ムラタのナッハッハ
✳︎破天荒女・ムラタの初登場回はこちら
「誰かが元気ない時、ムラタの家ではどうするん?」
私は辟易していた。過干渉で依存的な母に、疲れ切っていた。
母は、私が元気がないと質問攻めにする。
『どうして元気がないの?』
『お母さんのせいなの?』
『お母さんのせいじゃないでしょ?』
『ご飯美味しいでしょ?美味しい?美味しい?美味しいって言って、美味しい?』
心配しているからではない、安心したいのだ。
私に肯定され、必要とされ、感謝されなければ、自分に価値を感じられないのだ。
だから、聞いてみたかった。ムラタは、私のコンディションがどんなに最悪な時でも、絶対に大笑いさせてくれる友達だ。
「ねえムラタ。誰かが元気ない時、ムラタの家ではどうするん?」
ムラタは黙って考え出した。答えを、待つ。
10秒。
20秒。
30秒。
「まだかよ!!」
『ナッハッハ!』
思わず突っ込む私に、ムラタが高笑いする。そして、ムラタが口を開く。
『うちの父ちゃんと母ちゃんが落ち込むなんて、よっぽどのことやからなあ…。想像付かへん』
私は脳天に衝撃を受ける。よっぽどのことじゃないと、落ち込まないだと!?
衝撃でよろめきながら、ムラタの希望のオムライス屋さんに入る。村田が私に質問してくる。
『崖のとこは、誰かが元気なかったらどうなるん?』
「家の空気が泥のように重くなるよ。あと、私が元気ない時は、お母さんがずっと後ろをついて回って質問攻めしてくる。すんごいしんどいんや。」
私は眉毛を下げ、悲壮感たっぷりの顔を作り、母の声色をマネた。
「ぷち子ちゃんっ、お母さんのことが嫌いなのねっ!!」
『ナッハッハ!!!』
ムラタは楽しそうに笑い、私に何度も母のマネをねだり、その度に『ナッハッハ』と笑った。お笑いの才能があるのでは?と勘違いするくらい、大爆笑をかっさらい続けた。
眩しい、眩しすぎる。ムラタ、お前はすごいな。普通はこんな話を聞いたら、みんな神妙な顔になるんだ。「大丈夫?」って聞く。そして、人によっては私にこう説教をするんだ。
いつか親になれば気持ちがわかる。
親なんだから許してあげないと。
お前の振る舞いがなってないんじゃないか。
親を尊敬しなさい。
ムラタ、お前はどれにも当てはまらない。ただ純粋に、私の話を楽しんでいる。『ナッハッハ!』が脳内に響き渡るたび、私は肩の荷を一つずつ降ろすことを許されたような気持ちになる。
ムラタ、ありがとう。
ナッハッハ、また聞かせてな。
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