横山やすし・西川きよし「空と陸の物語」
きよし:皆さん、このやすし君が、飛行機を今度買いましてね、これほんまの話です
やすし:そんなたいそうに言うてもらわんでもええねや。別にボーイング747を買うたわけやないんやから
きよし:当たり前やないか!
やすし:セスナの小型機ですわ
きよし:それでも、漫才師が自家用飛行機を持って、前代未聞でっせ
やすし:(気取って)別に大したことじゃないじゃないか、自家用飛行機ぐらい、ソニー社長の森田君や、ホンダ会長の宗一郎君だって持っとるんだよ、ロックフェラー君だってそうだよ
きよし:・・・ようそんな人と自分を比べるなあ
やすし:そやけど、今地上は車でいっぱいや、機動力をつける為には、飛行機が一番や
きよし:また悪いことして、飛行機で逃げよ思てるな
やすし:アホな!仕事の足として機動力をつけるねや
きよし:そら大会社の社長の場合は、仕事の足として、東京で重役会議、大阪で新製品発表会、広島で経済会議、新潟で政経懇談会という風に、不自然やない
やすし:私の仕事の足やったら、不自然や言うんかい
きよし:大阪でプロポーズ大作戦の収録、静岡で浜名湖競艇のゲスト、福井のお祭りで漫才、三田の農協の慰安会・・・自家用飛行機で行く仕事か?
やすし:ほっといてくれ!
きよし:しかし、君のことや、飛行マナーは悪いやろなあ
やすし:そんなことないで
きよし:皆さん、気いつけて下さいよ。もし、飛行機のエンジンの音が聞こえてきて、空から水が降ってくるようなことがあったら。やすし君が上から小便してるんですよ
やすし:そんなことするかい!乗る時はちゃんと飛行機に一升瓶積んどくがな
きよし:なるほど、その点のマナーは心得とるな
やすし:皆さん、気いつけて下さいよ、もしエンジンの音がして、空から黄色いかたまりが、バラバラになって落ちてくるようやったら、臭いでっせ
きよし:大きい方をするつもりかいな!?
やすし:あんなもん一升瓶で出来るかいな
きよし:なんちゅう飛行マナーや
やすし:これは冗談ですけど、しかし、もし皆さん空を見られて、空中を3回グルグルと廻るセスナ機が見えた時には、これは、横山やすしの飛行機やなと思て下さい
きよし:空中を3回廻るそうです
やすし:私の飛行機やと確認出来たら、下から風船に千円札付けて、ぜひ飛ばしてください。羽根にひっかけて帰りますさかい
きよし:大きいことをやる割には、言うことがせこいなあ!・・・しかし、君はその飛行機に、私は乗せてくれへんやろなあ
やすし:アホな!コンビの君やないか、大阪の八尾空港にメーカーから飛行機が届いたら、君を一番に乗せたるがな
きよし:へえ、私を一番に、ありがとう
やすし:ほんで、安全に飛ぶ飛行機やとわかったら、私が乗る
きよし:私はモルモット役か!
やすし:まあ、皆さんも自分の操縦で飛行機に乗って空を飛んでみなはれ
きよし:爽快やろなあ
やすし:いっぺん、爆弾落としてみとなりまっせ
きよし:恐ろしい男やなあ!
やすし:とにかく、飛行機は国鉄のように線路が無いから便利や
きよし:そういうことでは、線路を走る国鉄は、大変な赤字で悩んでるんですよね
やすし:だいたい、線路がある事が無駄やねん。赤字を解消したかったら、国鉄も空を飛ばさんかい
きよし:それは無理やねん。国鉄の列車は空は飛ばんねや
やすし:そら根性が無いからや
きよし:・・・根性が無いて
やすし:一介の漫才師、横山やすしの飛行機が空飛んどんねや。親方日の丸の国鉄の列車が空飛ばんわけないやろ
きよし:君はどういう話しとんねや!国鉄の列車は飛べへんの
やすし:飛べもせんのやったら、ええ恰好して、列車の名前に「かもめ」とか「とき」とか「白鳥」とかつけるなちゅうねん!勝手に名前使われた鳥が気い悪するわ
きよし:君は国鉄に恨みでもあるんか!
やすし:恨みがあるから怒っとんねや
きよし:どんな恨みや
やすし:こないだ、新幹線の中で、幕の内弁当買うたんや
きよし:幕の内弁当を
やすし:それに付いてないかん筈の、魚の形したしょうゆ入れが入っとらへん。腹立つやないか!
きよし:君もせこい事で恨みを持つなあ
やすし:それだけやないねや、白いシートカバー、うちの枕カバーにええ思て持って帰ろとしたら、車掌が怒りやがんねん
きよし:飛行機買うちゅう人間が、そういうせこい事すな言うねん!同じやるのやったら、漬物石代わりに車輪を外して帰るとか
やすし:出来るかい!とにかく、国鉄の列車の名前だけは、ええのつけ過ぎやで
きよし:そんなにええか
やすし:ひかり、なんてええがな。うちの娘と同じ名前や、真似すな
きよし:君が真似して付けたんや!
やすし:東海道新幹線はまだええけど、山陰新幹線なんて、トンネルばっかりや。暗いとこばっかり走ってるのに、ひかり号なんておこがましいわ、あんなんもぐら号でええねん
きよし:もぐら号て
やすし:それに、国鉄はまた乗車賃値上げするらしいがな
きよし:値上げする前に、もっとどうすれば収入が増えるかを考えてもらいたい。国鉄に何の関係もない私でさえ考えてるんでっせ
やすし:ホー、どんな風に、君は国鉄の増収を考えとんねや
きよし:まず、線路を地べたばっかり走らすんやなしに、空中で一回転に回転となるような線路を敷くこと
やすし:空中で一回転二回転?
きよし:ほな、ジェットコースター料金が余分に取れるわな
やすし:なるほど、遊園地へ行かんでも、国鉄に乗って、ジェットコースターのスリルが味わえるいうわけや
きよし:それから、列車の窓は皆な塞いでほしい
やすし:窓塞いでしまうて、ほな、外の景色を見たいお客さんどないするねん
きよし:そのお客さんの為に、のぞき窓を作る。ほな、のぞき料金が別にとれるやろ
やすし:のぞき喫茶やがな!
きよし:君も、国鉄の赤字解消策を考えてあげないかんよ。いつも、鉄道公安官さんにはお世話になっとんのやから
やすし:アホな!・・・そや、燃料費の節約法を私は国鉄に教えよ
きよし:燃料費の節約
やすし:乗客の目方が重ければ重いほど、燃料費は高なるはずや
きよし:そらそうや、それを節約するには?
やすし:乗客みんなに、片足を上げて乗ってもらうねん。・・・ほな片足やから、目方が半分や
きよし:・・・なんでやねん!片足上げても、もう一方の片足に、目方は両方分かかるねや!
やすし:あかんか
きよし:しかし、君はええヒントをくれた
やすし:というと?
きよし:片足上げたんでは、目方は同じやけど、この方法やったら目方はかからん
やすし:どんな方法や?
きよし:列車の中で、乗客にピョンピョン飛び上がってもらうねん。ほな飛び上がってる時は、目方はかかってないはずや
やすし:なるほど、ええ方法や、さあっそく、国鉄総裁に報告しておこう
きよし:国鉄総裁に?
やすし:たぶん、相手にされへんやろ
きよし:・・・しかし、列車が走ってない時の線路ほど、無駄なものはないと思わへんか?
やすし:そら無駄や、あんな無駄なもんないがな
きよし:そやから、列車が走ってない時は、線路をリースに出すねん
やすし:線路をリースに?
きよし:ほんで、列車が走ってきたら、すぐ返してもろて、サッと元へはめ込む
やすし:しょうもないこと考えるな!それよりもええ方法がある
きよし:というと?
やすし:だいたい列車が走るから、線路が必要やねん
きよし:そらそうや
やすし:ところが、線路を走らせたら、列車はいらんわけや
きよし:なるほど、ほな線路に直接、座席を取りつけたらええわけや
やすし:そうや
きよし:で、その線路を走らすためには、どうしたらええねん
やすし:線路の下に車輪を付ける
きよし:線路の下に車輪を
やすし:ほんで、その車輪を走らす線路を下に敷くわけや
きよし:二度手間違うんかい!結局は、お客さんの身になったサービスが増収につながる
やすし:これは言える、客の喜ぶサービスをせないかん
きよし:客から希望者を募って、代わりばんこに運転させてやるとか
やすし:怖いわそんなん!
きよし:車内放送にしても、駅名言うだけ違ごて、歌いたい人にはカラオケ歌わしてやるとか
やすし:寝てる客、やかましいてしゃあないわ!
きよし:切符一つにしても、心のあるサービスが欲しいでっせ
やすし:切符にどんなサービスするねん
きよし:切符をもんで真ん中をはがして、当たりが出たら切符がもう一枚貰えるとか
やすし:スカやった時は?
きよし:その場で飛び降りてもらうとか
やすし:アホな!
きよし:でも国鉄も、お座敷列車を走らせたりして、いろいろ考えてますよ
やすし:今度、サロンカーが走るちゅうがな
きよし:走りますよ
やすし:サロンカーを走らすのやったら、ピンサロカーも走らさんかい
きよし:なるほど、それぐらい柔らかくなってこそ、赤字も解消できるのや。もし国鉄にピンサロカーが走るようになったら、どうなるやろ
やすし:「おっ、みどりの窓口やな。・・・ちょっと、今度出来たピンサロカーいうやつに、東京まで乗ってみたいんや」
きよし:「わかりました。これが東京までの乗車券と特急券ですので、これを持って、隣のピンクの窓口で、他の切符はお求めください」
やすし:「ピンクの窓口・・・ここやな、ピンサロカーに乗りたいんや」
きよし:「はい、まずこれがドリンク券で、指名券の方はA・B・Cの3つありますがどれにしますか?」
やすし:「Aいうのは?」
きよし:「専門のピチピチギャルが濃厚にサービスします」
やすし:「B券は?」
きよし:「日本食堂の女の子が、素敵なサービスをします」
やすし:「C券は?」
きよし:「車掌が手を握ります」
やすし:「Aでええ、Aにして」
きよし:「A券ですね。回数券なら、多少割引きになりますが」
やすし:「一枚でええ、一枚で」
きよし:「で、どの程度まで、当国鉄のホステスにサービスをお求めになりますか?」
やすし:「やっぱり、おっぱいぐらいは触りたいなあ」
きよし:「おっぱいをお触りになる」
やすし:「触る」
きよし:「じゃ、この書類にその旨をお書きになって、鉄道公安官の許可証明書をもらってください。それを運輸局の窓口へ提出してください」
やすし:「触らへん!」
きよし:「で、当国鉄のホステスを、ひざの上にはお乗せになりますか?」
やすし:「乗せる、せっかくの機会や、乗せいでかい」
きよし:「一度お乗せになれば、途中下車はできなくなっておりますが」
やすし:「乗せへん!さすが国鉄や、うまいなあ」
きよし:「当国鉄ホステスは、あなたが乗車されたあと、13時56分に参り、14時26分に帰ります」
やすし:「わかったわかった。・・・ホー、この車両がピンサロカーやな、しかし、国鉄もなかなか考え方がやらこなってきよったで。お、ホステスの来る時間や」
きよし:(汽笛を鳴らす)「車掌よりお知らせいたします。ホステスのライチョウ三号さん、2号車テーブルへお急ぎください。お客さんがお待ちです」
やすし:「ライチョウ三号いう名前のホステスかい」
きよし:「アラー、お兄さんいらっしゃい」
やすし:「おい、お前この前まで、大阪のミナミで働いてた、ホステスのキヨちゃんやないか」
きよし:「あら、やっさんお久しぶり」
やすし:「なんや、国鉄へ代わったんか」
きよし:「そうなの、ここのホステスなら恩給が出るでしょ」
やすし:「ホステスに恩給が出るんかい」
きよし:「有給休暇も年20日取れるのよ」
やすし:「ええ条件やなあ。それより、ちょっと体触らせたれや。このへんを」(と、きよしの体の一部を指で押す)
きよし:「ポーッ!ポーッ!」
やすし:「なんや、お前汽笛で感じとんのかい」
きよし:「国鉄ですから・・・あの、触ってもらうのはいいんですけど、指は足の下から列車がレールを走るようにして、上へと走らせてもらえないでしょうか」
やすし:「そうかそうか、こうやな」(きよしの足から指を上へ走らせる)
きよし:「あの、汽笛一声の鉄道唱歌を唄いながらしてもらうように決まっているんです」
やすし:(足先から指を上に上げながら鉄道唱歌を唄う)
きよし:ポーッ!
やすし:(やすしの指がきよしのふとももへ来た時)「もうすぐ、林を過ぎてトンネルや」
きよし:「お客さん、14時26分です。ご乗車ありがとうございました。お忘れ物の無いようお降りください」
やすし:もうええわ!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?