
ガリバー "法螺吹き" 男爵の冒険ⅩⅩⅫ
「数日南下を続けるうちに、わたくしは運転手氏ともよく話すようになりました。かの人は名をタデと言い、穏やかな表情を絶やさない、口数の少ない男性でありました。しかし打ち解けてみるとただ控えめにしているだけではなく、細やかな心配りとユーモアのある紳士でした」
「『デクの運転と整備では、タデさんに並ぶ人はいないよ。つまり、村の若者に最も尊敬されている1人だってことさ』と、照れ臭そうにするタデ氏の丸い肩に太い腕をかけて、偉丈夫の若村長は得意げに話すのでした」
「イヅナは順調に木の海を泳いでいきました。10日ほど駆け続けると、降る雨の量が明らかに減り、頻度も少なくなっていきました。出発してから2週間で、植生も目に見えて変わっていきました。村長と運転手氏は『寒くなってきた』と話して厚着になっておりましたが、湿度が下がって時折涼しい風が吹き、わたくしには心地よい気候でありました」
「温帯の森林でも小屋の外観は変わりませんでした。室内に入ると厚手のブランケットや、温かい茶を保存するための薬缶型のデクなど、熱帯の村々では見かけなかったものが置かれておりました。料理の材料も異なっていて、色鮮やかな果物などは減っておりましたが、芋や栗の仲間など、ホクホクした食感の素材が多く使われておりました。わたくしだけでなく北辺の村出身の2人も見るもの食べるものを色々と珍しがり、旅行気分を楽しんでいるようでありました」(続)