
ガリバー "法螺吹き" 男爵の冒険ⅩⅦ
「北辺の村に連れて来られてから、9ヶ月ほど経ちました。わたくしはシダー氏について行動することを条件に、村の中を見て歩くことができるようになりました。かの人は村のことを案内し、やってはならないことや危険なことは丁寧に教えてくれるので、不自由さは感じませんでした。むしろ久しぶりに広い場所を歩き回ることができることに大きな喜びを感じておりました」
「シダー氏は、若くしてこの村の村長でありました。朝食を済ませて村内を見まわることが、かの人の日課でありました。そこに語学教室が加わり、勉強を終えたわたくしも見まわりについていったのであります」
「はじめの頃、村の人びとはわたくしをちらちらと見たり、子どもが後ろからついてくることがありましたが、1週間しない内に皆すっかり慣れたようで、気さくにあいさつし、話しかけてくれるようになりました」
「ほぼ毎日、シダー氏の巡回路は変わりませんでした。わたくしに1時間ほど授業した後、部屋を出ると長い廊下を歩きました。廊下には扉が並んでおり、一つひとつがそれぞれの世帯を成しておりました。村長は歩きながら時折扉を開けて、中の住人に話しかけました。主に老人だけの世帯や、一人暮らしの若者、若夫婦などを気にかけているようでありました」
「シダー氏が話してくれたところによりますと、この廊下は螺旋状になって幹の中を貫いているとのことでありました。けれどもあまりに幹が太いせいか道幅が広く、螺旋もゆるやかだったために、中を歩いているとその構造を実感するのが難しいほどでありました。私たち2人は螺旋廊下をゆっくり歩いて、下っていきました」(続)