連載小説 魂の織りなす旅路#35/書道教室⑹
【書道教室⑹】
悠(はる)さんは、悠江と私に書いてみせながら言った。
「父はね、こんな過去を背負っているようにはとても見えない人なんだ。いつも朗らかで、どんなときも穏やかでね。それは、こういう過去を内包していたからこそだったんだと思ったよ。
父は強い人だ。そして、とても暖かい人だ。僕は日本に来て、父の過去を知ることができてよかったと思っている。」
私はぬるくなった茶碗を口元から離すと、そっと机の上に置いた。そして、僕は僕にできる限りのことを父にしてやれたと思う、という手紙の一文を思い出し胸が熱くなった。
「寛滋(かんじ)さん、この間依頼があった料亭のデザインなんですけど、いくつか書いてみたんです。見てみていただけますか?」
私は机に手をつき勢いよく立ち上がった。悠さんは私の全てをわかってくれていた。だからこそ、気軽にやりとりができるメールやLINEではなく、手紙を書いてきたのだ。
私は悠さんの手紙を持って、時の流れが2人を再会に導いてくれるまで、私の人生を、私のこの2本の足で、一歩一歩踏みしめながら切り拓いていく。
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