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叫び声

 草むらの中から狸が顔を出して何かをうかがっている。獲物を見つけたのだろう、再び隠れて、それを竹中が笑みを浮かべて行方を目で追うが、見失ってしまった。竹中は経済学の権威と一部で崇められた男で、竹中自身もボクは優秀なオピニオンリーダーとうぬぼれている。そんな竹中に、某国より連絡があった。それは、竹中はもう利用価値が無く、色々と秘密も知っているので、今日殺害するとの物騒な予告だった。
 竹中は驚いた顔で立ち上がり、何故ボクが殺されなければならないのか、泣きたい気持ちになった。かつて、某国で竹中はアホコーマン教授に学び、今の自分が存在するのは教授のおかげと思い、崇拝している。直接連絡してきたのは、教授と関係の深い政府系シンクタンクの◯◯氏だった。
「あいつらめ、ボクの命をとれるもんならとってみろ!畜生」 
 竹中はマンションの地下駐車場におりて車に乗り込んだ。ハンドルを握りしめて、涙目で、
「ウ、嘘………」
 と自分を使い続けてきたアホコーマン教授に不信の念を抱き、車を発進させた。
 車は地上に出て左折、竹中の経営するダミー会社の事務所に向かった。事務所のフロアには何も置いていない。竹中は、まず事務所の窓を全て開けて、
「ボクが竹中だ!!用がある奴は、ここに今すぐ来い!!」
 と怒鳴り散らし、
「やっぱり来るな!絶対に来るんじゃない」
 と付け加えた。
 フロア内を腕組みしながらグルグルと「どうしよう……」とつぶやいて歩き続けた。
 汗をかいたので服を脱ぎ、全裸になってまた歩き続けた。
「もう自殺するしかないのかな!!」
 竹中屁い蔵はフロアに寝ころんで天井を見つめた。
「ボクは包茎だ!!ボクは和歌山の田舎ものだ!ボクは本当に終わりだ!!!」
 と笑いながら怒鳴った。
 ボクの人生って何だったんだろう。むくわれない。子供の頃から本当に努力してきたし、結果を示した、と思う。一生懸命やってきて、最後は大きな権力によって殺されるのかと思うと、自分がかわいそうで可愛くて、コーフンしてきたぞ!!!わかったぞ。ボクって………悲劇のヒーローなのよね。全てがどうでも良くなってきた。あ〜あ、負けた負けた。この竹中屁い蔵、ボロ負けのコールド負けです。………やっぱり死ぬのは怖い!お願い!殺さないで下さい。今までさんざん使い走りやってきて、ボクには利用価値あるはずなのに。
 竹中は寝てしまった。
 二人のヒットマンが侵入して、竹中を見下ろす。
 ヒットマンの二人はどちらも表情を変えず、拳銃で竹中を撃ち殺した。
 これでもかとばかりに、無数のタマが竹中の体にめり込んだ。
 ヒットマン二人は顔を見合わせて、鼻の穴を広げ、笑おうとして泣きじゃくった。朝飯で食った牛丼がおいしくなかったのだ。たぬきうどんが食べたくなった。

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