21-場を見える化する力(4つの手法)
どんな領域のファシリテーターでも求められる最低条件的な必須スキルとして「場をみる力」「場を見える化する力」「場を転じる力」がある。
コラム(FA17-20)においては「場をみる力」として「一人一人の意見・反応・雰囲気を的確にキャッチする」ために必要な対人関係の方法(何を訊き、どう聴いて、どこを観る)について述べてきたわけだが、”複数人の人が同時多発的に意見や反応が出る”場を整え、無駄な衝突や対立を避けながら、問題意識や目標の共有をはかり、ゴールに向かって進めていくためには、「場を見える化する力」が必要不可欠になってくる。
今回以降のコラムでは様々な「見える化するスキルと方法」についてだけでなく、どう使い分けていくか、依頼する際にはどんなところを気をつけるべきか、といったところまで述べていきたい。
・そもそも「場を見える化」ってなんのため?
先ほど「無駄な衝突や対立を避けながら、問題意識や目標の共有をはかり、ゴールに向かって進めていく」と述べたように、「①問題意識や目標の共有」は言わずもがな、だろう。そして「②議論の空中分解を防ぐ」ということもよく言われることである。ただ、「議論の空中分解を防ぐ」=「議論の構造整理」と思われがちだが、個人的には”雰囲気の見える化”をした方が適している場面もあると思っている(市民参画系やジェンダー系、福祉など対人にまつわる場やプロジェクトなど)。
一方、実は最も重要な効果と思われるのが「③思考を対個人から対議論」の部分だ。見える化することで、参加者の見る方向が発言者から書かれたものに向かい、異なる意見を言っても、不思議と対立的な雰囲気は避けられる傾向がある(もちろん、対立意見も構造化を施し、何を見ているから、どう違うかを位置付ける必要はあるのだが)。そして結果的に「④議事録を補完する役割」に活用できる。”補完”というのも、見える化した成果物を議事録代わりに使えないか、色々と試してきたが、やはり様々な意見が発散されたり収束したりするものをまとめているため、会議その場では議事録のような納得度の高い記録物になるのだが、時間が経つと「結局、どうだったかなあ」と思い出すのに時間がかかることが多い。やはり議題の結果を整理した議事録は改めて整理しておいた方がいいと最近は思っている。
・では何から学んでいけばいい?
「見える化」のスキルを向上させたい人に色々進めてきたし、その都度流行り廃れもあるが、(自分で実践したり、できる人と組んで現場を手がけてきた)体験をしてきて思うところは、「どのスキルも一人前に使いこなせれば、特にどの手法を使おうが大差はない」ということだ。ただ向き不向きがあるような気はしていて、どれを学ぶかは個々の直感や相性だと思う。ただ、大きく分けて4つのタイプに分かれる気がしている。
①書いたものをその場で切り貼りして、直感的かつ論理的に構造を見つける即興派
②目的に応じた考え方を図と論理的思考で考える理論スナイパー
③論理的思考、理屈的なことよりも感受性で人の話を聴く共感タイプ
④理系文系はさておき、絵よりも文字を書くことで考えを整理するコツコツ派
本は4冊だが、タイプ別に紹介する見える化の手法を簡単に紹介していきたい。
※あくまでも私見
①書いたものをその場で切り貼りして、直感的かつ論理的に構造を見つける即興派 / 川喜田二郎『発想法-創造性開発のために』
KJ法と言えば、模造紙と付箋を主に用いる手法だ。「あー、行政が手がける市民ワークショップで見るやつね」と思い浮かべるかもしれないが、ほとんどの場合、キーワード毎に分類しているような”整理法”止まりであることが多い。本来のKJ法とは程遠い。本来の狙いは「相互に比べることのできない異質の一組のデータから、いかにして意味のある結合を発見することができるか」である。上記図のように島同士の相関性や位置関係をあれやこれやと動かしながら、新たな意味やつながりを見つける/気づくことに本来の意味がある。
KJ法は単語と単語をグループに分ける際の独特な嗅覚や位置関係を色々動かすため、型に縛られるよりも自由にアレンジと即興で考えることが好きなタイプに向いていると思う。
ただし、KJ法は独特の図式になることが多く、編集して導いた根拠と仮説が多くの人に理解されるのには時間がかかるし、共感を得ることも中々難しい。編集過程に立ち会ってもらうことで(なんなら、一緒に手がけていくことで)、初めてインパクトが残せる手法とも言える。
KJ法は特に未知的な状況に対し有効だろう。困惑だけが先行した状況で手がかりもない場合は、まず付箋に書き出しキャッチするだけに集中する。その後、徐々にグルーピングしていくことで問題が明確になっていく。
②目的に応じた考え方を図と論理的思考で考える理論スナイパー / 堀公俊『ワクワク会議』
KJ法のようにゼロから位置関係や関連性を見つけていくのは、どうしても時間がかかるし、まとめていく過程で求められている問いに仮説や発見がずれていくことはままある(だからこそKJ法が魅力的であるのだが)。また、ある程度KJ法を重ねていると一定の型も生まれがちだ。そのため、ビジネスマン向けの本では、目的別に数々のフレームワークが紹介されている。
ロジカルツリーや数々のフレームワークは、目的や解きたい課題が明快な時に用いると、本当に切れ味鋭く端的に仮説や発見が浮かび上がる。フレームワークの難しいところは、フレームワークを用いるから課題が整理・発見・仮説ができるのではなく、むしろ課題に応じたフレームワークを的確に選び・操れるかにかかっている。
そのため、困惑する状況に直面した時点で「原因はこれだろうな」と課題を見立てる先見性と論理思考が求められる。冷静に対象を観察することと考えることが好きな人には向いている手法だろう。
ただあくまでも目的に応じた型のため、結論の幅が限られているとも言え、発想のハネ感は少ないように感じる。また「何が問題かわからないのが問題」と言った未知的な状況にはほとんど機能しないと言ってもいいだろう。課題が把握できており、限られた時間で平均点以上を出したい時には適している。
③論理的思考、理屈的なことよりも感受性で人の話を聴く共感タイプ / 清水淳子『Graphic Recorder -議論を可視化するグラフィックレコーディングの教科書』
KJ法やフレームワークの図式化から一転、イラストや色使いが多様化されることがグラフィックレコーディング・グラフィックファシリテーション(以下、”グラフィック”とまとめる)の特徴だろう。
私はKJ法やフレームワークを用いる方が理解しやすいのだが、世の中には、図にすると却って理解しにくい、という人もいる。また状況や情感まで含んだ情報を伝えたい時には、図式では限界があり、グラフィックで伝えた方が何倍も早い場合がある。グラフィックが優れている点は、議論のポイントを論理性に加えて当事者たちの心情も含んでいることだ。フレームワークで課題に対する取り組みへの優先順位が導かれたとしても、実際に手がける人たちが納得して実行できるかはまた別問題だ。そのため、発言者の表情、声のトーン、感情を表現していくことで、思わず本音や抑えていた気持ちを引き出すことで納得感の高い結論を導き出す。
図式より文字より絵で考えた方が理解しやすい、という人にはもちろんの方法だが、人の表情や声のトーンなどの非言語情報も受け取ってしまう感受性が高い人にも適しているだろう。
ただどの発言を描くか、どう描くかと言った部分は、他の見える化の手法よりもグラフィッカーの身体と心情を通るので恣意的になる危険性を孕んでいることは自戒しておかねばならない(基本全部描く、が基本ではあるが、やはりどうして難しいのは間違いない)。それに加えて、比較的発散型の手法なので、収束の軸に向かっていく時の論点や問いの投げ方がKJ法やフレームワークに比べると難しい。(もちろん、それを防ぐために目的に応じた型も増えてはいるが、フレームワークと共通して発想のハネ感、結論の幅も課題であるだろう)
しかしながら、関わる人をエンパワメントしていく手法としては、他と比べても抜きん出ているのは間違いない。
④理系文系はさておき、絵よりも文字を書くことで考えを整理するコツコツ派 / ちょんせいこ『元気になる会議-ホワイトボード・ミーティングのすすめ方』
「見える化」スキルの中でもバランスいいのがホワイトボードミーティング(R)かもしれない。図式でもイラストでもなく、ひたすら言語化による見える化を施し、議論の発散と収束を狙う。
KJ法やフレームワークは発言の主旨が端的に表現されすぎて、表面的な情報への解釈が一人歩きする危険性があり、グラフィックはグラフィッカーがいくらフラットな心構えでキャッチした情報を描いたとしてもフィルターを一旦通るため、みる人はグラフィッカーのフィルター越しで描かれたものを眺めて発言していく。
それに比べてホワイトボードミーティング(R)は発言に第一階層・第二階層・第三階層があると独自の定義を行い、3回ほどオープンクエスチョンを繰り返すことで情景レベルまで聴き、それを書く。そのため、発言者一人一人のコンテクストが「見える化」されるだけでなく、全員が深く聴けることも特徴である。
またホワイトボードミーティング(R)は三色で意味合いを変えており、黒:発散、赤:収束、青:活用というように分けており、多くの情報の中から何をどの順番で見れば、議論の流れが明快にわかることがとても優れている。イラストも図式化よりも、文字を書くことで考え方を整理することに慣れている人は向いているかもしれない。
ただ、ホワイトボードミーティングも言葉のみで進めていくので、発散の後の収束への問いかけ方が非常に難しく、何を持って収束の軸に立てていくかはファシリテーターの技量(議論の道筋への見立て)がかなり重要となる。もちろん、メソッドとして問いかけの例、会議のバリエーションに応じたやり方もあることにはあるが、「見える化」する技術以外に、現場の経験値が重要になるであろう。
・まとめ(実は”いかに書く・描くか”ではなく、”何をみるか・きくか”)
「場を見える化する」スキルとして代表的な4つを紹介したが、それぞれに一長一短というか、それぞれの良さと難しさは伝わっただろうか。それぞれ特徴も違うので「どう書くか・描くか」は重要なのだが、結局は「場の何をみるか、声をどう聴くか」が何より重要になることが伝わったかと思う。さらに難しいのは、「そこから何を見つけるか、気づくか、訊くか」という部分である。「そこから何を見つけるか、気づくか、訊くか」は「場を転じる力」と位置付けているのでここでは言及しないが、では、「見える化」する目的も手法もわかったが、何を気をつけてどう取り組んでいったらいいか、ということを次回以後は述べていきたい。
また、ファシリテーターとして「場をみる」人と「場を見える化する」人は、分けた方が難易度は下がるため、私も時折タッグを組んで場に立つが、その際、見える化する人とどのようなやりとりをしているか、ということを経験の中から述べていきたい。