横山やすし・西川きよし「やすきよの二十一世紀」

きよし：昨日横山さんとこへ寄せてもろたら、珍しくあんた、嫁はんや子供たちと、カルタ遊びしてたがな

やすし：正月ぐらいは家庭サービスしてやりたいがな

きよし：しかし、君はなかなかカルタとるのうまいなあ

やすし：そうか

きよし：憎まれっ子世にはばかる・・・ハイーッ！・・・とるの速かった

やすし：・・・あのな

きよし：盗人猛々し・・・ハイーッ！花よりだんご・・・これは子供がとりよったなあ。悪銭身につく・・・ハイーッ！・・・君速かった

やすし：待て待て！悪銭身につくなんてことわざがあるんかい。身につかずや

きよし：身についたから、去年飛行機買うたん違うんかい

やすし：アホな！あれはちゃんと真面目にお勤めした金で買うたんや

きよし：そやけど、まだ代金一銭も払ろてないそうやないか

やすし：あれどこで買うたか知ってるか

きよし：アメリカで買うたんやてな

やすし：遠い海外のこっちや、そのうちウヤムヤになるがな

きよし：恐い男やなあ！マーしかし、去年の大阪はにぎやかな行事が沢山ありましたね

やすし：いろいろあったがな、御堂筋パレードなんかもあったしな

きよし：御堂筋パレード・・・あの時の子供みこし、可愛かったなあ

やすし：チアガールもよかったで

きよし：おくんち祭りの竜がよかったね

やすし：バトンガールの見事なこと

きよし：ペンギンのぬいぐるみが可愛かった

やすし：外人女のムキムキ踊りの見事なこと

きよし：・・・君は女性しか見てないのか！

やすし：わい、去年も今年も男嫌いやねん

きよし：しかし、外人女のムキムキ踊りて、もうちょっと別の表現ないか

やすし：お嫌いですか？

きよし：お好きです

やすし：ほな怒るな！

きよし：今年もパレードやるそうですわ

やすし：今年は私も車に乗って、パレードに参加したいね

きよし：やめとけ、石が飛んでくる

やすし：なんでやねん

きよし：海でも行事がありました

やすし：知ってる、ホ船祭りいうやつ

きよし：ホ船祭りて・・・あれは帆船祭りや

やすし：ホセンて書くやないか

きよし：それでハンセンやねん

やすし：そやけど、集まったん、みんな帆掛け舟やで

きよし：帆掛け舟て・・・あれはみんなハンセンいうねん

やすし：しかし、なかなか見事な帆船パレードやったがな

きよし：見事やったねぇ、帆に風をいっぱいに受けての行進や

やすし：（手で舟が動く感じを出しながら）♪ こんぴら舟々 追い手に帆かけて シュラシュシュシュ ♪

きよし：君は何がなんでも帆掛け舟にしたいんかい！

やすし：しかし、ああいう船に乗って、私もいっぺん航海してみたいね

きよし：やめとけ、君が乗ったら、マストにどくろの旗かかげて走らないかんようになるがな

やすし：海賊船かい！

きよし：ま、こういう行事は、大阪築城四百年の行事として行われたんですよね

やすし：築城四百年でっせ、えらいもんでんがな、ちくわ四百本とは違いまっせ

きよし：築城とちくわを比べてどないするねん！

やすし：しかし、私は最近思うんやけどな

きよし：何を？

やすし：もし、この私が四百年前に生まれてたとしたら、日本の歴史は変わってたやろな

きよし：なんでや？

やすし：太閤さんの後には、徳川家康やのうて、私が天下をとっとったがな

きよし：なにを寝言いうとんねや

やすし：いや、あの時代やったら、私は天下をとっとった

きよし：君ね、天下をとるいうのは、天ぷら屋から天かすとるのとは全然違うねんで

やすし：わかっとるわい！

きよし：ほな、どんな形で天下をとってたか説明してみい

やすし：太閤さんが死んだ後、関ヶ原の戦いがあって、大阪城の落城やわな

きよし：歴史ではそうなってるがな

やすし：もし私がその時代におったら、絶対に大阪城を守ってみせた

きよし：冗談も日曜と祭日に言えよ

やすし：なんやそれ？

きよし：休み休みに言えというとんねや

やすし：・・・

きよし：君が四百年前に生まれてたとしても、所詮君は足軽やて

やすし：私が足軽？

きよし：足軽やから、今の嫁はん尻軽やねん

やすし：・・・足軽と尻軽とどう関係あるねん！

きよし：足軽言うたら、どんなんや知ってるやろ。三角の帽子かぶって、安物の槍持って、いざ戦いになると、ワァーッ（へっぴり腰で攻めに行く格好）やられたぁ！・・・エキストラしかやらん役やで

やすし：アホなこと言うとんねやないで。私が四百年前に生まれてきたとしたら武将に決まっとるやないか

きよし：武将、君が？

やすし：当たり前やないか、私がどんだけ武将に向いとるか知らんな

きよし：知らん

やすし：わしゃ朝起きても顔洗わんし、新聞かて「おい、嫁はん持って来い！」や。どんだけブショウかようわかったやろ

きよし：・・・それ、無精者のブショウやろ

やすし：とにかく、私が四百年前に生まれとったら、武将になって、大阪城を守ってたわいな

きよし：刑法も守れん男が大阪城守れるわけないやろ

やすし：・・・しょうもないこと言うてんのやないで

きよし：例え君が武将やったとしても、大阪夏の陣での君の戦いぶり、大体想像がつくで

やすし：ホー、私の戦いぶりがどんなんか聞かせてもらおうやないか

きよし：ほな、実況中継風にやりましょ

やすし：実況中継風にね

きよし：（実況中継風に）大阪城の門は既に破られ、徳川軍は場内になだれ込んでおります。大阪城はもう落城するしかありません。大阪方には強い武将はいないのでしょうか。・・・いました、出てまいりました。横山やすしの守（かみ）の登場です

やすし：コラ徳川軍、ワリャなにをさらしてけつかんねん。よその城勝手に押し寄せてきやがって。来るんやったら来るんでちゃんと仁義きらんかい

きよし：まるでヤクザか武将か見分けのつかない、横山やすしの守です。お？よく見ると鎧には唐獅子模様が入っております。しかし、やすしの守の心意気は大阪方にとって頼もしい限りです。・・・おお、やすしの守が暴れだしました。またたくうちに敵を十人打ち倒しました

やすし：ええ実況中継してくれるがな

きよし：よく見るとそのうち、七人は味方でした。カッとなると何をするかわからない性格がとうとう出てきました

やすし：・・・勝手に中継しとれ

きよし：しかし、やすしの守大暴れ、大活躍です。敵もとまどいを見せております。あっ、敵はパトカーのサイレンを鳴らしました。とたんにやすしの守逃げ出しました

やすし：ええ加減にせいよ！なんで四百年前にパトカーのサイレンがあるねん

きよし：しかし、築城四百年もええけど、未来の日本、未来の大阪も考えないかん

やすし：そやから、大阪二十一世紀計画いうのもあるがな

きよし：大阪二十一世紀計画。みんなで盛り上げましょう

やすし：ところでちょっと聞くけどな

きよし：なんですか

やすし：大阪が二十一世紀のときには、東京は何世紀になってるの？

きよし：・・・なにしょうもないこと言うとんねん。大阪が二十一世紀の時は東京も二十一世紀に決まってるやないか

やすし：なるほど、東京は大阪以上の都会やから、大阪が二十一世紀になる頃には、東京もなっとるわな

きよし：・・・あのな君

やすし：そやけど、君とこの田舎は、まだよう二十一世紀になってへんで

きよし：・・・二十一世紀というのは、みんな一緒になるねや

やすし：鳥取もかい

きよし：当たり前や

やすし：ほな、二十世紀梨の立場はあれへんやないか

きよし：知るかいそんなこと！

やすし：しかし、二十一世紀になる頃には、我々はどんななっとるやろね

きよし：私の想像では、二十一世紀には、私と君はこういう会話をしてるやろね

やすし：ホー、どんな会話や

きよし：やすし君、久しぶりやなあ。十年前のあの頃は、君も元気にやってたけど（涙声になって）あの、やすし君も、今はこんな墓石になってしもて・・・今日は君の好きな酒持ってきたで（墓石に酒を書ける格好）

やすし：待て待て、二十一世紀まで、あと十六年や。その時はまだ私は五十五才や、それぐらいはまだ生きさせたれや

きよし：万が一君が生きてたとしたら、どうなっとるやろ

やすし：万が一てなんや、憎まれっ子世にはばかるいうやろ、ちゃんと生きとるわいワシは

きよし：・・・自分のことようわかっとるやないか

やすし：わしゃなんぼでもはばかったるさかいなあ

きよし：二十一世紀の横山やすしと西川きよしの出合いは、たぶんこうでしょう

やすし：ヤー、きよし君やないか

きよし：オー、やすし君！なつかしいなぁ

やすし：なつかしい

きよし：そうか、もう刑期終えたんか、何年ぶりのシャバや？

やすし：まてまて、アホなこと言うてたらいかんで。私しゃ漫才やめた後、実業界へ入って、今や二十一世紀の鴻池善右衛門と言われる程の大金持ちや

きよし：へー、そんなに立派になってくれてたんか、昔のコンビとして私しゃ嬉しいなあ（泣く）

やすし：泣くな

きよし：（ズズーッとやすしの服で鼻をふく）嬉しい

やすし：拭くな！

きよし：しかし、メガネだけは漫才やってた頃と同じのかけてるなあ

やすし：上等のメガネやったから、ずっとかけ続けとんねや

きよし：どこで買うたんや

やすし：メガネやさーん！

きよし：・・・アホさ加減も昔とちっとも変わってへんがな

やすし：私しゃ、今や世の為人の為に生きとるんじゃからのう

きよし：あのやすし君がねぇ

やすし：こないだも、大阪市へ橋を寄付してのう、その橋は、やすし橋とつけられとるわい

きよし：やすし橋

やすし：君も、なにか寄付などしとるかい

きよし：この前宝塚の近くへ、神社を寄付しました

やすし：ホー

きよし：今では、その神社は、きよし荒神という名がつけられてますよ

やすし：あの神社前からあるがな

きよし：で、あの当時よく一緒に仕事していた、桂三枝という落語家いましたやろ

やすし：いたいた

きよし：あの人、今どないしてます

やすし：あの男かい、あの男は今、うちにある十台の自家用車の、九台目の運転手をやっとるわい

きよし：後輩に、阪神・巨人いう漫才師いましたやろ

やすし：あの二人は今、うちに飼うてる二十匹の番犬のうち、三匹目と四匹目の番犬の役やっとるわい。いつも二人でこんなふうに「クワーン」吠えとるわい！

きよし：・・・好きなこと言いすぎやで！

やすし：夢は大きく持たにゃ

きよし：でもこれは理想で、現実は二十一世紀に入ってから二十年後も、我々二人はこれですわ

（一旦退場、舞台に出直して）

やすし：（老人の感じで元気なく）まいど、横山やすしだ

きよし：エー、漫才の骨董品でございまして

やすし：やっとれんわ！