横山やすし・西川きよし「僕らと流行」

きよし：私この前、我々がコンビを組んだ頃の漫才のテープ聞きましてね

やすし：１５年前のテープやな

きよし：私の喋り方、無茶苦茶早かったなぁ

やすし：確かに、昔の君の喋りは早かった

きよし：私に比べると、その頃から君は、漫才に迫力があったし、テンポもそれに間もあった

やすし：（喜ぶ）皆さん聞きましたか？私は昔から漫才に、迫力とテンポと間があったんでっせ

きよし：無かったん、お客さんの笑いだけですわ

やすし：・・・それが無かったら、何にもならへんやないか！

きよし：しかし最近は、若い漫才師さん皆が、早口になりましたね

やすし：口が早いということも、決して悪い事やおまへんで

きよし：どうして、こういうとこで自己弁護するねや

やすし：スピード時代の世の中や、何でも早いに越したことはない

きよし：そのわりには君、借りた金返すの遅いなぁ

やすし：ほっといてくれ！

きよし：しかし、いつまで経っても私なんか、お客さんを笑わすことは、難しいなぁ思うね

やすし：私はこの十五年間で、やっと客を笑わすコツというものを掴んだ

きよし：ホー、で、その十五年間で掴んだ客を笑わすコツとは？

やすし：おもろいことを言うこと

きよし：当たり前や！私がこの十五年間で感じたことは、漫才は話題が新しいほど、よく笑ろて貰えるということやね

やすし：ホー、話題が新しいほどね

きよし：つまり、今朝あったことを、すぐに漫才の中に取り入れる。するとお客さんは、ゲラゲラと笑ろてくれる

やすし：今朝あったことを漫才の中に取り入れると、客笑ろてくれるてか
きよし：これは保証します

やすし：（客に向かって）今朝私、起きて顔洗ろてね、トイレ行ってね、メシ食べてね・・・笑わへんやないか！

きよし：アホか君は！今朝あったこと言うても、ニュース性のあるもんやないといかんねや

やすし：ニュース性というと？

きよし：例えば、今朝地震が起こったとするやないか、ほなそれを、漫才の中へ取り入れるねや

やすし：なるほど

きよし：「今朝地震がありましたなぁ・・・やすし君の家、倒れましてね」・・・ほなお客さんが、ゲラゲラ笑ってくれるねや

やすし：・・・火事なんかのニュースは？

きよし：「今朝火事がありましたなぁ・・・やすし君とこ丸焼けになりました」・・・お客さんがゲラゲラ笑ろてくれるねや

やすし：ちょっと待て！客は私がえげつない目に陥らな笑わへんのか！・・・だいたい君は、私を舞台でいじめ過ぎや

きよし：そのいじめについてやねん

やすし：どや言うねん

きよし：例えば、紳助竜介の紳助とか、B&Bの洋七が、舞台で相方をよういじめてるやろ

やすし：いじめ倒しとる

きよし：あれを見て「そんなに相方をいじめてあげないで」と、投書がよう来るらしい

やすし：見てて可哀相になるんやろね

きよし：ところが、私が君をいじめるやろ、「どんどんやれ、いじめまくれ」そんな投書ばっかりや

やすし：誰やねん、そんな投書出すの！

きよし：特にタクシー組合の投書なんか、「やすしをいじめ殺して下さい」ばっかし

やすし：なんちゅう投書するねん！

きよし：だいたい君は、人から嫌われやすい性格やねん

やすし：皆さんは余りにも、私という人物を誤解されております

きよし：人物て

やすし：確かに私は気の短い男でっせ、けど、私はやることに、いつもスジは通してるつもりです。私にはスジがあるんだ

きよし：（やすしの体を触り）スジはあるけど、肉がありまへんねん

やすし：勝手にせい！

きよし：こういうやすし君と、十五年前の昭和四十一年六月にコンビを結成したわけです

やすし：昭和四十一年言うても、どういう時代やったかは、お客さんにはピンときまへんやろ

きよし：コンビ結成の二年前の三十九年に新幹線が開通してまんねん

やすし：あっ新幹線・・・今でこそ言うけど、あれについては、私もかなり運動したよ

きよし：君、運輸大臣みたいなこと言うとるやないか、新幹線で、君はどういう運動をしたいうねん

やすし：新幹線を横目で見ながら、毎朝ジョギングしてたやないか

きよし：運動の意味が違うねん！・・・新幹線の年でしたか、東京オリンピックもありましたわな

やすし：東京オリンピック・・・あの時は、わしゃ走って金メダルとったで

きよし：なんでやねん、オリンピックに走ってない君が、金メダルとれるわけないやろ

やすし：違うがな、あの頃、オリンピックブームで、模造の金メダルがいろんな店で売ってたやろ

きよし：ブームに乗って儲けよ思てね

やすし：わたしゃ、その金メダル（つかむ格好）とったんや・・・走ったで、逃げるのに

きよし：・・・君の手癖の悪いのはその頃からかい！

やすし：その頃からかいて・・・そんな言い方されたら、私は今でも手癖が悪いように聞こえるやないか

きよし：ごめんごめん、手癖の悪いのは、その頃だけ

やすし：そんな言い方されたら、今は手癖が悪ないみたいに聞こえるやないか

きよし：悪いんかい！

やすし：私らのコンビ結成の頃、どういう歌が流行ってたかと言いますと、西郷輝彦さんの「星のフラメンコ」・・・♪好きなんだけど　嫌いなんだ♪

きよし：・・・そんな歌やったか？

やすし：まあええがな

きよし：それに、「君といつまでも」いう歌もヒットしてた頃や

やすし：あの、年寄り大将の歌

きよし：若大将や！

やすし：今は年寄りや！

きよし：♪ふたりを　夕闇が　つつむ　この窓辺に♪

やすし：また、この歌のセリフが良かった

きよし：（セリフ）不幸だなぁ、やすし君、僕は君といる時が一番不幸なんだ

やすし：（セリフ）僕は死ぬまで君を離さないぞ、いいだろ

きよし：ええことない、ええことない！・・・考えてみると、十五年間には、いろんな歌、ニュース、流行が過ぎ去っていきました

やすし：いろいろあったがな

きよし：昭和四十三年ですか、時効になりましたが、三億円事件がありました

やすし：大きい事件やった

きよし：あの事件の犯人なんか、今出てきたら、大スターやで

やすし：・・・皆さん、今でこそ言えますが、何を隠そう、あの事件の犯人は、この私だ！

きよし：またや、どうして君は、なんでもそんな風に、ええ格好したがるねや

やすし：君は私の実体を知らんだけ

きよし：三億円奪い取った人間が、オートバイの修理代踏み倒すんかい

やすし：・・・そらあの金は、世の為人の為に、みな使こてしもたがな

きよし：世の為人の為？

やすし：そや、夜、長屋を回るわな

きよし：長屋を回る

やすし：ほな、ある家の中から「母ちゃん、もっとご飯を食べたいよお、ひもじいよお」「辛抱しておくれ、母ちゃんの病気が治ったら、お腹いっぱい食べさせてあげるからね、ゴホゴホ」・・・こんなんが聞こえてくるがな

きよし：気の毒な会話や

やすし：そこで私が、札束をポーンと投げ込んで、「これで朝鮮人参でも買いなよ」

きよし：朝鮮人参て・・・

やすし：今でこそ言えますが、何を隠そう、わたしゃ昭和のネズミ小僧だ

きよし：何がネズミ小僧や、ネズミ男みたいな臭いさせて（鼻をつまむ格好）

やすし：ネズミ男てどやねん！

きよし：だいたい君が、人に施しをする男か

やすし：君は、そんなことを私に言える立場やないで

きよし：どうして？

やすし：今でこそ言えるけどな、君の嫁はんのヘレンさん

きよし：ヘレンがどや言うねん

やすし：ニューヨークから香港へ売られてきたのを、可哀相や言うて、金出して日本へ引き取ったん、この私やで

きよし：嘘つけ！ようそこまで好きなこと言えるねぇ

やすし：ほらまた恩をアダで返そうとするやろ、わたしゃほんまは人情家でっせ

きよし：そんな人情家が、なんで自分の嫁はんを、使い込み目的で、銀行へ勤めさそう、勤めさそうとするねん

やすし：してるかい！

きよし：金額の大きい事では、昭和四十八年の、奥村彰子の、九億円を勤めてた銀行から騙し取ったいうのが凄かったね

やすし：あの頃は、この事件をネタに漫才やりました

きよし：この前も、伊藤素子ですか、ベテランの女子行員が、一億円以上を騙し取りましたがな

やすし：女は大胆や

きよし：でも、陰で糸を引いてるのは、みなこの男

やすし：その陰で糸を引くというやり方、わたしゃ大嫌いやねん・・・やるのやったら堂々とやらんかい、セコセコするな！男は表で勝負せんかい！

きよし：まあまあ、そう興奮せんと

やすし：この私を見習わんかい！

きよし：・・・みんなが君を見習ろうたら、世の中暗黒やで

やすし：どういう意味やねん！

きよし：事件もいろいろあったけど、十五年の間にはファッションの移り変わりも凄かったね

やすし：ファッションの移り変わり、これは目まぐるしかった

きよし：コンビを組んだ頃でした。ミニの女王、ツイッギーが日本へやってきて、こんな短いスカートが大流行したがな

やすし：あれ以来でっせ、この男の目がこないなったん

きよし：（目をむく格好）スカートの中を覗きまくってるうちに、目が飛び出して・・・アホな！

やすし：ミリタリールックいうのも、えらい流行りましたね

きよし：ミリタリールック、あれはキリッとして、なかなか恰好良かった

やすし：・・・今でこそ言えますが、あれを流行させたん、この私だ

きよし：またそんなこと言う、あれは当時大流行の、グループサウンズが流行らせたんや

やすし：そやから私は、当時、そのグループサウンズにも入っとったんや

きよし：そやそや（ヤケになり）入っとった、入っとった。で、君の入っとったんは、タイガースのグループかい、スパイダーズのグループかい

やすし：そんな有名なグループやないけどな

きよし：言わんでもわかっとるわい、君の入っとったんは、ネズミ講のグループやろ

やすし：ネズミ講て・・・

きよし：ファッションと言えるかどうかわかりませんが、何にも着ないで走り回る、ストリーキングいうのも流行りましたね

やすし：あれは一種の自己主張の手段だ

きよし：今でこそ言えますが、やすし君、当時ストリーキングやったことあるんですよ

やすし：そのことはええがな

きよし：自己主張でやったん違いまんねん、博打でみなとられて、着るもん無かったんです

やすし：ほっといてくれ！・・・しかし、考えてみると、ファッションだけに限らず、私ほど生まれつき流行に敏感な男もないで

きよし：見ただけですぐわかるよ

やすし：そう（気取った格好）

きよし：若い人の間で、剃り込みがが流行ってると聞くと、ちゃんと自然の剃り込みいれるしな

やすし：・・・自然の剃り込み？

きよし：日本人はメガネの人が多いと聞くと、ちゃんとメガネかけるし（やすしのメガネを触る）

やすし：これは目が悪いからかけてるねん

きよし：（メガネを放って）座頭市が流行った頃には、その真似もしたし

やすし：（座頭市の感じでメガネを探す）旅人さん、私のメガネ、どこへ行ったんでしょう・・・さすな！

きよし：しかし、なんぼ君が流行に敏感やいうても、私には勝てんやろ

やすし：何を言うねん、言うとくけど、私の子供の頃、モンローウォークが流行ったことあるねん

きよし：モンローウォーク

やすし：あの真似して歩いたん、近所の子供では、私が一番やで（モンローウォークで歩く）

きよし：それがなんやねん！芸人仲間の間で、やすしウォークいうのは流行ったやろ

やすし：やすしウォーク？

きよし：あの真似して歩いたん、私が一番やで（両手をポケットに突っ込み、おもしろおかしくヨタって歩く）

やすし：・・・それは十年前のやすしウォークやねん

きよし：十年前

やすし：今のやすしウォークはこれですよ（キザっぽく、右手でメガネを直しながら、本を真面目に読みながら歩く格好）・・・これは今のやすしウォークや

きよし：・・・そう言えば、このごろ、君は競艇の予想紙広げてよう歩いとるな

やすし：辞書を読みながら歩いてるのや！

きよし：どっちにしても、流行の先端を行くのは私ですから

やすし：笑わすんじゃないよ、私に決まってるがな・・・あれは何年やったかなぁ、流行語の「しょんべんば、ちびりますたい」を流行させたん、この私や

きよし：（客に向かって）こんな言葉、流行りましたか？

やすし：客に聞かんでもええやないか

きよし：そんなこと言うねやったら、「マンマンちゃん、アン」流行らせたん、この私や

やすし：それがどないしてん・・・「そうなんですよ、川崎さん」流行らせたん、この私やないか

きよし：・・・ザ・ぼんちのおさむの上前はねてるやるな

やすし：ええねん、あいつには金借りてるねん

きよし：借りてたらいかんやないか！

やすし：なんちゅうても、流行に敏感なのは、私やねん

きよし：言うとくけどな、昔、フラフープが流行した時に、子供ながらに、あれを一日中やって、大会で優勝したん、この私やで

やすし：それがどやいうねん、ホッピングが流行った時、我ながらにアレを一日中やって、脱腸になったん、この私やで

きよし：威張るな、そんなこと！

やすし：誰が何と言おうと、流行りに敏感なんは、私やねん！

きよし：そら確かに、あんたは、私より流行に敏感です

やすし：決まってるがな（ポーズ）スタイルでもキマってるでしょうが

きよし：今でこそ言わしてもらいますが、ルービックキューブが出た時も、一番最初に買うたん、やすし君です

やすし：その通りや

きよし：出来ずに腹が立って、ぶっ壊したんも、やすし君が一番

やすし：・・・ま、それはええがな

きよし：水ぼうそうが流行した時も、一番にかかったん、君やったわな、流行に敏感や君は

やすし：あのな・・・

きよし：校内暴力なんか、流行する前から、君は頑張ってた、流行に敏感や

やすし：・・・

きよし：そや、芸能人の裁判所の出入りを流行らせたんも君やったなあ、流行に敏感

やすし：待て！・・・皆さん、今でこそ私は言います

きよし：なんや

やすし：本当は私、流行大嫌いでんねん