯りを消しました。目を閉じると、1日の中で起きたことが次々に思い出されました」(続)