若井小づえ・みどり「私の鍋料理」

小づえ:皆さん秋ですよ!

みどり:秋たけなわやねえ

小づえ:スポーツの秋、読書の秋、食欲の秋ですよ

みどり:食欲の秋と言えば、これからは鍋がおいしくなるね

小づえ:鍋がおいしくなる?

みどり:鍋がおいしいがな

小づえ:あんた丈夫な歯してるねぇ。鍋なんか食べるの!?

みどり:違うがな!鍋がおいしいと言えば、鍋の中身がおいしいと言うことに決まってるやろ。あんたそんなこと常識としてわからんか

小づえ:そんな言い方ないと思うわ!あんたちょっと自分が鍋のフタに似てる思ていばってるでしょ!

みどり:鍋のフタて!

小づえ:鍋料理にもいろいろありますが、自分で工夫した鍋料理を囲むのもいいもんですよ

みどり:自分で工夫した鍋料理ね

小づえ:私も自分で工夫した鍋料理がありまして

みどり:ホー

小づえ:この鍋料理を小づえ鍋とも、行かず後家鍋とも言います

みどり:行かず後家鍋て・・・その鍋はどないして作るの?

小づえ:まず、土鍋に五分程度の水を張ります

みどり:土鍋に五分程度の水を

小づえ:上からその鍋をのぞきます。鍋に自分の顔が映ります。その時は言うんです

みどり:何を?

小づえ:「なんでこんなべっぴん行かず後家にしとくんやろ」

みどり:・・・あのな

小づえ:あんたは絶対鍋の上からのぞいたらいかんよ

みどり:なんで?

小づえ:鍋も丸い、あんたの顔も丸い、もし顔が鍋にペタッとはまってみ。外れんようになるよ

みどり:やっぱり私は鍋のフタか!

小づえ:この水を張った鍋にまず、10センチ角に切った昆布を入れてください

みどり:10センチ角の昆布をね

小づえ:昆布の無い時は自転車のチューブでも結構です

みどり:アホな!

小づえ:それをガスコンロに置きます

みどり:ガスコンロに

小づえ:そして鍋に火をつけます

みどり:鍋に火が付くか!ガスに火をつけるのと違うか?

小づえ:・・・あんた行かず後家でよかったね

みどり:なんで?

小づえ:あんた結婚して息子に嫁が来たら、絶対に嫌われる姑になるよ

みどり:ほっとけ!で、ガスに火をつけて?

小づえ:十分後には、グラグラ炊き上がります。さ、みんなでおいしく食べましょう

みどり:待て待て!みんなでおいしく食べましょうて、中に入ってるの昆布だけと違うんかいな!?

小づえ:ようそんなこと言うわ。水も入ってるやないの

みどり:そんなんが食べられるか?

小づえ:贅沢な女やねぇ。昆布が食べられるだけでも幸せやないの。あんた、代用食の芋づる食べてた頃を忘れたんか?

みどり:私はどんなトシや!

小づえ:もっと中身がほしいと思われる方は、冷蔵庫の中にある物をなんでもいいからほり込んで下さい

みどり:・・・自分で工夫した小づえ鍋とか行かず後家鍋とか言ってるけど、それただの安物のごった煮鍋違うか!?

小づえ:安物のごった煮鍋?

みどり:そうや、冷蔵庫の中に入ってるもんを入れるのやろ。野菜の残りとか丸干しとかハムの切れ端とか

小づえ:へー、あんたとこの冷蔵庫、いつもそんなもんしか入ってへんの。うちは違うよ

みどり:というと?

小づえ:一番上の段には数の子でいっぱい、二段目は松茸でギューギュー、三段目にはお頭付きの鯛がとびはねてるよ

みどり:ほんまかいな!

小づえ:冷凍庫の中身はもっとええもん入ってるよ

みどり:何が入ってるの?

小づえ:松平健のサイン入りプロマイド

みどり:入れるなそんなもん!

小づえ:まあいっぺんうちの冷蔵庫の中の物で作った小づえ鍋食べて

みどり:ぜひ呼ばれるわ

小づえ:ほらもう出来上がった鍋よ。ほな鍋のフタとるわよ。ほら

みどり:うわー、豪華なもんがいっぱい入ってるなあ

小づえ:うちの冷蔵庫の中身はすごいでしょ。これ、鯛の切り身でしょ、松茸でしょ、ロース肉でしょ、数の子でしょ

みどり:ちょっとこれなに?ハッサクの種が二つ入ってるの違う?

小づえ:ハッサクの種?何言うてるのん。これあんたの目が映ってるんやないの

みどり:・・・言わなんだら良かった

小づえ:ほな食べて、ちくわがおいしく煮あがってるよ

みどり:そう

小づえ:食べて、ごぼ天がおいしく煮あがってるよ。食べて、ひら天がおいしく煮あがってるよ

みどり:安いもんばっかりすすめな!

小づえ:けどおいしいでしょう

みどり:おいしいけど、なんか知らんけどこの鍋、香りが全然ないね

小づえ:香りが?なんでやろ?・・・ごめん、冷蔵庫の脱臭剤も鍋の中に入れてしもてるわ

みどり:あかんわ!

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