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パチスロ半グレ隊 アチャラ
湾岸道路にスカイブルーのホンダフィットが爆音を轟かせて現れた。
ハンドルを握っているのは「アチャラ」と呼ばれる男だ。
アチャラは現在64歳。
かつては永遠の不良と呼ばれたアチャラも、今は落ち着いており、くだらない喧嘩は卒業している。
しかし、男をやめた訳ではない。
まるで青い豹のようにフィットは猛スピードで街を駆け抜け、コーナリングにおいてはアチャラの卓越したハンドルさばきにより、かっこ良く曲がり、行きつけのパチンコ屋「珍光」を目指してアクセルを踏み続けた。
珍光は知る人ぞ知る名店だ。日曜の昼下りだというのに、客は3人のみ。この店でメダル万枚狙うのは至難の業だ。入口の自動ドアが開き、革ジャンにサングラスのアチャラが姿を見せる。
戦闘開始だ。
まるで血の匂いを求めるように、台に近づいて舌なめずりを始めた。お目当ての台『フカフカQタイプ』の前で立ち止まり、
「ハハハ!!やってやるか!俺を舐めるなよ!」
と笑いながら震える手でクシャクシャの千円札を入れたり出したりするが、機械は読みこまず、
「何だよこれ!!畜生!」
千円札を丸めて床に叩きつけ、屁をこいて椅子に座ろうとしたら椅子もろともひっくり返ってしまった。「何だ!!」とコーフン気味のアチャラがその時見たのは、台が轟音で『フカフカタイム』を告げて画面に誰かのケツがうつり、ケツをひたすら振り続ける893893分の1確率で見られる演出だった。
「おっ、おおっ…これはラッキーだぜ!!」
アチャラはその場で飛び跳ねてバンザイをした。
そして不敵な笑みを浮かべて、自分で考えた『くそ踊り』を始めた。舌をペロペロさせて泡を吹きながら「オッチンオッチンオッチンチン」と3回吠えてフラダンスのようなダンスを踊った。アチャラにしかわからない独自の言葉でブツブツ喋りながらパンツを脱ぎ、また「オッチンオッチン」と唱えて、今度はボディービルのポーズを決めた。
屁をこいて台のレバーをいやらしい手つきでまさぐり、鼻息の荒くなったアチャラが渾身の力をこめてレバーを叩いた!!「ポヨヨン」とやかましい効果音が店全体にけたたましく鳴り響き、アチャラは第1ボタンを素早く押す。
第2ボタンは舌をペロペロさせて、舌先で押した。
第3ボタンはもったいつけてチン棒の先を押し当てて、店員に見咎められてしまったため、店員をアッパーカットで殴り倒し、喧嘩を止めに入った他の店員も次々とぶっ飛ばして、近くに置いてあった脚立でパチンコ台を叩き壊し始めた。
「これでわかったか!!俺を舐めるんじゃねえよ!!」
アチャラは言うだけのことをいうと、鼻歌を決めながら店の外に出た。ホンダフィットに颯爽と乗り込み、「行くぜ!こんなクソ店にはとっととおさらばするのさ。チャオ!」と言って走ったら駐車場の車何台かにぶつけて、ニヤニヤ笑みを浮かべながら、「ウ、嘘ォ〜。ぶつけちまったよ、どうしよう…」などと泣き出した。
黄昏の夕日に向かって、アチャラは200キロ近くのスピードで爆走した。夕飯は牛丼とハニートーストのどちらかにする予定だったが、しらすイクラ丼の並盛にした。