夢路いとし・喜味こいし「人生を楽しくおくる方法」
夢路いとし:考えてみたら、我々も長いこと漫才をやってまして
喜味こいし:長いねえ、50年近いからね
いとし:これだけ長いことやってこれた理由はどこにあると思う?
こいし:やっぱりやる気やろね。やる気があればこそやれたと思うで
いとし:私は君にやる気があるとは思えんけどねえ
こいし:私にやる気が無いやて?
いとし:こないだでも、君がええベルトしとったから、私が「そのベルトくれへんか?」言うたら「やる気無い」言うたがな
こいし:そのやる気やないねん!つまり、負けてたまるか、という気や
いとし:そう言えば君は、負けてたまるか、という気はすごいね
こいし:これがあればこそやれたんや
いとし:私が「そのベルトくれへんのやったら売ってくれ」言うたら「五千円でどや」言うから「まけてたまるか」て譲らんかったもんな
こいし:そのまけると違うねん!私の言いたいのは、闘志やねん。我々は闘志がいっぱいやねん
いとし:そう言えばこの頃よう言われるね「おたくら二人合わせて120歳。えらいトーシですなあ」
こいし:そらトシや!・・・私の言うのはつまり、根性がいっぱいやねん
いとし:君、根性がいっぱいか知らんけど、飲み屋に勘定もいっぱいためとるで
こいし:やかましいわ!
いとし:根性もそやけど、我々が長くやってこれたんは、二人とも楽天家やいうこともあるで
こいし:案外我々は楽天家でしてね
いとし:この人の嫁はんはテンラク家でして
こいし:テンラク家?
いとし:君とこの嫁はん、よう物干しから転落するがな
こいし:・・・そう言えば、この前もうちの嫁はん物干しから落ちましてね。ちょうど私が下にいて受けとめてどうもなかったけど
いとし:なんでそんなん受け止めるの?
こいし:・・・受け止めな大ケガやないか!
いとし:そやけど、受け止め甲斐が無かったやろなぁ
こいし:・・・あのな
いとし:転落したんが、歳の頃なら三十五、六の京都の祇園のきれいどころやってみ「まあ、こいっさん、おおきにどすえ。お礼に今度遊びに来ておくれやす。お金いりまへんえ」
こいし:なんで祇園のきれいどころが、うちの物干しに上がってる!?
いとし:そらそやけど、落ちてきたんが君とこのきたなどころではねぇ
こいし:きたなどころて・・・
いとし:とにかく我々は楽天家でして
こいし:そやから、余りくよくよすることは無いわな
いとし:そう、今日でも五万円入りのサイフ落としましたんやけど、全然くよくよしてまへんやろ
こいし:五万円入りのサイフ落としてくよくよせんちゅうのは、これは立派なもんでっせ
いとし:君から預かってたサイフ落として、なんで私がくよくよせないけまへんねん
こいし:アホな!落としたサイフいうのは、今日私が電車の中で上着脱いだ時に、君に預かってもろてたサイフかいな
いとし:この人、全然くよくよしてまへんやろ。これが長いことやってこれた秘密ですねん
こいし:今聞いたとこやから、くよくよしてる間が無いだけや!
いとし:くよくよせんだけと違ごて、私は常に人生をええ方にええ方に考える方でしてね
こいし:というと?
いとし:この前、ある放送局の廊下で大原麗子さんとすれ違ごたんや
こいし:大原麗子さんと
いとし:私はその時思たね「ワッ、うちの嫁はんの方がずっときれいや」
こいし:待て待て!よりによってあの美人女優の大原麗子さん捕まえて「うちの嫁はんの方がずっときれいや」て。そんなこと思うこと自身、これは犯罪やぞ
いとし:私はええ方にええ方に考える方ですから
こいし:なんぼそうでも、大原麗子さんと比べる君とこの嫁はんが汚すぎるやないか
いとし:そない言うけど、君、うちの嫁はんの風呂あがりの姿知らんやろ
こいし:君とこの嫁はんの風呂あがりの姿
いとし:君、ムラムラするぞ
こいし:するかい!絶対せんわ
いとし:言うとくけど、うちの嫁はん風呂からあがってきた時裸やで
こいし:誰でも裸やそんなもん!なんぼ君とこの嫁はんの風呂あがりは、普段よりはきれいや言うても、大原麗子さんよりきれいなわけないやないか
いとし:君は顔とかスタイルで比較してそれを言うとんの違うか
こいし:ほな君は何を比較して言うとんのや?
いとし:足の裏や。放送局の廊下を歩いてる大原麗子さんの足の裏より、風呂あがりのうちの嫁はんの足の裏の方が絶対にきれいやねん
こいし:しかし、足の裏で比較しますか
いとし:そんなもん、どっかを見つけて、ええ方にええ方に考えな人生楽しく生きていけるかいな
こいし:長生きするで
いとし:この前、放送局の食堂で近藤真彦さんがおりまして
こいし:近藤真彦、マッチやな
いとし:私はその時思たね「ホー、私の方がきれいやがな」
こいし:・・・どこがマッチよりも君の方がきれいやねん。足の裏かい、爪の先かい
いとし:歯並びや。私、総入れ歯やから、歯並びのきれいさではマッチに負けへんで
こいし:・・・そら総入れ歯やったら歯並びでは勝つやろ
いとし:それにカレーライスの食べ方のきれいさも私の方が上やったね
こいし:カレーライスの食べ方?
いとし:マッチはちょこっと残しとるねん。私はきれいにお皿舐めましたからね
こいし:すな!
いとし:食堂でカレーライスを食べてるマッチを見ながら「おっ、マッチより私の方が若いがな」と思たで
こいし:・・・あのな、無理やりきれいとこを探して、ええ方に思い込むまでは許そ。けど、マッチより君の方が若いて。どこをどうとって若いなんて言えるねん!?
いとし:マッチがカレーライスを食べてたテーブル、五番のテーブルやで、私食べてたん三番やで、私の方が二番若いがな
こいし:テーブル番号の比較かい!しかし、どこからでもほじくり返して、ええ方に思い込むなあ
いとし:そういう生き方の私やから、私は今、日本一の嫁はんをもろたと思てますからね
こいし:思やいいけど、汚い日本一やなあ。気のきつい日本一やなあ。品の無い日本一やなあ
いとし:嫁はんだけやないで。漫才の相手も日本一の相方と組んだ思てるで
こいし:・・・それは正解
いとし:汚い日本一でっせ。品の無い日本一でっせ。しみったれた日本一でっせ
こいし:言い返すな!
いとし:でも、何事もええ方ええ方に考えていくと、どんな人生でも楽しくおくれますからね
こいし:それは言える
いとし:私としても、たくさんの人に楽しい人生を送ってもらいたいと思いましてね。今度、私の家で「人生を楽しくおくる方法」という講演会を開こ思てますねん
こいし:君とこの家で講演会を。講師はもちろん君やな
いとし:そう、ポスターも自分で作って近所へ貼りましてね
こいし:どんなポスターを?
いとし:「人生を楽しく送る方法」講演会、講師、夢路いとし大先生
こいし:自分で大先生なんて書くな!
いとし:拝観料無料。ただし志納金制度
こいし:京都のお寺やないで!
いとし:入場無料
こいし:無料公演やな
いとし:無料やないと人てなかなか集まるもんやない。今日これだけの人が集まったんモ、無料ならこそ・・・
こいし:いらんこと言うな!
いとし:場所、夢路いとし邸二階六畳大広間
こいし:六畳が大広間か!
いとし:入場者多数の場合は、ふすま戸はずし、隣の四畳半と合わせての大ホールに改造
こいし:どこが大ホールや!
いとし:多数ご来場ください
こいし:君もなかなか立派なことを計画するやないか
いとし:漫才はやり慣れてるけど、講演となるとむずかしいもんでね
こいし:一人で喋らないかんからね。お客さんが集まるわな。開演予定時間が来るわな。ほないよいよ君の登場や
いとし:ほな、登場の出囃子が鳴るわな!
こいし:講演に出囃子は無いねん!君が登場して演台の前に立つわな。そして君の「人生を楽しくおくる方法」の講演の始まりや
いとし:(演台に立つ姿)・・・(咳払い)・・・♪利根の川風♪
こいし:浪曲やってどないするねん!君のやるのは講演や
いとし:漫才と違うから、あがるやろなあ
こいし:自分でやろ思たんやから、あがってもやらなしゃあない
いとし:皆さん・・・毎度ばかばかしいお笑いで・・・
こいし:落語をやるな!講演がばかばかしかったらあかんねん
いとし:講演やね
こいし:そう、講演やから、真面目に講演の話をせないかんねん
いとし:・・・皆さん、栗林公園はどこにあるんでしょ
こいし:その公園やないやろ。君が話すテーマは「人生を楽しくおくる方法」
いとし:皆さん、もう一度自分の人生というものをよく考えてみて下さい。人生というものは一生に三度しかありません
こいし:一度しかないねや!
いとし:一度しかありません。その一度の人生を苦しく暮らさいでどないしまっか!
こいし:えらい大阪弁がきついな
いとし:二人の息子を持った母親がいました。息子の一人は傘屋さん、もう一人は露天商でした。その母親は雨が降ると露天商の息子のことを心配し、晴れると傘屋の息子のことを心配してました。ところがある日から考えを変え、雨が降ると傘屋の息子のことを喜び、晴れると露天商の息子の事を喜びました。人生は考え方ひとつで幸せにも不幸にもなります
こいし:ええ話をするねえ
いとし:その母親は、晴れ時々曇りところにより雨の日は、どない思たらええのやろと悩みました
こいし:ややこしいこと言うな!
いとし:人生は思いようです。自分の嫁はんはお粗末すぎると悩む前に、こいしさんの嫁はんに逢ってみましょう。下には下があるなあと勇気づけられます
こいし:どういう意味や!
いとし:また自分は駄目な人間だなんて悩む前に、こいしさんを観察してみましょう。勇気づけられます
こいし:私を出すな私を!
いとし:これで私の講演を終わります。お帰りの際、うちの家内が玄関口に立っておりますので、千円ずつ払ってお帰り下さい
こいし:待て待て、この講演は無料講演と違ごたんかい!そんなことしたら、聴きに来た人に文句言われるぞ
いとし:皆さん、ものは考えようです。今私の講演に千円払うということは、将来の幸せに繋がるのです
こいし:どうして?
いとし:将来、皆さんがどこかできつねうどんを食べるとします
こいし:きつねうどん?
いとし:その時必ず思います
こいし:どう?
いとし:あの時はだまされてしょうもない講演に千円払ろたけど、それに比べると、この三百五十円のきつねうどんは値打ちあるなあ。なんて今の私は幸せなんだろう
こいし:もうええわ!