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【身の上小噺】怒られた史上一番のヤバいこと

俺はよく怒られてきた。怒る数よりも圧倒的に怒られる数の方が多い。他人に怒るに至らぬ未熟な人間だしな。

俺は一体誰に怒られているんだろうか。

バイト先の先輩や社員、小中高の教師等の社会的に上の立場の人に怒られたことはあまり経験がない。怒られていたとしても全く覚えていない。意にも介してないのかもしれない。


他にじゃあ誰がいるんだ。

まず同年代の友人。言動や態度が悪いことを中心によく指摘されていた。裏表がないのは良いことだけど、お前の場合は態度を変えなすぎだと。少しは変えた方がいいよと。

また、デリカシーが無いこと、他人の気持ちを留意せず、思いつきをそのまま口にした発言で他人を不快にさせたり傷付けてること。口に出す前に少し考えてから話そうよと。


全部ごもっとも。何も言い返せない。当たり前だから。しかし、俺はこの当たり前が一切出来ていなかった。
こうして指摘してくれる友人がいて本当に幸せな事だと今尚思い知る。指摘されなかったら気付けてないんだから。あのままずーっと最悪な人間のままの外道を歩んでいたのだろう。

本当にありがとうございます。その友人たちのおかげで昔よりは確実にマシになってきています。多分。おそらく。かな。でもまだまだだと自覚しているつもりではあります。これからも気をつけながら精進します。



そして、一番怒られる相手といえば、そう親。これは仕方ないことだ。誰にランキング作らせても親しか一位になりえない。逆に親じゃないやつが一位の奴はどうかしてる。あと怒られたことないとか言う奴普通にめっちゃ嫌い。そんなわけないから。

親は良識の右も左も分からない小童を責任を持って0から叩き直さねばならない。
何が悪い事で、何がやってはいけない事で、何が他人様の迷惑をかける事か。これら全てを出来る限り寄り道させずに真っ直ぐ人の道を進ませること。これが教育の根だと考える。


だが、これがどれだけ大変か。


反抗期を迎えてからも粘り強く叱り続けてくれた。ただ叱るだけでなく愛情も隠し味にして。
俺は未だに最悪な人間ではあろうが、少しは人の道を進もうという意識を植え付けてくれた親には本当に感謝しか出てこない。どうやって恩返しをしたらいいか分からないよ。



さて、話は怒られたことにシフトさせる。誰しも怒られた経験はあるだろう。
皆さんは、自分の中で一番やってしまったこと、これは怒られて当然だと省みるも真っ先に思い出した行動はなんだろうか。


各々あるはずの怒られたエピソード。言わば失敗談。この失敗談の中でも最低の失敗談。
今回は私ナマケが自覚してる怒られたエピソードの中で、自分でさえ最もヤバいと思っている話をしよう。


ずっと隠してた話なのでほぼ全員が初耳。人によってはこれ以上なく腹を捩らせるか、これ以上なくドン引きするか。

記事にしようと思って一回試しにバイトの後輩に話したら全く呼吸してくれなかった。このまま皆窒息するのかなって思った。


貴方はどっちだろうか。



時は2008年だったか。

地球を緑で彩り、動かざることを表顕せしめる山々でさえも秋風一つで震える休日だった。

その日も相変わらず怒られていた。この頃、俺は確か小学3年生。自我を覚えだし絶賛怒られ真っ盛りの年頃だ。

午前中に2個下の弟と些細なことで喧嘩をした。昔から誰よりも喧嘩っ早かった。T-fal社の有名な瞬間湯沸かし器は俺を見て着想得たのだろう。
これくらい早くお湯が沸いたらいいのにと。あっという間にすぐに沸くのは俺の頭。

俺は弟をグーでぶん殴っていた。もちろん親に怒られた。



午後になった。いつもと何ら変わらない休日。
我々家族は15時になると、決まっておやつが出されていた。一人100円までのおやつを親がスーパーで毎度買ってきてくれる。毎日繰り返させるも飽きない最高のイベントだ。


大体14時頃に母はスーパーへ行く。休日で暇だったため母と共にスーパーへ駆け込み、お菓子コーナーにへばりつく。100円の中で上手くやり繰りする自分のスキを存分に楽しんで母に渡す。

この日、選ばれたおやつはガムだった。


無事に家に着き、来る15時を心待ちにそわそわしていた。
15時が来た。

母にもう食べていいか居の一番に確認し爆速で頬張る。あっという間に無くなった伸びる化学加工品を俺は惜しんでいた。


―――まだまだ食べ足りない。


ここで数ある俺の重大な欠点の一つ、言わば負のパッシブスキル「我慢が出来ない」が発動した。衝動的でふと思ったことを自制することが大の苦手で、どうしてもできなかった。24となった今では、衝動買いをすることや興味を優先し、必須事項を後回しにすることといった衝動性は残ってはいるもののいくらか改善はされたはず。


ただこの頃は一度欲が出たら我慢出来ない質で、冷蔵庫にあるガムを食べたくなった。でも、俺はさっき自分の分を食べた。目の前にあるはそう、弟のもの。

弟は俺より全然自制が効くすごい奴で楽しみを後に取っておける、俺からすればあり得ない選択肢を持つことができる奴だった。とりあえず一個食べて取っておいていたガム。

こんな美味いもの、抑制の効かない狼の前に置く弟が悪いね。こすい狼は全部食べる罪は知っているので一個だけならバレないと考えていたこともあり、気付けばもう手を付けていた。


さて、こんなつまみ食いが常習だったので母は当然警戒をしていた。あの手この手を使ってつまみ食いをして謎に賢くなった俺をマークするのは大変だったろう。

「まさか食べてないよね。」
遠くから母の先制パンチが入った。思えばハッタリというかカマをかける目的でこんな言い方をしたのだろう。

「食べてないし。」と強気に出るも、罪悪感はあるのでヤバいと思った俺は今噛んでいるガムを対処しようと思った。そして、聞こえる母の声。
「あ!(弟の名前)のガム開いているよ!!」
そう言いながら隣部屋からこっちへ来る鬼の足音。

完全に終わった。このとき以上に頭を働かせたことはない。
とりあえず口から出そう。口から出したはいいがゴミ箱は遠い。手に持ってても良くないと考えた俺は逼迫する状況から咄嗟にガムを対処した。


ちょうど横に座っていた弟の髪の毛にガムを付けることで。

そして鬼と対面した。
「勝手に食べたの?」
「違うよ、(弟の名前)は一個食べてたもん。な?」
「う、うん。後から食べようと思って取っておいてるの。」
「そうなんだ。(弟の名前)は早く食べちゃいなさい。じゃないとお兄ちゃんが食べちゃうよ。」

そう鬼は言い残し部屋を後にした。一旦助かった。しかし、咄嗟の行動の犠牲となった髪の毛に付いたガムを何とかしなきゃならない。ってか、弟はまだ自分の後頭部に何が付いているのか分かってない。何故ついているのかも説明しなきゃいけない。問題が山積みだ。


とりあえずガムを取る。
「ガム付けちゃった。取るからちょっと動かないでいて。」
「これガムなの?なんでガム付いてるの?」
「いいから動かないで。危ないから。」
この上なく完璧に説明した。端的で的確。全部説明しては弟はジッと動かない訳ない。すぐに母に言いつけられ、俺の思い通りにならない。

ここで重大な問題が発覚した。
ガムが全然取れない。口から出してから少し置いたガムが固まり、髪の毛に細かく纏わりついてしまっているから全く綺麗に取れない。

このままじゃマズいと思った。そこで俺が思いついた行動。


俺はそこにあったハサミでガムが付いた弟の髪の毛を切った。


切った髪の毛を小賢しくもティッシュに包めてゴミ箱の一番奥に置き、完全に隠蔽を画策した。よし!って思い、弟の方をパッと見た。このとき長髪だった弟の後頭部は十円ハゲのように一部に穴が開いたようになっていた。

これはマジでヤバい。こうなったら全部俺が切るしかなくね?えっ、でもそうしたら鬼になんて説明する?さっき長髪なのに次見たら短髪?えっ??6歳の子が??絶対俺のせいになるじゃん?
とアタフタしていた。


最後の手段。弟の所為にしよう。

「お母さんに髪の毛のこと聞かれたら、自分で切ったって言っておいて。」
「なんで?」
「いいから!今度俺のおやつあげるから!!」

弟に濡れ衣を着せたのだ。兄はこうするしかなかったんだ。

当然鬼はビックリしていた。急に弟の髪の毛に穴が開いているんだから。無理もない。弟は兄の計画通り自分で切った旨を伝えた。


幾ばくか時が過ぎ、弟は楽しみに取っておいたガムを手に取る。
「あれ!?一個足りない!!」

そう、弟は不甲斐ない兄を対策して自分のガムの数をちゃんと数えていたのだ。


ふと後ろを見たら、鬼がいた。
「ねえ、どういうこと?」




ええ、まあこっぴどく怒られましたとも。

尋常でない怒られ方したね。少しは良識を覚えた今の自分から見ても、流石に引いてる。すごいことしてたんだな、俺。
本当にごめんな。



与太話なんだけどさ。
こっからは誰も知らないんだけど、散々怒られたじゃん?その後、なんか無性にガムが食べたくなってさ。それが我慢できなくて。

もっかい弟のガム盗み食いしたんだよね。

バレなかったのは、流石にすぐにそんなことする訳ないと誰も心積もりをしていないからだろうね。当の俺もやるとは思わなかった。



マジで何してんだろうね。

俺も嘘でしたって言いたいよ。でも、作り話でここまで人間性を堕とした話は出来ないよ。人間は性善説か性悪説かはまだ結論付いてはいないけど、俺は絶対性悪側の人間だよな。


  • ガムを盗み食いしたこと

  • 弟の髪の毛にガムをつけた事

  • 髪の毛を勝手に切った事

  • 弟に嘘付かせて濡れ衣を着せようとした事

  • 散々怒られた後にもっかいガムを盗み食いした事


みんなはどれが一番悪い事だと思う?
俺はなんだかんだ最後にもっかいガムを盗み食いしたことが一番ヤバいと思う。




これから俺は社会人になろうとしている。怒られることはまだまだあるだろう。

だが、確実に言えること。
それは“この行動以上にヤバいことはもうない”ということだ。


俺はもう二度と他人のガムの盗み食いをしない。
そして、誰の髪の毛も切らない。

あの時怒られたからね。




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