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「ない」と言うと増えるもの
僕はいつも、「ない」と言う。
「そんなものここにはどこにもないよ。」
「あるはずがないよ。」
( —————。)
なんて、うつくしいんだ、君は。
甘い言葉、優しい抱擁、とろける笑顔。
それでも僕は、いつも決まっておんなじ僕だ。
「ない、ないよ。探したってむださ。」
ある時、君は無邪気に頷く。
ある時、君は訝しげに覗き込む。
ある時、君は種粒を藍色に染める。
「ない、ないよ。ほんとうに、ないってば。」
そして、君はそとずさる。
無数の背中の残像が、奥の奥に刻み込まれる。
ざざざと音を立てながら、香りを残して塵になる。
ない。ないよ。
ない。ないよ。
こだまの真空が僕を吸い込む。
銀色に映る、僕の顔。
ピンと張った弓が、じくじくと紫色に轟いている。
ない。ないよ。
じくじく、じくじく。広がる紫陽花。
ないよ、ないよ!
じわじわ、じゅわわわ。滲む菫汁。
ああ、ああ。おもい。
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