実方と馬内侍のひそかな恋
身内の者が制するので、会わないでいたところ男、
今日の日暮れはどうだろう
どうにかできないのだろうか大井川の井堰は
水も漏れぬほど監視(守)は厳しいのだろうか
返し
大井川の井堰に隠されてる私はなんと惨めなの
今日の夕暮れもどうしようもなくて
あなたに会えないことを嘆くのよ
この歌は、誰と誰の贈答歌か詞書きにはないのですが、実方集と馬内侍集に収められているので、言わずとも明白ですね。
馬内侍の歌集には、多くの公達との歌が収められています。
彼女は、大斎院選子内親王や詮子、定子のサロンでも活躍しています。
恋多き女性と言えば、和泉式部が有名でしょうか。しかし、馬内侍も、なかなかモテるのです。彼女の一番有名な恋人はきらめく大将藤原朝光でしょうか。
そして、内侍の恋人の一人に藤原実方。
彼はなぜか、馬内侍と公然と恋仲にはなれなかったようなのです。
公任の君が去年の春の梅の花(造花か)を、文に挿して私に寄越した。
あの頃に似ている梅の花ですね
と返事をしたところ、
梅の花を見て昔はどうだったかと訝しみました
しかし空の様子が変わってしまうように、人の気持ちだって代わるものでしょう
実方の君がこのやりとりを聞きつけて来た。この文があったのを見て、
うらやましいことだ
都鳥よ もう花は散った跡だったとは
梅の咲く時期を知っていたなら遅れをとったりしなかっただろうに
(公任殿とあなたが恋文を贈り合っていたなんて)
「うらやましい」と本音が吐露できる潔さが好きな歌です。実方は悔しかったでしょうね。それを歌集に載せた内侍は、ただ秀歌がと思ったのか、それとも嫉妬が嬉しかったのか。
藤原公任は、馬内侍に好意をいだいているようですが、馬内侍はつれなかったようです。
これは、馬内侍が他の男と又をかけて関係をもっていることを皮肉られている歌です。
兵衛佐である人と関係があると、世間の人に噂が広まったあと、中将に文のやりとりをしたところ、人が聞いて歌を詠んだ。
柏木は雨も人目も多いからと三笠の山に通うとは
(兵衛佐とは人目を憚って、中将に文を通わすなんて)
兵衛佐は実方、中将は道隆だという説があります。
道隆が少将の頃、馬内侍とは関係がありました。
道隆となにかしら連絡をとることがあったのでしょう。ひょっとしたら、関係は続いていたのかもしれません。
もしそうだとしたら、道隆は、実方より年も官位も上、世間体が悪いことです。会うことも咎められたかもしれません。
冒頭の歌ですが、実方集の中には詞書きが「類なる人~」ではなく「もとつ人ありて、ものいひがたくはべりしかば」となっているものもあるそうです。
さて、いつもの勝手な妄想ですが、「もとつ人」とは元恋人。もし道隆のことだったら?
三角関係をつい妄想してしまいそう。
ただし、藤原道長も兵衛佐であったことがあり、馬内侍と恋仲だったという説もあるので、もしそうならば、中将は道隆、道兼、公任があげられます。
結局、この二人の恋はどうなったのでしょうね。
《参考》
和歌文学大系 / 久保田淳 監修 和歌文学大系54 中古歌仙集(一)