連載小説 魂の織りなす旅路#38/時間⑶
「今わかった。だから耀(ひかり)に誘われたとき、ここに来ようって思ったんだ。旅行のために有給を取るなんて、普段の私なら絶対しないのに、行きたいってすごく強く思ったんだよね。行かなきゃって。」
「ちょうどいいタイミングだったんだね。」
「仕事的にはタイミングではなかったんだよ。忙しいのに無理して有給取ったんだから。でも、私的にはいいタイミングだったんだと思う。」
栞は背もたれから体を起こすとカップに顔を近づけ、すぅっと深く息を吸った。
「ああ、なんていい香り!」
感嘆の声を上げる。
「刻まれた時間。それが問題だったんだなぁ。」
栞はそう呟くと、はちみつ入りのカモミールティーを静かに飲んだ。打ち寄せる波。はぜる焚火。不規則なアンサンブルが耳に心地よい。
再び背もたれに体をあずけると、栞はゆっくりと口を開いた。
「星空の時間も刻まれているのかな。」
「人間が刻んだ時間はあるんじゃない?」
「人間が刻んだ時間?」
「うん。この星空も、この海も、私たち人間にしてもね、本来は刻まれた時間に生まれて、刻まれた時間に存在しているわけではないと思うの。刻まれた時間って、人間が編み出したというか、導き出したというか、人間にとっての便宜的なものだと思う。」
「都合上ってこと?」
「そう。共通した時間がないと、やりとりするのに何かと不便でしょ。だから、世界中が同じ時間の刻みを共有している。
でもね、そもそも時間って存在するのかな。時間は、この世界の仕組みを人間が理解して活用するための、ひとつのツールでしかないように思うんだよね。」
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