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起きたことについて私はたぶん何もわかっていない

電車に乗っていたら、白人系の高齢男性に「この、電車は、新宿に、行きます、か」と、たどたどしい日本語で質問された。「ええ、行きますよ」と、親切を装って答えたが、内心「さっき英語でアナウンスがあったと思うけど?」と思った。

それから「慣れない海外で乗り物は結構たいへんだよね」「そういやアジア人ってことで中国語で話しかけられたりしたことがあったな」なんて、自分が海外に行ったときのことに思いをめぐらせて、ハッと気づいた。

白人だからって英語圏出身とは限らない。「非英語圏出身でも簡単なアナウンスくらい聞き取れるだろう」なんてのも勝手な思い込みだ。それにたどたどしい日本語であっても、「旅行者」ではなく日本で日本語を使って生活していて、単に電車に乗り慣れていないだけかもしれない。私だって国内でも初めての地域を訪れたら、地元の人に確認したくなるではないか。

私が見えているものは薄っぺら


そんなこんなで「勝手な思い込みや偏見はダメ」と自分を戒めていたところ、電車内からホームをパシャパシャとスマホで写真を撮っていた男性がいた。スーツにメガネをかけて、まじめで気弱そうな会社員だ。

すると、サンダル履きで首にも腕にもタトゥーが入った大柄のいかつい男性が、「おい、お前、今ホームにいた女を盗撮しただろ!」と因縁をつけてきた。

車内に緊張感が走る。

「おい、今すぐ消せよ」
「すみません、すみません」
「すみませんじゃねーよ、盗撮したんだろ?」

会社員、ただ風景を撮っただけだよね?

「消せよ」

今すぐ消せばチンピラもおとなしくなるって!

「ホラ、消せよ」

早く消しちゃいなよ。

「⋯⋯あとで消します」

え、なんで?

「なんで『あとで消します』なんだよ」

ほんとだよ、なんでだよ。

「お前、もしかして前も女を盗撮したことあんじゃねーのか?」

いや、それはさすがに⋯⋯。

「⋯⋯前はあります。でも今は違います」

はあ? 「ハア?」(ユニゾン)

「『前はあります』じゃねーよ。スマホ出せよ」

ほんとだよ!

「すみません、すみません」

すみませんじゃねーよ!

「警察突き出っぞ。逮捕はされねーかもしんねーけど、身バレしてお前終わんぞ(みたいなことを専門用語で言ってたが失念)。次の駅で降りろ」

駅に着き、2人は降りていった。車内には、緊張が解けてホッとしたような、それでいて事態をよく飲み込めず胸がつかえているような、後味の悪い空気が漂っていた。

私もそのあと目的の駅に着き、電車を降りた。町を歩いていると、後ろから爆音でパラリラパラリラ的な音楽が近づいてきた。振り返ると、小学生数人が自転車にスピーカーを積んで、暴走族のごとく車道を蛇行していた。

なんだろう。何かがおかしい。全部YouTubeの撮影かな。
9月も後半に入ったというのに、気温は35度。


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