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架空

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私の頭の中に存在するもの
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#創作百合

降雨の中で私を見つめて

(桜雨の中で私を見つけて)

喫茶店には、桜色の燐光が散っていた。
それは天井を通り過ぎる雨粒のような振る舞い、何処へともなく消えて行く。
「ピアスがどこにも見つからない」
ぽつりと彼女は呟く。それは彼女本人とは無関係の独り言だ。
彼女は俯いているが、視界内には常に過ぎ去る燐光がある。光る雨粒は狂気の源泉で、それを見詰めていると、彼女は自分が自分であることを忘れてしまう。
「あいつは音楽を舐めてる

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蟹夢 (単話)

他人の夢ほどつまらない話はないというが、その言明にはあまり同意できない。確かに、整えられた創作物に比べれば、取るに足らない、感情を動かすことができない話にしかならないだろうが、それを言えば世の中の大半の出来事がそうだ。大半の出来事はあまりに個人的で、言葉にしても流されてしまう。

多くの人は、他者と共有可能な話を選別する能力を身に着けている。それが世界の語るに値することの大半だと思っているのか、は

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a_M:N  #1~#4 (完結済)

noteにはR18作品を扱う機能が無いので、取り敢えずpixivに掲載することにした。まあ性描写など無いに等しいのでR15タグ(機能的には無意味)で良いかとなっているが。
#1は以前に書いた文の再掲 。#2が追加したもの。
#3も書けたら書きたい 。#3が完成したら、#4でやることも見えてくるはずだ。その先は知らない。

本当はあれもこれも一つのブログに垂れ流したいと思う質だが、実際はそうもいかな

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幸福の瞬間・天使の口付け・真空に佇む一分子

来那奈月は、悩める幸福な乙女だった。目先の懸案は、年上の彼女である白鷺霊を喜ばせるプレゼントに何を選ぼうという、傍から見れば些細なことだった。その些細さ故に、信頼できる友人らをあたっても、納得の行く解には至らない。馴染みの店は見て回ったし、たまにはあまり行かない所に目を向けようかと考えていた。

そんな折に、数駅離れた大きな書店に立ち寄る機会があった。そこで見つけたのは、銀の栞だった。適度に重量感

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蛙の海に二人、一人

「貴方に助けてもらったあの日を私は決して忘れません。
あの金属の箱に閉じこもり、想像した死の恐怖、そして扉を開いて貴方一人の姿を目にした時の安堵を、今でも鮮明に思い出すことができます。
そして私の途方もない安堵を差し引いたとしても、貴方が私の為に疑似餌を使ってくれたという行為は、絶望的な現状の中で、感謝しきれない程に利他的なものでした。
貴方は優しさを私は尊敬していました。貴方の賢さを私は尊敬して

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