若井はんじ・けんじ「お笑い昔のラブレター」
けんじ:昨日まで、女房と二人で九州旅行へ行ってましてね
はんじ:知ってるがな(絵ハガキを取り出し)この絵ハガキ送ってもろたから
けんじ:美しいでしょう、その絵ハガキ
はんじ:美しいのはええけど、この絵ハガキに書いてある君の文章おかしいで
けんじ:どう?
はんじ:(絵ハガキを読む)昨日、僕たちは雲仙と長崎に行って来だった。雲仙は大変美しました。それに、まわりの景色が大変雄大かった。また、長崎も素晴らしました。この町はすごく坂が多だった。本当に僕は幸せかった。・・・君これ、「だった」と「かった」と「ました」の使い方を間違えてへんか?
けんじ:そうかなあ?
はんじ:(絵ハガキを読みながら)昨日、僕たちは雲仙と長崎に行って来だった・・・この最後は、「だった」ではおかしいねや
けんじ:だったらどうやっちゅうねん!?
はんじ:・・・ここは、(絵ハガキを読みながら)昨日、雲仙と長崎に行って来かった・・・とこうならないかん
けんじ:行って来かった!?
はんじ:(絵ハガキを読みながら)雲仙は大変美しました・・・ではいかんねえ、ここは大変美しだった。こうやね
けんじ:まわりの景色が大変雄大かった・・・いうのもおかしいか?
はんじ:もちろん、ここは当然、大変雄大ました。とならないかん
けんじ:・・・ほな、長崎も素晴らしました。いうとこは、「かった」か「だった」か、どっちがええわけや?
はんじ:いや、この箇所は、「かった」も「だった」も当てはまらん
けんじ:と言うと?
はんじ:ここはやっぱり、長崎も素晴らしチャったるでヨー、とならないかん
けんじ:どこの言葉やそれは!・・・しかし、君は読まなんだけど、その絵ハガキに書いた最後の、夕日に照らされた女房の顔が大変美しかった・・・の「かった」はそれでええのやろ
はんじ:それでええけど、美しかった。で終わってしもたらあかんがな
けんじ:と言うと?
はんじ:女房の顔が大変美しかった。ように錯覚して見えました。本当はガタガタやのに・・・とこうならないかん
けんじ:なんでやねん!
はんじ:君は奥さんとの恋愛時代、手紙のやりとりいうのやってたか?
けんじ:いや、いつも電話や
はんじ:それで、あまり手紙を書きなれてないから、文章がまずいんやね
けんじ:すると君は、奥さんとの恋愛時代、手紙のやりとりをやってたん?
はんじ:やってましたよ。女房のやつ、昔僕が出したラブレターを、今でも大事に持っとるがな
けんじ:君を愛してる証拠や
はんじ:しかし、あんなもん、いつまでも持ってられたらたまらんで
けんじ:どうして?
はんじ:僕、この前女房と喧嘩した時、「このオカチメンコ!」て言うてやったんや
けんじ:ホー
はんじ:ほな、女房の奴、「オカチメンコとは何よ!本当はあんた、私のことをこう思ってるくせに」言うて、僕が昔、女房に出したラブレターを突き出しよんねや
けんじ:そのラブレターには何が書いてあるの?
はんじ:「〇〇さん、あなたは美しい、まるでクレオパトラか楊貴妃だ」
けんじ:・・・そんな冗談書くからいかんねや!
はんじ:女房が僕に「風呂の水汲んでよ」言いよった時に「風邪ひいてるのに、そんなこと出来るか!もし足を滑らせて、水風呂の中へでも落ちたらどないするねん」て言うたことあるねん
けんじ:嫁はん、どう言いよった?
はんじ:「あんたこれ忘れたの!?」言うて、また一枚の、昔僕が出したラブレターや
けんじ:それにはどう書いてあったんや?
はんじ:「〇〇さん、あなたの為なら、例え火の中水の中、決していとやせぬ」
けんじ:・・・そんなキザなこと書くからじゃ!
はんじ:風呂から上がった後、「着替えのパンツ出してくれ」言うたら、女房の奴。「これしか無いわよ」言うて、自分のパンツを出しよったことあるねん
けんじ:自分のパンツをかいな
はんじ:余りに腹が立ったから、「俺がお前のパンツなんかはけるか!」言うて怒鳴ったら「これ見て」言うて、また、昔のラブレターや
けんじ:どう書いてあったんや?
はんじ:「〇〇さん、僕とあなたは、いつまでも一心同体でいようね」
けんじ:そんな事書くから、嫁はんのパンツはかされるのじゃ!
はんじ:うちの女房と君とは、すごく仲が悪いやろ
けんじ:どういうわけか、仲悪いね
はんじ:僕は女房に、「おい、これからはあいつと仲良うしてくれ、若井けんじは、あれでも、わしの血肉を分けた可愛い弟なんやぞ」て言うたことあるねや
けんじ:さすが兄さんや、よう言うてくれた
はんじ:泣くな、そんなこと兄弟として当然や
けんじ:で、奥さんの反応はどうやったんや?
はんじ:「何言ってるのよ、これ見なさい!」言うて、また昔のラブレターや
けんじ:そのラブレターにはどう書いてあった?
はんじ:「〇〇さん、あなたの為なら、弟のけんじなんか、いつでも始末いたします」
けんじ:もう勝手にせい!
はんじ:ところで、君に頼みがあるのやけど
けんじ:なんや?
はんじ:うちの女房から、昔のラブレターを盗み出してくれへんか?あれがあったら、気になって気になって
けんじ:自分で盗みだしたらええやないか
はんじ:僕がそんなことして女房に見つかってみ、袋叩きにされるがな
けんじ:袋叩きに?
はんじ:その点、君が盗み出して女房に見つかったとしても、半殺しにされるだけで済むのやで
けんじ:それの方がきついやないか!
はんじ:な、頼むわ、もし盗み出してくれたら、その盗み出したラブレターを、僕が君から買い取ろやないか
けんじ:いくらで買い取ってくれる?
はんじ:手紙が一通につき千円、ハガキは五百円でどうや
けんじ:手紙が千円で、ハガキが五百円か
はんじ:ほんで、電報が三百円
けんじ:君、ラブレターを電報で出したことあるのん?
はんじ:ありますよ。急いでた時にな
けんじ:電報でどんな風に出したん?
はんじ:ボクハキミガスキダ、クワシイコトハデンワデハナス。ホナサイナラ、ハンジ
けんじ:最初から電話せい!
はんじ:手紙はうちの金庫の中に、女房がしもてるからね
けんじ:手紙を金庫の中にしもてるてかい
はんじ:女房にとっては大切なもんやからね・・・君がいつもやってる要領で、うまいこと盗んでや
けんじ:・・・どういう意味やそれ!
はんじ:うちの金庫の開け方は、まずダイヤルを左へ3メモリ回して、右へ2メモリ・・・そしてどやったかな・・・
けんじ:そして、もう一回左へ5メモリ回して、取っ手を掴んで右へガチャン、これでええのやろ
はんじ:そうそう、それで・・・なんで君が知っとんねや!?
けんじ:まあええがな
はんじ:しかし、あの手紙さえ盗み出せたら、女房と喧嘩した時でも僕に有利やなあ。安心して「オカチメンコ!」て言えるから
けんじ:(女房になって)「あなた、私にオカチメンコとはなんですか、これを御覧なさい」
はんじ:なんやそれ?
けんじ:(女房になって)「結婚前、あなたが私に出したラブレターよ」
はんじ:おかしいな、それ盗み出したはずやで
けんじ:(女房になって)「そういうことがあろうと思って、ちゃんとコピーを取っておいたんです」
はんじ:そんなアホな!
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