DXにおけるスタートアップの事業機会(導入編)
こんにちは、グロービス・キャピタル・パートナーズの中村です。
20年の6月から現在キャピタリストとしてスタートアップへの投資と経営支援をやっております。現職に就く前は、素材メーカーで新事業を(立ち上げからグロースまで)、戦略コンサルティングファームで製造業を中心とした新事業策定/立ち上げ、中計策定、全社構造改革、M&A支援等のプロジェクトをやっておりました。
withコロナの真っただ中にVCに入ったということで、コロナで加速するであろうDXを題材に、DX文脈でのスタートアップの事業機会というテーマで考え方の整理をしてみたいと思います。
DXがスタートアップにとってどのような事業機会たらしめるのか?これらの視点を持って産業のDXに関連するビジネス構想をお持ちの方に何らかの気づきを出せればと幸いです。
”産業のDX”全体像
・with/afterコロナは産業単位でDXを加速する好機
・スタートアップにとって”産業のDX”が事業機会
・産業のDXにおけるスタートアップの戦い方は2つ
with/afterコロナは産業単位でDXを加速する好機
ここ2-3年でバズワード化しているDXですが、コロナによる環境変化はDX推進における好機であると共に、スタートアップにとっても大きな事業機会になりうると考えています。
実感としても、”分かっているけど踏み切れなかった状況”から、”やらざるを得ない”といった意識変化が各所で拡がっているように思われます。
巷では”コロナは3-5年デジタル導入を早めた”と言われてますが、以下理由から中長期で見据えていたDXが加速したと捉えても過言ではありません。
■コロナショックは国境、産業、業種・業態、規模を問わず、非接触・非移動という物理的な制約を社会・産業に課した
■ 制約により社会広範にもたらされた「顧客の行動変容」は、産業・企業の変化適応を要求する格好となり、結果DXを促す役割を担う
■ この大きな制約・変化が産業のステークホルダーに等しく影響したこと
で「変化の足かせ」となる制度や商習慣をも乗り越えうる流れが発生
参考:DXに関心の高まりはコロナ後で倍増
(Googleキーワード検索:"デジタル・トランスフォーメーション")
6月に実施されたインターネット調査で、「コロナ以前には戻らない」が約6割との回答が出ており、変革の必要性を感じている企業人が多いことが伺えます。
https://www.sbbit.jp/article/cont1/39504
スタートアップにとって”産業のDX”が事業機会
今回DXを取り上げた目的はスタートアップにとってDXは間違いなく事業機会だと思うからです。これには、大きく3つ理由があります。
1) スタートアップは既に”時間のアドバンテージ”を持っている
2) デジタルは”資本からデータ”という従来の競争原理を覆し(今のところ)平等な機会をもたらす
3) 現代版ゴールドラッシュのリーバイスのポジションを狙える可能性
1) スタートアップは既に”時間のアドバンテージ”を持っている
DXをどのように進めるか?ググると色々な記事が出てきますが、「産業変革を仕掛ける前にまず自分が変わらなければならない」。ここが大企業が直面する非常に大きな壁です。エスタブリッシュな大企業であればあるほど、磨き込まれたオペレーションはトップから現場まで徹底されており、組織の階層とレポート・ラインが複雑です。この組織の変革を本気でやろうとすると当然大手術が必要になり、その分社内だけ推進するのは大変難しい大仕事になるわけです。
日本では17-18年頃からDXがテーマアップされていますが、大企業がDXで成果を出そうとすると、5年、10年はたまたそれ以上の時間を要すことになります。これは市場に新たに入ろうとするスタートアップにとって大きなチャンスになるわけで、初めから「時間のアドバンテージ」を持っていると言っても過言ではありません。レガシー産業であればあるほど、デジタルによるインパクトの大きさと時間的なアドバンテージが効き、金脈が眠っている可能性があります。
(スターウォーズ的に言うとデス・スターとXウィング・ファイターのような感じだと思っています。※あくまで縮尺的なイメージです)
尚、少し古い情報ですが、17年に出たベインのレポートに「DXで満足のいく結果が出ているの企業は5%」と記載があります。現在でいうともう少し高い気がしますが、これは「DXは難しい」とも言えますが、「結果が出るのに時間がかかる」の方が正しいと解釈できると思います。
2) デジタルは”資本からデータ”という従来の競争原理を覆し(今のところ)平等な機会をもたらす
DXは「顧客最適」を目指す中で、変化・再定義すべきものがあればメスをいれるものなので、良く用いられる「ディスラプト」という表現は既得権益側の表現になります。
ここで重要なのが、従来参入障壁になっていた産業構造や、資本による競争原理がデジタルでひっくり返りうる環境になっているという点、更にそれは産業軸では(今のところ)平等な機会をもたらすという点です。なので、産業のDXにおいてまず考えるべきは以下3つの問いです。
■ 産業構造上今までは解決できなかった顧客のペインをデジタルで解消できるか?
■ その解消は、その製品/サービスの提供価値の何を変化させるのか?
■ これを仕組みとして回すために何が必要不可欠か?
既にデジタルの上流はGAFAMのような米国系メガITプレーヤーが牛耳っていますが、産業単位見るとデジタルによるDX機会は多く残されています。
3) ”ゴールドラッシュのリーバイス”のポジションを狙える可能性
産業でDXが発生する際、様々なポジショニングの取り方が考えられます。当然、自動車産業におけるTeslaのように、クルマそのものを変える戦い方もあります。ただしこの場合、デジタルだけで戦えない側面が多分にあり、特にハードウェアが関係する世界では資本力が量産局面では一定必要になってしまいます。
そのため、スタートアップとして取り組みやすい方向性が「ゴールドラッシュのリーバイス」です。
"リーバイ・ストラウスは、ゴールドラッシュに湧く米国サンフランシスコに、ドイツからの移民としてやってきました。リーバイ・ストラウス&カンパニーの前身となる雑貨商を開業した彼は、金鉱で働く人々の声を聞き、キャンバス地を使った丈夫なワークパンツを商品化"
これをDXに捉え直すと、ゴールドラッシュ=デジタル化で、ジーンズはデジタル化に伴って必要となるオペレーションをさします。もう少し具体的にいうと、提供価値に直結する営業や開発、製造といったコア・ビジネスプロセスと、組織及びインフラとして必要となるサポート・ビジネスプロセスに分かれます。
スタートアップの事業機会、2つの方向性
これらを踏まえ、産業のDXにおけるスタートアップの事業機会を大まかに分類してみたいと思います。大きな方向性として、A)新しいビジネス・バリューを作りに行く産業のゲーム・チェンジャーと、B)既存プレーヤーのDXに必要なケイパ・ビリティの補完に寄与するキー・ファンクションの方向性に分かれます。
A) ゲーム・チェンジャー(プレイヤー)
既存市場の変革でスタートアップがゲーム・チェンジャーとして新規参入する場合、既存プレーヤーと真っ向勝負は資金面や摩擦を生みハードルが高いことから、デジタルが優位に働き、顧客のペインが大きいセグメントに絞って参入することが一般的です。
具体的には、プラットフォーマーとして既存プレーヤーにも価値を提供し共存しつつ、独自の価値・収益モデルを築くことが参入パターンとしての王道です。
B) キー・ファンクション(サポーター/イネーブラー)
B-1:コア・ビジネスプロセス
コア・ビジネスプロセスは開発、調達、営業、マーケティング、製造、CSといった製品/サービスに直結する機能におけるオペレーションを示します。これらオペレーションは提供価値そのものに直結し、産業・企業の個別性が一定存在します。
コア・ビジネスプロセスの中でもDXにおいて特に重要なのは顧客チャネルです。顧客や消費者の動態をデジタルで把握管理し提供価値を磨き込む/創造する上で、如何に顧客チャネルを上手く構築するかがDXの勝負の分かれ目といっても過言ではありません。故に、顧客チャネルを構築すること自体がサービスとして大きな価値を持つといえます。顧客接点に関しては、DXでも重要な論点なので別途深掘りします。
B-2:サポート・ビジネスプロセス
サポートビジネスプロセスは経理、総務、人事、法務といった間接部門が中心となります。主にコスト削減、生産性向上といったテーマが中心になるため、DXの中でも提供価値への貢献は間接的になりますが、働き方や従業員エンゲージメント(EX)の観点においては重要な役割を担います。
重要な点としては、従来オーダーメイドの基幹システムを活用していた企業各社が、効率性が求められる業務は外部パッケージサービスを活用するといった潮流が既に進んでいることから、スタートアップにとってまだまだ事業機会を狙う余地があるといえる点です。
立ち止まって考えたい自社の提供価値
”DXのキー・ファンクション”ではなく”ITツール化”していないか?
DXは従来型のIT・システム導入と混同されることが多いようにしばしば見受けられますが、実際はその目的とアプローチは全く異なっています。DXとしての価値を持つ製品/プロダクトが導入顧客にとっての価値に繋がるため、提供価値が顧客から見てどのように捉えられるか再考することをお勧めします。
→うちの製品はつまり「XXX」に貢献する製品なんです。XXXがDXにはまるかどうか?
IT化の目的は、デジタル導入による既存ビジネスの維持・強化・拡張です。そのため、これらの前提として既存の業務プロセスを「是」とし、その改善にデジタルを導入するという点が特徴です。つまりカイゼン思考が出発点になります。
■特徴1:既存の業務プロセスを是としたカイゼン志向
■特徴2:最適化のための大規模カスタマイズ・システム開発
対してDXは、顧客に対する価値創出が目的のため、提供価値そのものの定義付けをし、変革・創造を見据えたデジタル活用が基本思想になります。また、昨今のデジタル前提の市場・競争環境では刻々と前提が変化することから、業務プロセスのコア/ノンコアを峻別しつつ、外部リソース(既製サービス)を積極活用しながら業務プロセスの機動力を上げることが不可欠です。
■特徴1:あるべき業務プロセスを再定義し、取捨選択と再構築
■特徴2:機動力確保のためのノンカスタマイズ・パッケージ活用
→なので、自社プロダクトが「顧客の業務プロセスをどのように変え、それがコスト効果以外にどのような意味を持つか?」という問いも、プロダクトの位置づけを確認する上では必要になかと思います。
次回はもう少し具体のに事業機会例をご紹介し、そこから導かれるB2BのDXにおけるスタートアップの戦い方の解像度を上げていきたいと思います。
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中村達哉 @ Globis Capital Partners
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