連載小説 魂の織りなす旅路#37/時間⑵
【時間⑵】
「私も焦燥感に駆られることはあるけれど、周りの人を見ることはないなー。」
「えー、そうなの? 気にならない? 耀(ひかり)の仕事なんて、すごい人がたくさんいそうじゃない。」
「だからかな。すごい人がたくさんいすぎて、そんなのいちいち見てたら、何にも手につかなくなっちゃうよ。」
焚火がパチパチと心地よい音を立てる。
「同じくらいのレベルの人もたくさんいるけれど、そんなの見たところでどんぐりの背比べにしかならないしね。だから、そういうのは特に見ないようにしているの。」
「見ないように? 意識的にってこと?」
「そう。同じくらいのレベルの人って、やっぱり気になるよね。でも、気にしたところで自分のためになるとは思えないし、気にしている時間がもったいないなって思うようになってからは、意識的に見ないことにしているの。」
「なるほどねー。時間がもったいないかぁ。」
「時間って、いろんな感じ方があるでしょ。私は私の時間の流れの中で生きていたいから。」
「時間の流れ、ねぇ。」
栞は背もたれに体をあずけると、無数に浮かんだ星空に目を向けながら、
「なんかさ、人間の時間ってせせこましいよねぇ。」
と呟いた。
「刻まれた時間だからかな。人間の時間は。」
私がそう応じると、揺らめく炎が映る栞の瞳が私を見据えた。
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