連載小説 魂の織りなす旅路#42/時間⑺
【時間⑺】
「確かにそうかもしれない。でも、人生ってそういうもんじゃない? 自分1人で生きてるわけじゃないんだし、自分はどんな風に生きたいのかって疑問は、どうしたって社会と切り離しては考えられないよ。」
「うん。だから、自分を感じるっていうのは感覚的なもので、どういう人生を生きたいかという思考的なものじゃないんだよね。」
「あ、そっか。思考的なものじゃない。自分を感じたいって言いながら、感じるより先に考えちゃうんだな、私は。」
「そうそう。みんなそうだよ。私もそう。だから、こうして時々グランピングに来て、何も考えないでぼうっとして、ゆったりたゆたう自分だけの時間に心地よく身を浸すってわけ。
自分を感じるぞって客観的に自分を捉えようとするんじゃなくて、自分そのものの感覚を鋭敏に研ぎ澄ますっていうのかな。
自分の感覚を鋭敏にしておくとね、世間の刻まれた時間に身を置いていても自分でいられるの。自分の感覚で物事が判断できるっていうのかな。」
栞は乗り出していた身を引き、椅子の背もたれにもたれかかった。
「そっか。自分を感じようって思った時点で、それは客観的な思考でしかなくなるんだね。自分そのものの感覚を研ぎ澄ます。私自身を研ぎ澄ます。
言葉にはできないけれど、なんだかわかってきた気がする。じわりじわりね。ああそういうことだったのかぁって。
ねぇ。しばらく目を閉じて喋らないでいてもいいかな?」
「もちろん。これから寝るまで別行動にしようよ。私もぼうっと気ままに過ごすことにする。」
私はハーブティーの入ったカップを持ち、その場を静かに離れた。カモミールの香りと潮の香り、星の瞬きと打ち寄せる波に魂の波動が共鳴する。身体のあらゆる組織が振動し、物質世界からの解放を感じた私は恍惚とした。
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