夢路いとし・喜味こいし「記念の戦い」

いとし:滋賀県の木之本町へ参りました

こいし:この辺りは、戦国時代の古戦場跡の多い所でしてね

いとし:というと、この辺りではどういう戦いがあったんですか?

こいし:ここからちょっと南へ行ったところでは、姉川の戦いがあったわな

いとし:姉川の戦いは有名な戦いや

こいし:確かあれは、君が産まれた年に起きた戦いや

いとし:アホな!

こいし:そして、ここのすぐそばであったのが、賤ケ岳(しずがたけ)の戦いね

いとし:そんな戦いがありましたか?

こいし:君、賤ケ岳の戦いも知らんの?

いとし:エノキダケの戦いなら、昨日、うちの家で起こったけどね

こいし:なんやそのエノキダケの戦いて?

いとし:実は昨日の晩、うちでは久しぶりにすき焼きをやりまして

こいし:ホー、君とこがすき焼きを。やっぱり肉入りのすき焼きやろな?

いとし:当たり前やないか。肉だけと違ごて、ほんの少しやけど、松茸も入ってたんやで

こいし:なんと、松茸入りのすき焼きとは豪勢やないか。さぞかし松茸旨かったやろ

いとし:ところが・・・私が松茸を摘まもうとすると、嫁はんが「あんた、松茸よりエノキダケの方がよう煮えてるよ!」とこうや

こいし:そら、よう煮えてる方から先に食べないかんわな

いとし:ところが、私がエノキダケを食べてる間に、嫁はんだけ松茸を食べとんねや

こいし:それはちょっとこすいなあ

いとし:エノキダケを食べ終わって、私が松茸を摘まもうとすると、また「あんた!エノキダケを早いこと食べな、煮詰まってしまうやないの!」や

こいし:・・・またまた君はエノキダケを食べさせられたんかい

いとし:その間に嫁はんは松茸をパクパク食いよんねや

こいし:嫌な性格の嫁はんやなあ!

いとし:エノキダケを食べ終わって「今度こそ松茸を食べるぞ!」と箸で探し回った時には、松茸はもうどこにもあらへんねや

こいし:嫁はんが皆な食べてしまいよったんかいな!

いとし:さすがのおとなしい私も、怒って嫁はんに怒鳴ってやったがな

こいし:どない言うて怒鳴ったんや?

いとし:「わしにはエノキダケばっかりで、松茸はマッタケなしかい!」

こいし:怒って怒鳴るのに、シャレを混ぜてどないするねん!

いとし:ほな嫁はんは「あんたにエノキダケを勧めたのは、エノキダケを食べて、あんたにたくましい体になって欲しいと思えばこそよ」とこう言いよるねん

こいし:・・・エノキダケを食べて、たくましい体になるか?

いとし:「アントニオ・エノキみたいになって欲しいのよ!」や

こいし:・・・君、それ完全に嫁はんに馬鹿にされとるで

いとし:でしょ。そやからその後、大きな夫婦喧嘩になってしまいましてね

こいし:やっぱり夫婦喧嘩になったか

いとし:その夫婦喧嘩が、名付けて「エノキダケの戦い」や

こいし:情けない戦いやなあ!・・・しかし、結婚生活50年になるいうのに、君とこはいまだに夫婦喧嘩を続けてるか

いとし:なんでも続けることに意義がありますからね

こいし:・・・50年間には、数えきれんぐらいの夫婦喧嘩をしてきたんやろね

いとし:はい。その中でも、印象に残る夫婦喧嘩には、必ず記念として、なんとかの戦いという風に、名前を付けてまして

こいし:エノキダケの戦いも、その記念の喧嘩の一つやな。で、他の記念の喧嘩というと?

いとし:あれは、平成9年の10月でした

こいし:3年前の10月やな

いとし:嫁はんと2人で、温泉へハネムーン旅行に行った時のことです

こいし:なんで3年前の旅行がハネムーンやねん!フルムーンやろ

いとし:ハネムーンやねん

こいし:フルムーンや!

いとし:行先で車にはねられかけたから、ハネムーンやねん!

こいし:アホな!・・・ということは、行先の温泉で夫婦喧嘩をやらかしたわけやな?

いとし:そう、実はそこの温泉の露天風呂は混浴でして

こいし:ということは、君は嫁はんと2人でその露天風呂に入ったわけや

いとし:恐かったけど一緒に入りました

こいし:勇気いったやろなあ!

いとし:その露天風呂で、昼間車にはねられかけたことを思い出して、嫁はんに言うたんです

こいし:何を言うたんや?

いとし:「散々やったなあ」と。ほな嫁はんは突然、怒り出しましてね

こいし:なんで「散々やったなあ」言うて、嫁はんに怒られないかんの?

いとし:嫁はん、聞き違いしたんですわ

こいし:聞き違いと言うと?

いとし:「散々やったなあ」を「三段腹やなあ」と聞き違いよってね

こいし:・・・なんちゅう聞き違いや!

いとし:カッとなった嫁はんは、私に風呂桶を次々と投げつけましてね

こいし:気の荒い嫁はんやなあ

いとし:私は必至で飛んでくる桶をかわしたんですが、最後は桶に体をはさまれてダウンですわ

こいし:桶に体をはさまれたてかいな

いとし:その喧嘩が名付けて「桶はざまの戦い」やねん

こいし:・・・桶にはさまれたから、「桶はざまの戦い」かいな!本物の「桶はざまの戦い」と違いすぎるやないか

いとし:名前だけ頂きました

こいし:他にはどんな記念の戦いがあったの?

いとし:私は姉と喧嘩をしたことがありましてね

こいし:姉さんと喧嘩を?

いとし:ところが嫁はんは、私に味方せずに、姉側につきまして

こいし:嫁はんは姉側についたか

いとし:その喧嘩が名付けて・・・

こいし:「姉がわの戦い」やろ!

いとし:・・・ようわかったなあ

こいし:誰でもわかるわい!

いとし:戦国時代の有名な戦いの名前は、殆ど我々の夫婦喧嘩の記念の名前に付けてますよ

こいし:ほな「川中島の戦い」も、当然もう済ませたわけやな?

いとし:もちろんですよ

こいし:で、「川中島の戦い」て、どんな夫婦喧嘩やったんや?

いとし:嫁はんと歌手の好き嫌いで揉めましてね

こいし:歌手の好き嫌いと言うと?

いとし:川中美幸か、中島みゆきか、どっちが好きかで揉めて、大喧嘩になったのが、「川中島の戦い」やねん

こいし:・・・ほな、「関ヶ原の戦い」はどんな夫婦喧嘩やったんや?

いとし:風邪ひいた時の咳がうるさくて腹立つ・・・いうて大喧嘩になったのが「セキガハラの戦い」ね

こいし:「長篠の戦い」は?

いとし:ソーメン流しのソーメンを食べてる時にした喧嘩が「ナガシノの戦い」でした

こいし:・・・ようそれだけこじつけた名前をつけるなあ

いとし:戦いの名前も、別に戦国時代の戦いにこだわってるわけでもないんですよ

こいし:というと、戦国時代以外の戦いの名前の付いた夫婦喧嘩には、どんなんがあるの?

いとし:以前、仏壇の裏側で、嫁はんと大喧嘩したことがありまして

こいし:仏壇の裏側て、えらいとこで喧嘩したもんやなあ

いとし:名付けて、「壇のウラの戦い」!

こいし:・・・源氏と平家の戦いまでやったんかい!

いとし:ペットの犬に、嫁はんが真珠のネックレスを付けよったことがあったから、私が怒って大喧嘩になったことありまして

こいし:真珠のネックレスを犬に付けたら、そら怒って、夫婦喧嘩になるわなあ

いとし:名付けて「真珠・・・ワン!の戦い」

こいし:・・・真珠湾までやりよったか

いとし:考えてみると、有名な戦いは殆どやり終わりましたね

こいし:しかし、そこまでよう夫婦喧嘩できるもんやね

いとし:けどこの前、君とこかて大喧嘩をしてたやないか

こいし:うちがどんな夫婦喧嘩をしたというねん?

いとし:嫁はんが両手にハサミを持って、逃げまわる君を追いかけてたのを見ましたよ

こいし:あれを見られてたか、実はあれは私が嫁はんのへそくりをちょろまかした為に、喧嘩になってしもてね

いとし:あの夫婦喧嘩にも、私はちゃんと名前を付けましたよ

こいし:ホー、私と嫁はんの喧嘩に、どんな戦いの名前を付けてくれたん?

いとし:「サルカニ合戦」

こいし:・・・私がサルで、両手にハサミを持っていた嫁はんがカニかい!?

いとし:それに、君の嫁はん、ワタリガニの甲羅みたいな顔してるやろ

こいし:アホな!・・・ところで、最近で一番印象に残る、君とこ夫婦の記念の喧嘩はなんの戦いや?

いとし:「マラソンの戦い」ですね

こいし:「マラソンの戦い」?

いとし:この前のシドニーオリンピックでは、女子マラソンが盛り上がったやろ?

こいし:盛り上がったねえ。高橋選手が頑張って金メダルを獲得したから

いとし:あのテレビでのマラソン中継の時に、大きな夫婦喧嘩をやりましてね。そやから名付けて「マラソンの戦い」やねん

こいし:・・・しかし、片方では高橋選手が一生懸命に走ってる時に、よう夫婦喧嘩なんかしてられるねえ

いとし:そのマラソン中継が喧嘩の原因やからしょうがないがな

こいし:と言うと?

いとし:嫁はんのやつ、高橋選手のゴールインを見て「感動した!感動した!」て、うるそうてうるそうてね

こいし:感動して当たり前やないか。私かてあのゴールインの時間は感動したよ。君かて感動したやろ?

いとし:全然

こいし:・・・ちょっと変わってるなあ。普通なら、あの時間に感動せん日本人はおらんで

いとし:昔の私なら感動したやろけど、私最近全然感動せんようになってね

こいし:いつから感動せんようになってしもたんや

いとし:3年前にカンドウわるしてからですわ

こいし:そら肝臓やろ!・・・君、ほんまに高橋選手がゴールインした時間、感動せえへんかったんか?

いとし:冷静そのものでした

こいし:ほな、高橋選手が手をあげてゴールインした時、君はどんなことを考えてた言うの?

いとし:うちの嫁はんと違ごて、高橋選手は脇の下をきれいに手入れしてるなあ・・・と

こいし:・・・あの時間に、そんなことを考える人間て、他にはおらんぞ

いとし:しょうがないやろ。カンドウわるしてからそうなってしもたんや

こいし:肝臓や!

いとし:心の中では「これではいかんぞう」と思てるんですけどね

こいし:・・・ほな、競技場のメインホールに日の丸上がった時も感動なしか?

いとし:日の丸を見て考えてましたね

こいし:何を?

いとし:最近、梅干しを食べてないなあ・・・と

こいし:・・・ほんまに、感動のない男やなあ。珍しいわ

いとし:嫁はんは感動のしっ放しで。近所の友達を呼んで、高橋選手を胴上げまでしよってね

こいし:・・・ちょっと待て、シドニーにいる高橋選手を、どないして君とこの家で胴上げができるねん!?

いとし:テレビに映ってる高橋選手を、テレビごと上に放り上げよんねや

こいし:・・・なんぼ感動したからいうても、テレビごと胴上げするとは、君とこの嫁はんも変わってるね

いとし:私が怒って夫婦喧嘩になるの当たり前やろ

こいし:その夫婦喧嘩が、名付けて「マラソンの戦い」というわけやな

いとし:おまけに、テレビは下に落ちてしもて壊れたんですよ

こいし:テレビが壊れたてかい

いとし:買いたてのテレビですよ

こいし:ほな、丸損やないかい

いとし:そやから、その喧嘩は「マラソンの戦い」改め「マルゾンの戦い」に変えよ思てるねん

こいし:もうええわ!

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