今いくよ・くるよ「女は変わる」

いくよ:いらっしゃいませ

くるよ:どうもどうも

いくよ:ご存じの方は多いと思いますが、私らは高校時代からの友達でして

くるよ:女子高でしたから、当時はいくよちゃん目当てに男子校の生徒が学校の周りをよくウロウロしてましてね

いくよ:くるよちゃん目当てにも、よく大相撲の親方衆がウロウロしてました

くるよ:なんで私が、大相撲の親方から目当てにされないかんのよ!

いくよ:当時、自転車通学の生徒が多かったんですけど、その当時からくるよちゃんは目立ちたがりでして

くるよ:どこが?

いくよ:皆は婦人用の自転車に乗って通学してたんですけど、くるよちゃんだけは、氷屋さんがよう乗ってる運搬車いうやつですねん

くるよ:・・・あのね

いくよ:またあれやないと、普通のでは車体が持たなかったんです

くるよ:何を言うてるの、私の通学は自転車やなかったでしょ

いくよ:自転車やないというと?

くるよ:パパの車でいつも学校まで送り迎えしてもらってたでしょ

いくよ:そうでしたそうでした。くるよちゃんのお父さんは、牛を運ぶトラックの運転手してはりまして

くるよ:牛を運ぶトラックて

いくよ:牛に混ざって荷台に乗って、よう学校まで送ってもらてました

くるよ:・・・あのな

いくよ:じっくり見んことには、どれが牛でどれがくるよちゃんやらわかりませんねん

くるよ:やかましいわ!

いくよ:でも、車での通学は校則で禁じられてましたから、くるよちゃんはよく怒られてたね

くるよ:本当、校則の厳しい高校でしたね

いくよ:また厳しないといかんのよ

くるよ:学校でたばこ吸うたらいかん、酒飲んだらいかん、子供産んだらいかん、泥酔したらいかん

いくよ:いかんのに決まってるやろ!

くるよ:でもその頃が懐かしいね

いくよ:当時は仲良しのグループというのがあったんですけど、私のグループとくるよちゃんのグループとは違いましてね

くるよ:同じグループと違ったんです

いくよ:私のグループは、吉田さん、山本さん、高橋さん、木村さん

くるよ:懐かしい名前や

いくよ:くるよちゃんのグループが、熊谷さん、鹿山さん、牛野さん、カバ山さん、サイ川さん、猿田さん

くるよ:・・・私のグループは動物の名前の付いた人ばかりか!?

いくよ:実は、その女子高時代の同窓会が先日ありまして、私らも行ってきたんです

くるよ:行ってびっくりしました

いくよ:何をびっくりしたん?

くるよ:来てたの、皆なおばちゃんばっかり

いくよ:・・・そらしょうがないでしょう。それだけ皆なトシとってるのよ

くるよ:しかし、女て変われば変わるもんやなあと、つくづく思いました

いくよ:それは確かに私も思いましたね

くるよ:吉田さんなんか学生時代、ボール蹴るのも恥ずかしい言うて、よう蹴らなんだやろ

いくよ:吉田さんね、そう言えばお嬢さんぶってたから、ボール蹴るのも恥ずかしがってたね

くるよ:今、買い物に行った店が閉まってたら、表のシャッターを蹴り上げるらしいよ

いくよ:・・・変われば変わるもんやねえ

くるよ:でしょ

いくよ:そう言えば、山本さんなんか、学校時代、こんな小さなお弁当を30分もかけて食べてはったでしょ

くるよ:覚えてる覚えてる、上品そうにちょこっとずつ食べてたね、あの山本さんは

いくよ:今、立ち食いうどん1分で食べる言うてたよ

くるよ:変われば変わるもんやねえ!

いくよ:小さなお弁当を30分かけて食べてたのが、今、立ち食いうどん、1分ですよ

くるよ:私、30秒ですけどね

いくよ:あんたは昔も今もや!

くるよ:それから高橋さんやけどね

いくよ:高橋さん

くるよ:学校時代、おかっぱ頭で顔がおまんじゅうみたいにふっくらとしていたでしょ

いくよ:ふんふん、おかっぱ頭で、まさに顔がおまんじゅうみたいやったね

くるよ:この前見たら、頭がおまんじゅうみたいで、顔がカッパになってたよ

いくよ・くるよ:変われば変わるねえ!

いくよ:そう言えば、木村さんて、右あごの横にほくろがあって、そのほくろが何とも言えんチャーミングで、男子校の生徒からようモテていたでしょ

くるよ:確かに木村さんのほくろて、チャーミングなほくろやったねえ

いくよ:この前見たら、あのほくろの先から、一本長い毛が生えてたよ

いくよ・くるよ:変われば変わるねえ!

くるよ:そう言えば、渡辺さんやけどね

いくよ:渡辺さん

くるよ:あの人て、そばへ寄ると、レモンの香りがいつもしてなかったか?

いくよ:ほんまにしてたかどうかは覚えてないけど、そういう雰囲気を持ってた、さわやかな人やったね

くるよ:この前そばへ寄ったら、らっきょの香りがしてたのよ

いくよ・くるよ:変われば変わるもんやねえ!

くるよ:いくらトシをとったと言っても、皆なは余りにも変わり過ぎですよ

いくよ:そういうくるよちゃんかて、だいぶ変わったやないの

くるよ:どこが?

いくよ:くるよちゃん、今では、ビール一晩に2本は飲めるやろ

くるよ:まあそれぐらいわね

いくよ:変わったやないの(客席に向かい)高校時代は一晩に5本やったんですよ

くるよ:アホな!

いくよ:でも考えてみると、同窓生の中では、くるよちゃんが一番おばちゃんにはなって無いと私は思うよ

くるよ:(おばちゃんぽく)おおきに、はばかりさん、そんなこと言うてもろたら、わて嬉しいわ

いくよ:わて嬉しいて

くるよ:今度、わてなんかおいしいもん奢らせてもらうわ。おいしいもんいうても、堅いもんはあかんで、わて歯が悪いやろ

いくよ:・・・おばちゃん通り越して、それおばあちゃんやで!

くるよ:ほんま、トシとっても、若い時の気持ちのままおれたら最高ですけどね

いくよ:トシとって変わるのは仕方が無いけど、悪い方には変わりたないね

くるよ:悪い方というと?

いくよ:まず、人の不幸に対して、若い時は真剣に同情するけど、トシ取ると、口と裏腹に人の不幸を喜ぶおばちゃんているでしょ

くるよ:いるいる、私はそういうおばちゃんにはなりたないね

いくよ:まず、若い頃です・・・「ちょっとちょっと、田中さんのこと知ってる?」

くるよ:「田中さんがどないしたん?」

いくよ:「彼女、付き合ってた高島君に捨てられたそうよ」

くるよ:「まあ、あんだけ愛し合って付き合ってたのに」

いくよ:「気の毒でしょ」

くるよ:「うう・・・(声を詰まらせて泣く姿)」

いくよ:「どないしたの、目からヨダレ垂らして」

くるよ:「涙や!田中さんに同情してるのよ、気の毒やわあ」

いくよ:このように、若い頃は真剣に同情しますが、今度は悪い方に変わったおばちゃんです

くるよ:口と裏腹の方やね

いくよ:「ちょっと奥さん!」

くるよ:「なんですの奥さん」

いくよ:「田中さんとこ、ご主人が浮気しはったそうよ」

くるよ:「まー、ご主人が浮気を?」

いくよ:「そうなのよ」

くるよ:「それは気の毒に、エッエッエッ(と笑う)」

いくよ:「気の毒でしょう」

くるよ:「(笑顔で)私同情するわあ。でも、それ本当の話?」

いくよ:「私も嘘だと思ってたのよ」

くるよ:「私、あの奥さんがご主人に浮気されるなんて気の毒でたまらないわ。信じたくないわ」

いくよ:「でも本当なのよ」

くるよ:「良かった」

いくよ:良かったて!

くるよ:「でも、どうしてご主人が浮気していることが分かったのかしら?」

いくよ:「それが、浮気の現場を奥さんが見てしまったらしいのよ」

くるよ:「マー、気の毒に、エッエッエッ(と笑う)」

いくよ:気色悪い笑い方やな!

くるよ:「じゃあその時、奥さんと相手の女は、大喧嘩になったでしょ」

いくよ:「当然なるわよ」

くるよ:「奥さん気の毒ねえ」

いくよ:「ところが、喧嘩にはならなかったそうよ」

くるよ:「しょうもな」

いくよ:しょうもなて・・・

くるよ:「どうして喧嘩にならなかったの?」

いくよ:「最初は喧嘩になりかけたのよ」

くるよ:「行け―!やれー!包丁持てー!!」

いくよ:・・・包丁持てて

くるよ:「田中さんの奥さん気の毒やわあ」

いくよ:「・・・相手の女性が謝って、ご主人と別れると言ったらしいの」

くるよ:「それで一応は収まったわけね」

いくよ:「そうなの」

くるよ:「良かった。ほんとに収まって良かったわ」

いくよ:「ところが、謝った尻から、ご主人と女が会ってたらしいのよ」

くるよ:「行け―!やれー!他人のもめ事は大きいほど面白い!」

いくよ:・・・こんな風には、本当、なりたくありませんね

くるよ:ほんまやね

いくよ:それから、若い時はそうでもないのに、トシとるにつれて、見栄を張りだすおばちゃんがいてるでしょ

くるよ:あれも嫌やねえ

いくよ:「あら奥さま!」

くるよ:「どうもどうも」

いくよ:「この2・3日お見掛けしませんでしたわねえ」

くるよ:「ええ、ちょっと香港までギョーザ買いに」

いくよ:「・・・香港へギョーザ買いに!?」

くるよ:「奥さんも、その前の2・3日お見掛けしませんでしたわねえ」

いくよ:「ちょっとニューヨークまで風呂入りに」

くるよ:「・・・素晴らしいことですわ」

いくよ:「あら奥さん、いいブレスレットしてはりますわねえ」

くるよ:「24金ですのよ」

いくよ:「24金ですの。それも大きなブレスレット」

くるよ:「16キログラムありますの」

いくよ:あるかいな!そんな重たいブレスレットしてたら、腕が持ち上がるかいな

くるよ:大丈夫、この腕この腕!(と左手で右腕を叩く)

いくよ:これ腕やったの?

くるよ:そうよ

いくよ:私、足やとばかり思てたわ

くるよ:アホな!・・・「あら奥さん、奥さんもいいネックレスしてはりますね」

いくよ:「たいしたことないんですのよ、ただの68金ですの」

くるよ:あるかいな!

いくよ:「奥さんところは、ご主人がいいお仕事をなさってるから、本当いいですよね」

くるよ:「おかげさんで」

いくよ:「つまようじの販売を、ずいぶん手広くやっておられるんですってね」

くるよ:「奥さん、その、つまようじの販売というのを、余り大きな声では言わないで欲しいんです」

いくよ:「どうしてですの。立派なお仕事じゃないですか」

くるよ:「世間には材木商と言うてあるんです」

いくよ:「材木商!?」

くるよ:「扱う材木が、1日1万本以上なんですのよ」

いくよ:そらそやろ!

くるよ:「そうそう、奥さんとこのご主人は、鏡の鏡台とか、写真の額なんかを作る木工のお仕事でしょ」

いくよ:「あまり大きな声でそれを言わないでください」

くるよ:「どうしてですの、立派なお仕事じゃないですの」

いくよ:「世間には京大の学長と言うてますの」

くるよ:「アホな!無茶苦茶やがな」

いくよ:こんな風に、おばちゃん同士が見栄の張り合いしてるのを見ると、ゾーッとしてくるね

くるよ:私、いくらトシを取ろうと、見栄を張る女だけには絶対にならんとこ思うのよ

いくよ:わかるわかる

くるよ:女として醜いもの

いくよ:見栄があったら、この顔で世間を歩けませんよ

くるよ:顔は関係ないでしょ!とにかく見栄張るのは嫌

いくよ:くるよちゃんは、衣装なんかにも見栄張ったりせんもんね

くるよ:本当なんですよ、今着てる程度の衣装は何十着もあるんです

いくよ:数は多いです

くるよ:1着たったの600万円ですよ

いくよ:もうええわ!

いいなと思ったら応援しよう!