「あなたで良かった」プロ失格の私を救ってくれた花嫁の言葉
ウェディング・プランナーという仕事は、
100%は当たり前で、そこにプラスされた感動を生んで初めてご満足頂けるものだと考えていました。
私は様々な職業を経験しましたが、
今でも天職だと思うのが結婚式の仕事です。
とはいえ、
いろんなことをやらかしています。
今日はその中でも、お客様の前で泣いてしまった話です。
◇
その日は、十何組と抱える担当顧客の中でも
特段私のお気に入りカップルの結婚式でした。
お二人とも20代前半と若く、とにかく素直。
挨拶は気持ちが良く、
ハキハキと話し、
機嫌が悪そうな態度や口調は一度もなく、
いつもお二人楽しそうに
キャッキャと笑ってばかりの数ヶ月間の打合せでした。
本当に愛し合っていることがよく分かるんです。
お互いにお互いを想い合うその姿は、
一緒にいるこちらにも伝播して
私もお二人を大好きになってしまう。
これほどに周りの人まで幸せにする魅力を持ったカップルはそうそういらっしゃいません。
実はこの日、
私はこのカップルの結婚式の日が来てしまって
残念に思っていました。
だってもう会えなくなるんですもの。
*
式の2週間前、最後の打合せの時でした。
ご新婦様から
「実は赤ちゃんができたんです」
との報告が。
その時のお二人の幸せそうで嬉しそうな顔!
照れることもなく純粋に喜ぶお二人に
私も一緒にたくさんの赤ちゃんの話をしました。
最終打合せでは、当日のスケジュール、持ち物、人数、発注している全てのもの、BGMなどを確認し、見積りを説明して請求書の発行をします。
そして新しく入った情報である妊娠に関しても、当日のドレスや着物はお腹や体調を見ながら着付けないといけないことや、当日関わる全てのスタッフにも周知させる必要があることを説明し、ご納得頂きます。
お二人は問題なく確認事項に同意され、
いつもと変わらず
こぼれるような笑顔の余韻を残して帰って行かれました。
私はと言うと。
お二人との打合せが終わってしまったことへの心寂しさなのか、
ご懐妊の吉報と帰り際にたくさん楽しい雑談をして気が逸れてしまったからなのか、
大変なミスを犯します。
衣装部に妊娠を伝え忘れてしまったのです。
*
結婚式当日。
粛々と式は進み、全てスケジュール通りでした。
披露宴ではお二人とも本当に幸せそうで、楽しそうで、
ご友人達もお二人と雰囲気が似ていて、
品のいい盛り上がりがずっと続いていました。
中盤でお色直しです。
ご新郎様は紋付き、ご新婦様は色打掛にお召し替えされ、再入場。
私はそれをロビーで見届けると、
サービススタッフと次の演出確認をした後
別のお客様との打合せのため事務所に戻りました。
打合せの最中、
上司がやってきて私にメモを渡しました。
『今日のご新婦様が具合が悪くなられて一旦退席。
衣装部から呼び出し』
一気に血の気が引いて、
打合せ中のお客様にはお断りを入れ
衣装部に向かいました。
到着早々、
「今日の新婦さん、妊娠してたらしいじゃない!」
一喝されて、気づきました。
(え? 言ってない?
本当だ。衣装部だけ伝えてない!)
なんで?
どうして?
なんで?
なんで?
一人で脳内問答しても意味はありません。
とりあえずその場は簡易に謝罪し、ご新婦様の元へ。
しかし、すでに軽い休憩と着付け具合を直されて
部屋から出てこられたところでした。
私の切迫した表情を見たご新婦様は、
「ごめんなさい。つわりなんです。
ちゃんと言っておかなかった私が悪いんです!」
聞けば、今朝から体調は優れなかったとのこと。
でも式当日だし、みんな喜ばせたいし、自分も楽しみたいし、
半日くらい大丈夫と思ったそうです。
でも…
通常の着物の着付けには耐えられなかったんです。
それは、私のミス。
いつもの笑顔に甘えて、
体調の悪さに気づかなかったのも、私。
お腹の赤ちゃんにもしものことがあったらと
考えたら…どれほど恐ろしいことか。
100%が当たり前で、むしろそれ以上の感動を生まないといけない日に、
私はプロ失格の失態を犯しました。
会場に戻るため、エレベーターを待っている時でした。
自責に駆られて言葉少なくなっていた私の袖を、
ご新婦様がちょんとつまんで言いました。
「私、担当があなたで良かったですよ」
今でも覚えているのが、
それを聞いた瞬間、彼女の顔が滲んだことです。
瞬間的に涙があふれて、止められませんでした。
この人は…
どこまで人を幸せにしてしまうんだろう。
その純粋な笑顔で、情けない私をも救おうとしてくれる。
結婚式当日に、主役本人より先に自分のことで泣くとか、
それこそプロ失格!
ほんっとに情けない!!
ご新婦様は笑っておられました。
にこにこしながら、介添えにサポートされながら会場へ戻られました。
*
その後、滞りなく披露宴は進行し、無事お開きとなりました。
全てのゲストをお送りし、
お二人もお着替えを済まされ、
最後に事務所に挨拶に来られました。
結婚式当日での不手際を、改めてお二人に謝罪します。
何ヶ月も楽しく打合せできたって、
本番が満足いくものでなければ意味はないのです。
結婚式は100%が当たり前なんです。
でも
お二人はいつもの笑顔で「全部楽しかった」と。
「なるさんの顔を見るといつも元気が出ました。
本当に担当がなるさんで良かった。
気を遣ってるわけじゃなくて、本当ですよ?」
真っ直ぐに目を見て、本音を照れずに伝えてくれる。
気持ちを届けようとしてくれる。
誰だって、そんな人には敵わないですよね。
最後には、謝るのではなくて
「ありがとうございます」と言って泣きました。
◇
どんな仕事も、
失敗をして人に迷惑をかけなきゃ成長はできませんが、
自分がその失敗や迷惑を受ける側だったらどうでしょう。
今の私があるのは
それを受け入れ、許してくれた人達がいたから。
中でも、このカップルのお人柄には
未だに何か救われているような気がします。
皆さんの心の中にも、
そんな人はいますか?
自分自身も
そういう人間でありたいと思いますか?
私含め
「そうありたい」と思ってくれる人が多いといいなと
私は思います。
【追記】
当然、大変な理不尽クレーマー花嫁もいました。
恐喝的な言動でなんとしても金をせびり取ろうとするような…。
それはそれで貴重な経験だったなーと思います(笑)