連載小説 魂の織りなす旅路#40/時間⑸
【時間⑸】
「刻まれた時間から自分を守るって、大切なことだよね。」
私がぼそっと小さく呟くと、栞が
「自分を守る?」
と身を乗り出してきた。
「うん。刻まれた時間に身を任せていると、自分が自分じゃなくなっていく気がしてこない? もちろん、刻まれた時間に合わせなければならないこともあるけれど、それだけに始終しているとね。」
栞は大きく目を見開くと、こくりと深く頷き、早口で喋り始めた。
「まさに! まさにそれよ、それ。今の私がそうなんだと思う。きっとそう。毎日刻まれた時間を気にしながら過ごして、私の人生なんなんだろうって。こんな風によくわからないまま私の人生終わっちゃうのかな、なんて思ったりして。
自分のことが全然わからないんだよね。自分が何をしたくて、どう生きたいのかとか。ほんと全然わからなくて。こうして立ち尽くしている間にも時間だけがどんどん過ぎていって、焦燥感だけが募って。」
ここまで言い終えると栞は一息ついた。それから、はちみつ入りのカモミールティーを一口飲み深呼吸すると、すがるような目つきで私に問いかけてきた。
「ねぇ、耀(ひかり)は自分ってなんだと思う? 耀はいつもブレないっていうか、芯がしっかりしているよね。それって、自分のことがよくわかっているからだよね。 ねぇ、自分のことがよくわかるってどんな感じ?」
私はうーんと唸った。私だって、自分のことがよくわかっているわけではない。
「目に見えるものではないから、言葉にするのは難しいなぁ。」
「うん。それはそうだよ。だからね、その目には見えない自分のことがわかるって、どんな感覚なのかが知りたいの。」
栞は自分の椅子をずずずーっと引きずり私の椅子に近づけると、乗り出していた身をさらに乗り出してきた。私は前のめりに興奮する栞を宥めるように、ゆったりとした口調で言葉を選びながら話を進める。
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