ルノワール_イレーヌ_カーン_ダンヴェール嬢_可愛いイレーヌ_

『至上の印象派展~ビュールレ・コレクション~』に行ったら本当に至上の作品ばかりだった

六本木にある国立新美術館で開催されている『至上の印象派展~ビュールレ・コレクション~』に遅ればせながら行ってきました。

スイスの実業家だったビュールレ(1890~1956)が築き上げた莫大な財産を惜しみなく使って、印象派絵画を中心に収集した美術作品約600点の中から厳選された64点が公開されています。まさに精華と呼ぶにふさわしい名品ばかりです。知っている絵もあれば知らない絵もあり(まぁほとんど知らない絵ばかりなんだけど)、とても見ごたえがありました。

実はこのビュールレ・コレクションは今から10年前に武装集団によって一部盗難されてしまいました。幸いすべて戻ってきたようですが、そのような不運な経緯もあり、今回の展覧会は貴重な機会と言ってもいいでしょう。

私が足を運んだのは平日の午前中。10時会館ですが、10時半に到着したときにはすでに、館内は大勢の人であふれていました。

混雑しているのはある程度予測はついていましたが(私を含め日本人は印象派絵画が好きですから)、やっぱり絵はゆっくり見たいものです。たくさんの人がいるとどうしても、自分のペースで見れなくなるのが最大の難点。あえて(無理矢理)利点をあげるとすれば、見ず知らずの多くの人と同じ絵を見ているという謎の一体感が生まれることと、他の人がどういう視点で絵を見てどう感じているのかが、会話を通して分かるという2点でしょうか。

平日の午前中ということもあり、年配の女性が目立ちます。若い人は少数派です別に若い女性が多いほうがいいという訳ではありませんが)。

印象に残っている絵をあげると、肖像画ではエドガー・ドガ(1834~1917)の「ピアノの前のカミュ夫人」。

この絵のモデルのカミュ夫人とドガは、眼科医の妻とその患者という少し怪しげな匂いのする間柄だが、決して怪しくはありません(たぶん)。

二人は同じ音楽系の社交サークルの仲間で、カミュ夫人は有能なピアニストでした。ドガはその音楽的才能と美貌に惚れ込んだのでしょう。

この絵で一番印象的なのがカミュ夫人の表情。気品、気高さ、プライドといったものが感じられ、はにかみの中にも自信があふれているのがよく分かります。やや口を開き表情筋が緩んでリラックスしているのも、ドガとの親密な関係(勿論変な意味ではなく)も容易に想像できます。

それからカナレット(1697~1768)の「カナル・グランデ、ヴェネツィア」と「サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂、ヴェネツィア」の2枚の景観画。

精緻で正確無比で写実的な筆致は勿論だけど、自然光を表現する技量は素晴らしいものがあります。

よく見ると、古い建物に反射する光の濃淡が何種類にも分けて描かれています。強く反射する光、薄らとした光、じめっとした光、埃っぽい光など、光の表現の違いを観察するだけでもとても興味深い絵です。

どうしてこんなに細緻に描けるのか、もしかしたらAIが描いたのか?(そんなわけないけど)と疑ってしまうほどの、表現力の高さには脱帽です。周りからも嘆息の声がいくつも聞こえてきました。この絵を見るだけでもこの展覧会に行く価値はあるでしょう。さらっと見てさらっと通り過ぎるなんてもったいない!こんな才能あふれる画家が現代の東京を描いたらどんな絵になるんだろう、とちょっと想像するだけでも楽しくなります。

そして、この展覧会中、最大の見どころと言ってもいいルノワール(1841~1919)の「イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢」。

なんと言っても流れるような栗色の髪の毛が目を引きます。気品あふれる高貴な顔立ち、白い肌、赤く染まった頬、8歳の幼い少女とは思えない大人びた目つき、引き締まった唇から時間軸を飛び越えて、息を飲むくらいのオーラを感じます。

思わず「ルノワールすげえ!」と叫びたくなるくらいで、この心の叫びって画集やインターネットで画像検索して見ただけでは伝わらない、「絵の息遣い」がライブで感じられるからこそ出てくるものです。はっきりと断言できるのは「絵は美術館で見るべきである」ということ。本物とコピーの違いはまさにその絵の息遣いが聞こえるか聞こえないかにあるんだから。コピーで見た気になってしまっては本当にもったいない。

そして、後期印象派のゴッホ(1853~1890)による「日没に種をまく人」。ミレーの「種まく人」に着想を得て制作された作品で、なぜか一度見たら忘れられなくなってしまいます。

不自然に大きな太陽、画面の左右を分断する大きなリンゴの木、うつむいて種まきに没頭する、ほとんど影にしか見えない農夫。菫色の地面も本作品に通底しているどこか言い知れぬ“不安”をあおるようだし、ゴッホ自身の光の当たらない人生を象徴しているような絵に見えます。よく知られているようにゴッホは浮世絵に強く影響されていたのですが、画面を横切るリンゴの木はまさに浮世絵の影響です。

一度見たら忘れられない、というのも日本人としてもっているDNAがこの絵の日本的要素に反応しているからなのかも知れません。

この展覧会では他にも、アングル、セザンヌ、ゴーギャン、ブラック、ピカソの作品も展示されているので、興味のある方は足を運んでみて下さい。

  

・展覧会名 至上の印象派展 ビュールレ・コレクション

・会期   2018年2月14日(水) ~ 5月7日(月)

・開館時間 午前10時~午後6時(毎週金・土曜日、4月28日(土)〜5月6日

      (日)は午後8時まで)※入場は閉館の30分前まで
・休館日  毎週火曜日(ただし5月1日(火)は除く)

・会場   国立新美術館 企画展示室1E

・展覧会HP http://www.buehrle2018.jp/

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