いつかの断片 2023.5.10
橋の上に人がいる。
妙なものを見つけてしまったと思うがランニングのコースを変えるほどのことではない。
この世界に絶望する人間なんて山のようにいるだろうし、死はそんなに悪いもんじゃないかもしれない。
ただ、人のプログラムとして死を避けるという機能が標準装備されているだけだ。
オレが走り去るまで飛び降りないでいてくれればそれでいい。
しかし、ことはそう簡単にはすまない。
そこに立っていたのは友梨奈だった。
天使のような顔を持った悪魔。
オレは立ち止まる。
さて、どうしたもんかね。
こいつの才能はタナトスに愛されたせいなのか。
オレは知りたかった。
こいつがなぜここに立っているのか。
面倒になるのはわかっていても、その欲望に抗うことができなかった。
「お前、そこで何やってんの」
「えー、あー、あんた、だれ」
「お前いわく、理佐にはもったいない男だよ」
「あー、あんたか。てかなに、なんでこんなとこにいんの。もしかしてストーカーなわけ」
「お前、そのまま落とすぞ」
「そうしてくれたら私はあんたを好きになるかも」
「死にたいの」
「まぁ、そんなとこかな」
「なんで死にたいの」
「生きてるよりはマシな気がするから」
「生きてるのがきついの」
「質問ばっかうざい。わたしのこと、キライでしょ。ほっといて」
「キライかどうか判断するほどオレはお前をよく知らない。んでもってオレは死にたいやつに興味がある」
「なんで」
「オレは死にたいと思わないから。死にたがるやつのリアルな気持ちを知ってみたいっていう、ただの好奇心だよ」
「変なやつ。キモい。あんたはなんでわたしを止めないの」
「止めてほしいわけ」
「どうせわたしが死ねないって思ってるの」
「別に。死んだらどうなるかなんて誰にもわかんねぇし、今生きてることがきついなら死に賭けてみるのはまぁありなんじゃない」
「死に賭けてみる、か」
「死んだらここよりもっといいユートピアがあるかもしれない。今を生きているやつにはそれを知ることは絶対にできない。死に賭けるって、すげー面白いギャンブルだと思わないか」
「うん、悪くない」