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感動小説 しょう次郎の気づき 前編
私は、しょう次郎を名乗る舞台役者である。私は生まれ育った町に帰郷して、「昔、俺達が子供の頃は、もっと活気があって、楽しかったよなあ」としみじみ感じるほどに、町はひどくさびれていた。私達が昔利用した小規模なショッピングセンターは、シャッターが目立ち、往年の賑やかさは感じられず。
このあたりは新興住宅地で、私が子供の頃は同級生が多くて、家族ぐるみの付き合いをしているところも珍しく無かったし、小学校に200人の同級生が、仲良く通っていた。
私は大学進学で地元を離れ、紆余曲折あって現在は役者である。
バイトが終わって家でまどろんでたら、当時の同級生から連絡があった。そいつは、かつて住んでいた団地が取り壊されると聞いて、散歩がてら自分の子供と見に行って、町が随分変わってしまったな、などと感慨にふけったらしい。そいつと電話で話をして、
「そろそろ同窓会やらないか?」
と、提案してきた。
私は、「人が集まるのかな?」と不安を覚えた。
都内在住の同級生が何人かいて、そのうちの時間が都合つく者で、同窓会の打ち合わせをすることになった。この時、私の心の不安はワクワクに変わった。
打ち合わせの日、出席者5人はレストランに集まった。
私は最初に着き、一人一人を迎えた。お互いに子供の頃のニックネームで呼びあい、全員がそろった時に全員が………小学生に戻った。その日は昔話が盛り上がり、しばしば打ち合わせが中断した。
私は役者の世界に飛び込んで、売れた経験は無い。
だが、今までの道のりを振り返って、自分の選択は間違っていない、と思っている。
私以外の出席者は、昔から真面目な人達だった。小学校時代の私は、内気な性格だった。そんな私が、現在は役者………全員に「夢を追いかけるしょう次郎の生き方は素晴らしい」と称賛されて、まんざらでもなかった。
「しょうちゃん役者いつまで続けるの?」
「俺は絶対に役者を辞めたりしない。今は売れない役者だが、必ず売れてみせる」
私が宣言すると、全員拍手してくれた。
「しょうちゃんガンバレー」
「おうっ!!日本一の役者になるぜ」
私は元気になった。
レストランにテレビがあって、ニュース速報が流れた。女性アイドルが風呂場で湯船につかり、顔を伏せてうなだれて死んでいたとか。
私は、「俺は売れない役者だから、死んだところでニュースになったりしないんだろうな。情けない………」と愚痴ってしまった。
「そのうち売れるよ」
「しょう次郎、お前は最高だぜ」
「有名になりたかったら、政治家を撃ち殺せ!!話題になるだろ?」
「ハハハハ!!!」
「よし……乾杯するか」
「同窓会が、みんな来てくれて成功すればいいね!それじゃ、乾杯!」
全員で乾杯した。
本当に同窓会は開催されるのだろうか?私は不安と期待がないまぜになり、その日を待った。
つづく