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自分しか変えられないよ

✳︎音声はこちら
(訳あって屋外で録音してます)

今日、福岡の実家に移り住んだ。16歳の愛犬を看取るまでの期間、この家で暮らす。私はこの家にトラウマが数え切れないほどある。

端的に言うと、鬱病の両親の、お皿や刃物が飛び交うような喧騒の中で青春を過ごしたのだ。帰宅前には毎日、自宅マンションの最上階から身を乗り出すのが習慣だった。

そんな私の、微かな「生きよう」を支えてくれたのが、16歳の愛犬だ。その愛犬の最期を見届けたいから、会社を辞めて帰ってきたのだ。
(詳しくは「お願い、私を見て」にて)

いま我が家の毒親たちは、精神的にわりと落ち着いている。それは、父が急性難聴になり、暴れる気力がなくなっているからだ。母はそんな父に「うるさい」と言われないよう、細心の注意を払って生活している。

福岡生活1日目の夕食を終えると、父はすぐに自室に戻っていった。「音のない世界に行きたい」とのことだ。その後ろ姿を見送ってから、母が口を開く。

「お母さんね、ずっと音を立てないように気を遣ってるのよ。お父さんにストレスかけられてばっかり。いつも我慢するのはお母さんなの。私がお父さんにストレスかけることなんて、滅多にないでしょ?」

ああ、そういうところだよ。私は心の中で呟く。母は続ける。

「最近ね、お酒を飲まないと眠れないの。近所の居酒屋にでも行ってこようかな。また太っちゃう、ストレスのせいで。」

外の空気が吸いたいんだね、と私は答える。

「そうなのかも。お父さんは、何か都合が悪いとすぐに耳のせいにするの。全部耳のせい。身体が悪いって言われたら、何にも言えないでしょ。だから、どんどんストレスだけたまるの。」

ぜんぶ病気のせいにするのはお父さんの良くない癖だね、と私は答える。

「そう、そうなの。そういう性格、ぷち子ちゃん治してやってよ!」

ここだ、と思った。私は事あるごとに、「ぷち子ちゃん、どうにかしてよ」と言われてきた。これを全うできず、私は病んだ。同じ轍は踏まない。過去の自分に言い聞かせながら、母に答える。

「人は自分しか変えられないよ。私ができることは、お父さんが気がつく手伝いをすることだけ。変わるも変わらないも、本人の自由。誰にも強制はできないよ。」

母はこちらをキョトンと見て「そうだね」とだけ言った。

そう、自分を変えられるのは自分自身だけだ。誰かを変えようなんて、そんなことする権利なんて、どんな人にもありはしない。

自分が目一杯変わった時、それを見た誰かが変わることはあるかもしれない。その程度なのだ、人が人にできることなんて。

お母さん。直接ではプライドを傷つけてしまうから、ここにあなたへの気持ちを書かせてもらう。

お母さん、辛いね。ストレスを感じるよね。外の空気を少しでも吸って美味しいお酒を飲んでくるの、とってもいいと思うよ。自分に合った形で発散するのは、何にも悪くない。

でもね、被害者意識からは何も生まれないんだ。「あいつが悪い!」「あいつを矯正しろ!」では、事態はきっと好転しないよ。

私はあなたの味方でありたい。でもそれは、お父さんの敵になることではないんだ。自分側なのか、相手側なのか。あなたはそう人を見てしまいがちだね。今まで自分の味方になってくれる人が、いなかったからだろう。

あなたの人生だから、口出しはできないし偉そうなことも言えない。でも、少しでも健やかに過ごせるように、ちょっとだけ首を突っ込ませてほしい

あなたは長年の鬱屈とした生活で、小さく卑屈な人になってしまった。肩を縮めてお酒を飲むことでギリギリ自分を保ってる、そんなか弱い人になってしまった。それが悪いとは、全く思わない。でも、もっと元気で明るい本当のあなたがいることを、私は知っている。

私はスーパーマンじゃない。ただの無職のアラサーだ。でも、あなたが自分の殻に気づくきっかけを、ささやかながら渡していきたいと思う。

私に頼るのではなく、依存するのではなく、自分の足で立って見つけてほしい。自分で歩かない人生は、いつだって死んだも同然なのだ。

生意気な子供でごめん。
でもね、幸せになってほしいんだ。どうせ生まれたのなら、死ぬまで時間があるのなら、楽しく人生過ごしていきたいじゃない。


#エッセイ #毒親 #アダルトチルドレン #どくおやといっしょ #生まれて9684日目

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