河野犬郎
汚らしい顔の政治家が朝から寿司を食べていた。寿司を握るのは70過ぎの老婆で、頬骨が異様に出っ張り、客に芸能人の悪口を吹き込み、1人で喋って1人でケタケタ笑う変な人間だった。
犬郎と名乗る政治家は、ここで朝食を済ませる事が多い。暖簾をくぐって、「おはよう!」と威丈高な態度で現れて、老婆をニヤリとさせる。
いつもカッパ巻しか頼まない。老婆は舌打ちして腰を上げ、背中を叩きながら冷蔵庫に向かう。作り置きのカッパ巻を犬郎の前に置くと、老婆は倒れ込み、
「大次郎!大次郎!」
と息子の名前を口にした。
奥の部屋から大次郎が糞を漏らしながら姿を見せた。40歳くらいのおじさんで、右手にホットドッグを持っている。
犬郎は思わずむせ返り、食ってる最中の冷えたカッパ巻を吐いて、
「君が息子か?」
と聞いた。
大次郎がにじり寄って、犬郎は逃げた。そして、トラックに轢き殺されそうになったが、常日頃より鏡に向かって練習している「凛々しい表情」を運転手に見せると、運転手は笑顔になり、犬郎を轢き殺した。
食いかけたカッパ巻は野良犬が咥えた。その瞬間、野良犬は画びょうを踏んだ。