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パチスロ半グレ隊 オッチン 1ー1

 パチンコ屋入口の自動ドアが開いて、通称「おっちん」が姿を見せた。
 おっちんは30代前半ながら派手で若ぶった印象の男で、汚らしい長髪をドブの水で洗い、くすんだ青に染めて、ヒマな奴等の視線を集めた。おっちんは気取った歩き方で、「天スロ甘栗」なるスロット台の前まで行くと、ピタッと足を止め、台に睨みを効かせるが如く仁王立ちの構えをとり、独りでほくそ笑んだ。
 ニヤついた嫌らしい表情で椅子に座ると、かっこ良い黒のロングコートを脱いで台の上に投げた。喫煙OKの店なので、おっちんは長過ぎるタバコを口に咥え、安っぽいライターを手にした。しばらくはタバコを咥えたまま、物思いにふけり、男とは何なのかを考えたりした。
 10分ぐらい経ってから、メダルを投入して命がけの闘争にのめり込み始めた。
 おっちんの瞳が光る。おっちんはスロット台と向き合ってる時のみ、至福の時なのだ。友達はいない。だから休日はパチンコ屋に入りびたる。今日は勝てるかどうか。
 無意味にメダルが何十枚か、頭の上から降ってきた。痛がるおっちんは出鼻をくじかれてしまったが、1時間ほど回して一進一退の攻防、というのがおっちん自身の印象だった。おっちんは異常な発汗量に苦しめられ、たまらずにトレーナーを脱ぎ、Tシャツ姿で闘争を再開する。
 灰皿がタバコの山になり、店員を呼んで片付けさせた。おっちんは店外に出て、また戻ってきた時には銘柄の違うタバコを吸い、色々考える。しかし、考えがまとまらないので苛々して、ジュースの自販機を引き倒し、店員に殴りかかった。その間もスロットは回り続け、何故かレバーとボタンは勝手に作動する。おっちんが暴れ続ける間はレア役を引かなかったが、店員に羽交い締めにされて大人しくなったら「中段チェリー」を引いた。おっちんは店員の腕を振りほどくと、
「服にシワが出来る。気安く触れるんじゃねえよ」
 などとスネて、
「……決めてやるか!!」
 と華麗なモーションで3つのボタンを押した。
 見事にも甘栗ボーナスから0.0008118%の確率で突入するイガ栗ラッシュ、25連チャンの後に引き戻し、更に33連で合計58連チャン、メダルは4枚出てきた。
 おっちんは、何故メダルが4枚なのか不思議だった。
 おっちんはズボンとパンツを脱いで近くの店員に詰め寄り、
「ふざけるなよ!!俺を舐めるんじゃねえ!!4枚って、どういうことだ!!」
 と吠えて、小便を漏らした。おっちんから逃げた店員に小便をかけて、ニヒルな笑顔を作ると、
「俺を誰だと思ってるんだ!!バーカ!こんなパチンコ屋には、もう来ねえぞ!!」
 と吐き捨ててかっこ良くパチンコ屋を去った。
 その後、駐車場でアウディに乗り込み、爆竹タバコに火を点けて顔を焦がすケガを負った。おっちんはくそ踊りを踊った。

 
 

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