もう一つの視点002‐トイレの神様‐
「ドンドンドン!」
ノックをする手に自然と力が入ってしまう。なんでこの階の女子トイレはひとつしか個室がないんだろう。トイレの神様がいて助けてくれるなら、今すぐその宗教に入信してもいい。お布施もバンバン払う。
「ドンドンドン!」
少しでも便意を紛らわすために違うことを考えよう。そういえば、もうすぐカレシの誕生日だ。プレゼントどうしよう。うーん、香水なんか・・・。うーん、こうすい・・・。もう思考が勝手に便意を促しにかかってきた。
「出る・・・」
「ドンドンドン!」
すごい勢いでノックされている。扉の向こうの人にも事情があるように、私にも出るに出られない事情がある。急にやってきた便意は、急に家に来る義母くらい迷惑だ。
「ドンドンドン!」
切羽詰まってきているのがノックの音だけでもわかる。このトイレに入る前の私と一緒だ。いや、今の方が切羽詰まっている。なんで、この階は女子トイレしかなかったんだ。仕方ない。私は背広を羽織り、扉の鍵に手をかけて腹を決めた。
「出る・・・」