「本当によかったの?」 「おばあちゃんにお嫁さんの顔見せたかったんでしょ。」 「そうだけど、なんだか申し訳ないなって。」 私は今、偽りの婚約者として彼の祖母に会うために車に揺られている。 ただし、この出来事がこれから始まる私と彼の青春群像劇だと思わないで欲しい。 私は彼と四年半付き合いの末、別れを告げられた元恋人であって、これから先の青春群像劇は見込まれないから。 あと、彼が自分から振った元恋人に偽りの婚約者役を押し付けるような最低の男だとも思わないで欲しい。私達
「私って小さい頃から勉強ばかりしていて、あまり恋愛とかに興味がなかったんです。小学校の時はそんなふうでも誰も文句なんか言わなかったんですけど、中学生くらいになったら周りはそういった恋愛の話で持ちきりになるでしょ。特に女子はそうなんです。「時ちゃんは好きな人いないの?」とか「勉強ばっかりしてるからモテないんだよ」とか。でも私、人を好きになるっていう感覚がいまいち分からなくて、高校とか大学に入ったら素敵な人と出会えて、そういう感じも分かるかなって思ったんですけど。でも高校生になっ
長い付き合いの友人に最近の悩みを話した。「君も私とと同じだからこう思うだろう」 しかし、友人からの返事は予想外だった。 「僕はそんなふうには考えないな」 今まで私は気づいてなかった。彼は異星人だった。彼から見ると私も異星人だった。彼と私は元々別の惑星の生物だったようだ。 私は今まで気がついていなかった。この惑星には異星人しかいなかった。誰も私と同じ惑星に生まれた同種はいないし、同じ苦しみを感じている者はいない。同種と思っていた者たちは皆似たような環境で育ち、似たような
ヒロはギター担当、タカはボーカル担当だが、ヒデにギターもボーカルもやらせる訳には行かない。絶対にドラムをやらせるべきだ。 ヒデという名前から皆さんは何の楽器を担当していると思うだろうか。名は体を表すというがヒデは絶対にドラム担当になってしまうという研究結果が近年明らかとなった。 ヒデの本名がヒデのみである可能性は極めて低い。ヒデの本名はヒデアキと考えるのが妥当だろう。ヒデアキがヒデと呼ばれるようになったのは小学生に入り皆があだ名をつけるようになった時、もしくは生まれた時から両
年甲斐もなく肘を怪我してしまった。私は子供の頃からカサブタを剥がさずにはいられない人間だった。その癖を生傷を負わなくなった今では忘れてしまっていたが、大人になっても変わらないことを、この肘の怪我で知った。カサブタが優しく傷を癒そうと育つ度に、その恩を忘れ剥がす。その度により酷くなる傷口。早くこの肘の傷を治さなければいけないと思い、私は何度も己のカサブタ剥がしたい欲と戦った。しかし、見事に全敗した。私の肘の傷は日に日に悪化していった。 今では人には見せられないほど悲惨になってし