タガタメ
「子供らを被害者に加害者にもせずに この街で暮らすため まず何をすべきだろう」
サビのフレーズに強烈な印象を持ったのを覚えている。それはジャパンポップス界の代表的存在、Mr.Childrenの『タガタメ』という渾身の願いが詰まった楽曲だ。
確か当時日清カップヌードルのCMに採用されていたと思う。ちなみに出だしの「ディカプリオの出世作」が、なかなか聞き取れずイラついた記憶が懐かしい。
そして現在、そのタガタメに記された詩の言葉の威力を前に、ただなすすべもなくいる。
それはとある暴行事件だ。事件の詳細は控えるが、朝のニュースの何番目かに報道されるような類の、いわゆる酒が絡んだ傷害事件だ。
傷害事件のため、当然そこには『加害者』と『被害者』が存在する。被害者はその暴行で重傷を負ったという。路上での喧嘩が災し、被害者が夜の硬いアスファルトに叩きつけられてしまったようだ。
『加害者』は容疑者として逮捕され、その後自分の犯した罪を認めた。各メディアも一斉にそれを報じた。それと同時にネットニュースに集まるコメント欄は、加害者に対するこのような声が多く目立った。
「もうクビにしてほしい」「人間失格」「見た目通りとんでもない男」「ネットで叩かれても被害者ヅラできない」
もしも。
もしも自分の愛する誰かが『加害者』になってしまった時、同じように鋭利な言葉でもって糾弾できるだろうか?
そしてもしも、ほんの少し何かが違っただけで自分が『加害者』になってしまった時の、凍えるような灰色の世界を想像できるだろうか?
事件そのものを目撃した訳でも無く、また加害者の人となりを知っている訳でも無い。
批判ならば「やった事に対する意見」であるべきで、それに対して上記のような声は「加害者に対する一方的な中傷」ではないのか。
人間失格とは一体誰が何を以って判断できる事なのだろうか?人は誰の上でもなければ下でもない。
この事件の加害者を擁護しているのではない。どんな理由であれ、相手に大きなケガを負わせてしまったことは事実であり、それは罪に問われて然るべき問題である。
大変辛い思いをした被害者の方には、心身ともに一日でも早い回復を願ってならない。
しかしこの事件のみならず、現代において驚くほどのスピードで駆け巡る意思を持たない凶器は、一人の人間のすべてを終わらせてしまう事だってある。私達も様々な形でその惨劇をこの目で見てきたはずだ。
偉そうに言える程の人間では決して無いけれど、どうか目や耳にした情報をそのまま受け取らずに一度立ち止まって、「真実かどうか」「自分ならどうか」をよく見極めてほしい。
検証した結果、受け取った情報が正しい事もあれば、真実が雲間に隠れて見えない事だってあるだろう。
私達の愛する世界を、これ以上悲しい色で重ねる事など無くなるように。
そのために今私たちは何をすべきだろう。誰がために。
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