見出し画像

ガリバー "法螺吹き'' 男爵の冒険ⅩⅢ

「それから毎日、シダー氏が供の人びと数人を連れて朝と夕方にやって来ました。毎回、やることは変わりませんでした。身体を洗うための桶の水を換え、飲み水代わりの茶が入った水筒をテーブルに置くと供の人びとは退出し、残ったシダー氏とわたくしが一緒に食事をとりました」

「木の実や野菜のような植物性の食べ物ばかりでしたが、中には獣の肉のような風味のもの、焼きたてのパンのような香ばしい香りを発するものもありました。調理方法も煮たり焼いたり、スープにしたり、薄い皮で包んで蒸し焼きにしたり、からりと揚げたりと、様々に工夫されていました」

「わたくしはシダー氏から料理の名前を教わりながら食べました。そのうち、『焼く』とか『蒸す』といった調理方法を表す言葉も教わりました。シダー氏はわたくしが言葉を覚えていくのが面白いようで、1月ほどすると籠やら鍋やらといった身の周りの道具を持ってくるようになりました。そうして食事をしながら道具の名前、道具を使う時の動作を表す言葉などを、わたくしに教えてくれたのであります」

「わたくしが最も驚き、また嬉しく思ったのは、紙を糸で綴じたノートとペンを与えてくれたことです。紙はパピルスよりも薄く、きめが細かく、羊皮紙のように丈夫でありました。ペンは都度都度にインクをペン先に吸わせる必要がなく、紙にペン先を当てると、内部から滲み出るようにインクが出てきました」

「わたくしは日中、習った言葉とその意味をノートに書き付けたり、外の景色を眺めたりして過ごしました。シダー氏はわたくしのノートを見ようとはしませんでしたが、わたくしがノートを開いて見せると、中を覗き込みました。わたくしが帝国語で書いた単語を指さし『茶』と読み上げますと、シダー氏はペンを取り、自らの文字を隣に書き込んでくれました。丸と曲線が組み合わされていて、扉に書かれているものによく似ておりました。こうしてわたくしは、彼らの文字を学ぶ機会も得たのであります」(続)

いいなと思ったら応援しよう!