恋をしない人生の描き方
NHKの夜ドラ「恋せぬふたり」
本当に良いドラマですね。こんなにアロマンティック・アセクシャルを誠実に描いたドラマが生きているうちに見られるなんて思っていなかった。
恋愛しない側の人間である自分からすると、ドラマや映画では展開を作るために登場人物達にとりあえず恋愛させる、みたいなものが多いなと常々感じていました。他の場面の脚本は作り込まれてるのに恋愛関連のシーンだけ雑だな…とか。これは単純に私が恋愛というものを理解していないからそう感じるのかもしれませんが。
それは置いといて、恋愛しない人ってきっとドラマや映画で描きにくいですよね。展開作りにくいし。だから描かれることが少ないのも仕方がないのかなと思って諦めていたんですが、「恋せぬふたり」はちゃんと“恋愛しない人”であることを明確にした上で面白い物語を作れることを証明してくれました。すごい。
このドラマは主人公2人がアロマンティック・アセクシャルなんですが、性格が全然違う。その事によって、同様のセクシュアリティでも多様な人がいることを描くことに成功しています。
感動でした。“恋愛しない”理由が過去のトラウマでもなく、仕事の忙しさでもない、ただただ自分の心に正直でいたらそうであっただけ。そんな主人公の気持ちを主人公側の視点から丁寧に描いてくれるなんて。こんなにすっと主人公の気持ちが入ってきて、自分と重ねられるドラマを見るのは初めてでした。
これまで恋愛に対する自分の感情を沢山掘り下げて考えてきたつもりだし、過去の経験も昇華できたと思っていたけれど、全然足りていなかったことにこのドラマを見て気付きました。
このドラマはAroAceの人達が無意識に傷つけられてきた場面をギュッと集めたような感じなので、主人公の心情に自分の過去の経験や過去に感じたことを自然と重ねて見てしまった。それによって、あぁ〜あの時私はこんな風に感じてたのか、と発見することも多くて。ドラマで主人公の体験や心情を客観視して捉えることで、自分の経験を掘り下げるだけでは出来ない理解まで達することが出来るのだなと実感しました。ヘテロセクシャルの人はこんな体験し放題なのね、羨ましい!
あとこのドラマ、アロマンティック・アセクシャルの人達の心情を丁寧に肯定してくれるんです。それにとても救われる。例えば、恋愛感情を持つ人達を無意識に傷ついてきたことに対し、咲子さんが罪悪感を抱く場面。カズくんが「そんなこと言うなよ、俺も無意識に傷つけてきたし、お互い様だよ」というようなニュアンスで返答してくれたのが本当に素敵だった。
恋愛感情を向けられた側が無意識に相手を傷つけてしまう場面って、大抵は傷ついた側の心の傷を描くばかりで、傷つけた側は悪者として捉えられることが多かった。だから私もこれまで無意識に恋愛感情を持つ人達を傷ついてきたことに対し、ずっと罪悪感を消せずにいた。
でもそうだよ、お互い様じゃんね。私だって恋愛感情を持たない人の存在を知らない人から、悪意なしに何度も傷つけられてきた。私が一方的に罪悪感を抱く必要なんてないんだよね。お互いこれから気をつけよう、これから知っていこう、それだけで良いよね。そんな風に思えたの初めてです、ありがとう。
セクシャルマイノリティをマジョリティの視点から描き、都合よく消費するだけのような不誠実な作品がまだまだ多い中、アロマンティック・アセクシャルを丁寧に描いたドラマの実質1作目がこんなにクオリティの高い誠実な作品であること、相当ラッキーですよね。ありがてぇ。これを機に、アロマアセクを描いたドラマや映画が増えていってくれるんでしょうか。楽しみだ。
アロマアセクを描いた作品を豊富に見れる時代に生まれた方がもしかしたら生きやすかったかもしれないけど、エンタメオタクとしても、当事者の1人としても、アロマアセクの描き方の変遷をリアルタイムで追えるのは結構楽しみだし、嬉しかったりする。あまり長くは待ちたくないけどね。
アロマンティック・アセクシャルを描いたハッピーなミュージカルが見れる日は何年後かなー、わくわく!