音痴が人前で歌ったら #挑戦してよかった
私がチャレンジしたこと。幼い頃から「音痴」と言われてきた私が、おつきあいでコーラスサークルに参加してしまい、人前で歌ったこと。
とはいえ、汗水垂らした努力の日々もなければ、天才的な上達も当然なく。週1回の練習を申し訳程度に重ねて、ゆるゆると発表会に臨んでしまった。
会場は地域の福祉作業所。ステージはない。が、まあまあ広い会議室くらいのスペースにパイプ椅子がズラリ。超満員だ。みんなが私たちを凝視している。思わず息を飲んだ。
ピアノの前奏が始まる。
呼吸を合わせて歌い出す。
その瞬間、目の前で思いも寄らぬ光景が繰り広げられた。
オーディエンスのボルテージはオープニングから最高潮に! 会場は熱気に包まれ、拍手と歓声が鳴り止まない!!
(え、なんのライブレポ!?)
いやほんとにみんながノリノリで、「上手!」「きれいな声!」「すごい!」と掛け声が飛びまくった。まさか私の歌で誰かが喜んでくれる日が来るとは。まあ冷静に考えれば、観客のみなさんがやさしすぎるだけなのだが、その時は舞い上がって「東京ドームのステージに立つってこんな気分なんだなあ」なんて陶酔した。
拍手喝采、大歓声のなかで歌っているうち、またまたびっくりなことが起きた。
涙があふれ出たのだ、私の目から。
うそでしょ。音痴の私が、歌いながら、感極まって、泣、く??
恥ずかしくてさりげなく頰を拭うも、涙はどんどんあふれてくる。するとアリーナ最前のファン(ファンではない)が「どうして泣いているの? とっても上手だよ」と、声をかけてくれた。そのあたたかい言葉に感動の土手が決壊。号泣した。
ほんの数曲歌っただけ、しかも最後の曲なんてしゃくり上げていただけだが、忘れられない熱いライブになった。
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生きていると、我が身の無能さに打ちひしがれ、やるせなさに身悶えする夜ばかりだ。それでもまれにこんな奇跡的な出会いがあって、一筋のまばゆい光が差すこともある。何があるかわからない。
だから、大きな挑戦だけでなく、ふだんとは違う道を通ってみるとか、いつもは注文しないペッパーマヨツイスターを注文してみるとか、そういう「挑戦」と呼ぶに足らないささやかな一歩も、ちょいちょい踏み出してみようと思っている。音痴だって歌姫になれることもあるのだから。
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その後⋯⋯。相変わらず私の歌は上達していない。奇跡の女神は二度目はそう簡単にはほほえんでくれない。調子っぱずれでしらけ気味のカラオケで、マイクを握りしめながら、あのときの感動を反芻する。