今いくよ・くるよ「女たちの同窓会」
いくよ:亀岡へやってまいりました
くるよ:亀岡というのは、京都市内とはもう目と鼻毛の先でしてね
いくよ:鼻毛と違ごて、鼻の先でしょう
くるよ:鼻の先よりちょっと近いから、鼻毛の先でええねん
いくよ:私ら京都育ちやから、昔、よう亀岡の方へ遊びに来ました
くるよ:遊びに来たいうても、私なんかは亀岡の町の中と違ごて、近郊の山々へよう行きました
いくよ:町の中で遊んでも絶対ボーイハントなんか出来へんでしょ。しょうがないからこの人、男やったらイノシシでもええからいうて、よう山へ遊びに行ってました
くるよ:・・・なんで私がイノシシをハントせないかんのよ
いくよ:亀岡のすぐ近くの保津峡へなんかも、よく飯ごう炊爨に行きました
くるよ:飯ごう炊爨、よく行ったね
いくよ:あんたなんか、他の人のご飯まで食べてしもて、よう保津川へほり込まれてたがな
くるよ:なんでやねん!だいたい、いくよちゃんとは女子高時代の同級生やったか知らんけど、仲良しグループが違ごたから、いくよちゃんとは飯ごう炊爨なんか行ったことないやないの
いくよ:そう言えば、同じクラスでも、グループは違ごたね
くるよ:この人、見かけによらず突っ張りグループに入ってたんですよ
いくよ:この人、見かけ通り上手投げグループに入ってたんですよ
くるよ:・・・私のグループは相撲取りみたいな子ばっかりのグループか!?
いくよ:私、途中で突っ張りグループやめまして、なんでやいうたら、女の子でありながら、先生を殴ろなんて相談するんですよ
くるよ:私らのグループはそんなことしません。先生と飯ごう炊爨に誘うようなグループ
いくよ:ホー。先生を飯ごう炊爨に
くるよ:誘て、保津川へほり込むグループ
いくよ:保津川へほり込まれるのはあんただけでええねん!
くるよ:ほんまはそんなことしませんけど、でも女子高時代の仲良しグループいうのは、いつまでも付き合いがありましてね
いくよ:気心が知れてるからね。卒業して何年かすると、誰かさんから「結婚しました」なんて手紙が来たり
くるよ:ほなこっちから「あなたが第一号ね、幸せにね」なんて返事だしまして
いくよ:そうそう
くるよ:けどこれ、第一号や第二号の人の時は、私の方もうれしい気持ちなるけど、第七号第八号あたりの報告聞くと、複雑な気持ちになりましてね
いくよ:自分の事が気になって、素直に喜べんようになりましてね
くるよ:第十号、第十一号の報告に出す返事なんか「勝手にせい」とか「やかましいわい」になりまして
いくよ:・・・そういうのがまた「赤ちゃんできて、お腹大きくなりました」なんて報告してきたりしますねん
くるよ:返事は必ず「私は赤ちゃんできんでもお腹大きいわ」て書いてやるねん
いくよ:そら皮肉がきついわあ
くるよ:ほなあんた、赤ちゃんできた報告来たらどんな返事書くの?
いくよ:「その子誰の子ですか?」
くるよ:それの方がきついがな!・・・でも最近は不思議と「私、結婚しました」いう報告はきません。どうしてでしょうか
いくよ:皆な済んでしもたんや!
くるよ:ついこないだ「私、離婚しちゃった」なんて報告きまして
いくよ:私らはそんな報告が来るトシですわ
くるよ:私、その時初めて「おめでとう」と書きました
いくよ:アホな!そういう昔の友達が集って、この前同窓会やったんです
くるよ:やりました。嵐山の料理屋さんで
いくよ:私、あの同窓会に出席していろんな発見しましたわ
くるよ:発見というと?
いくよ:女て高校ぐらいの時に可愛い型の美人いうのは、トシいくと不細工になりますね
くるよ:そう言えば、山下さんの変わりようにびっくりしたもん
いくよ:反対にくるよちゃんのように、高校時代ブスやった子いうのは
くるよ:(笑顔で)ふんふん
いくよ:トシいってもブスのままですね
くるよ:・・・美人になる言うてくれるの違うんかいな!
いくよ:誰が言うかいな!それに、女て結婚して子供出来てある程度トシとると、無茶苦茶よう喋るようになりますね
くるよ:よう喋るわ。その同窓会、喋るのが本職の私らが一番無口やったんですからね
いくよ:どんな同窓会か皆さんに想像つくでしょ
くるよ:やかましいやかましい。あんなもん同窓会と違ごて騒動会ですよ
いくよ:それに、女て高校時代には考えられんぐらいあつかましなりますね
くるよ:そうやねん、私の左隣に座ってた人なんか、私の刺し身まで食べよとするのよ。あつかましいわあ
いくよ:そういうあんた、刺し身食べられたんを怒りながら、右隣の人の天ぷら食べてたやないの
くるよ:刺し身の仇は天ぷらで取らなどないするの
いくよ:仇とるんやったら、刺し身をとられた人の天ぷら食べんかいな
くるよ:食べよ思ても、もう食べたあとであれへんやないの!
いくよ:・・・しかし情けない同窓会やわ。でも、やかましくてあつかましなるけど、性格そのものは高校時代と皆な変わらんことわかったね
くるよ:性格は変わらんね
いくよ:見栄張りの性格やった谷口のり子さんなんか、わざわざ外車で同窓会の会場へ乗りつけてたやろ
くるよ:そう、大型の外車で幅数十メートルはあるやつ
いくよ:そんなもん道路走れるかいな!
くるよ:同窓会なんか電車で来たらええのよ
いくよ:そうよ
くるよ:反対に、高校時代から自分の貧乏を強調したがる性格の山田たか子さん。同窓会へわざわざローラースケートで来ますねん
いくよ:来てるかいな!しかし、見栄張りの性格同士が喋りおうてたけど、見てて嫌やったねえ
くるよ:醜い見栄の張り合い
いくよ:「あらー、あなた鈴木恵子さんじゃない」
くるよ:「そういうあなた、谷口のり子さん」
いくよ:「私、今は三条のり子というのよ、三条ってお公家さんみたいでいい名前でしょ」
くるよ:「勝った。私今、四畳半恵子って言うのよ」
いくよ:「四畳半なんて苗字あるんかいな!・・・私の主人、今、商事会社の重役しているのよ」
くるよ:「勝った。私の主人、今、フスマ会社の重役」
いくよ:「・・・私の主人、今、単身赴任でデンマークへ行っているの、恰好いいでしょ」
くるよ:「単身赴任が何よ。うちの主人、全身マッサージしてもらってるのよ」
いくよ:「単身赴任と全身マッサージとどう比べようがあるのよ!そうそう、私の主人、毎年、所得番付に載ってるのよ」
くるよ:「毎年所得番付、勝った。私の主人、毎日サケ茶漬け食べてるのよ」
いくよ:勝ってへんちゅうねん!こういう会話があるかと思うとこっちの方では、反対に主人の愚痴の言い合いなんかがありましてね
くるよ:「田中さん聞いてよ、私の主人って酷いのよ」
いくよ:「あら、どう酷いの?」
くるよ:「夫婦喧嘩するたびに私のこと、馬鹿だ馬鹿だというのよ」
いくよ:「マー」
くるよ:「私、学生時代馬鹿じゃなかったわよね、いつも試験の点数良かったわよね」
いくよ:「良かったわよ、カンニングが上手かったから」
くるよ:「・・・それに夫婦喧嘩になると、私のことを、気がきつい気がきつい言うのよ。私、気がきつくないわよね」
いくよ:「きつくないわよ。で、ご主人、夫婦喧嘩のどういう時に気がきついって言うの?」
くるよ:「まな板で主人の頭をぶん殴った時よ」
いくよ:「きつ過ぎるやないの!」
くるよ:「でも私って、高校時代はそんなに気がきついくなかったでしょ」
いくよ:「そうそう」
くるよ:「カンニングして怒られた歴史の武田先生の頭に、バケツかぶせて袋叩きにしたぐらいのもんよね」
いくよ:「それが気がきついのよ!でも、あなたはどういうことでご主人と喧嘩するの?」
くるよ:「それが、うちの主人毎日朝帰りなのよ、身勝手な主人でしょ」
いくよ:「本当、毎日朝帰りとは身勝手やねえ。で、あなたのご主人の仕事は?」
くるよ:「深夜レストランのマスターよ」
いくよ:「あんたが身勝手やねん!毎日働いての朝帰りやないの」
くるよ:「私がいけなかったのかしら」
いくよ:「それに比べるとうちの主人なんか酷いわあ」
くるよ:「というと?」
いくよ:「とにかく、いいトシして姑さんに甘えて甘えてしょうがないのよ」
くるよ:「マー、姑さんに甘えるて。あなたのご主人って、姑さんのことを、自分のお母さんのように思ってるのねえ」
いくよ:「・・・お母さんでええのよ!」
くるよ:「いいトシして、男のくせに乳ばなれが出来ないのねえ」
いくよ:「そうなのよ、その点、あなたは高校生のころから、乳ばなれも人間ばなれもしてきたわねえ」
くるよ:「人間ばなれは余計よ!」
いくよ:「姑さんの言うことならなんでも聞く癖に、うちの主人、私の言うこと全然聞かないのよ」
くるよ:「というと?」
いくよ:「この前も私が『表のブロック塀の修理、お母さんに頼みましょ』と言うたら『それはやめとこ』とこうよ」
くるよ:「姑さんて、今いくつ?」
いくよ:「96歳・・・残酷でしょう、主人て」
くるよ:「あんたが残酷やねん!でも、うちの主人もあなたとこと同じで、姑さんの言うことだけは、いつも『ハイ!』と答えるのよ」
いくよ:「どういう時に?」
くるよ:「嫁の尻に敷かれてはいけません」・・・「ハイ!」
いくよ:「マー」
くるよ:「嫁なんか人間や思たらいけません」・・・「ハイ!」
いくよ:「酷いねえ」
くるよ:「物を燃やしたあと残るのなんですか」・・・「ハイ!」
いくよ:「・・・それは灰でええねん」
くるよ:こういう会話がこっちであるかと思うと、こっちではお酒に酔うた誰かが一人でブツブツ言いだしましてね
いくよ:女の同窓会でも、お酒は出ますからね
くるよ:女の酔っぱらう姿て醜いですよ
いくよ:本当
くるよ:(酔っぱらって)「ウイーーッ!なんじゃちゅうねん、バカヤロー!」
いくよ:あんたがやると、男の酔っ払いより迫力あるなあ!
くるよ:(酔っぱらって)「何が同窓会じゃほんま!主人がどうの姑がどうの、愚痴ばっかり並べてからに。主人や姑の悪口が言える女はまだましじゃ。この私なんか、主人の悪口を言お思ても、嫁に行ってへんのやから言うに言えへんのんじゃ」
いくよ:・・・あれ?
くるよ:(酔っぱらって)「嫁にも行けずに、朝から晩まで、腹叩きながらまんざいやってる者の身になってみい」
いくよ:酔っぱらってるのあんたかいな!
くるよ:(酔っぱらって)「私はいつでも嫁にもろてもらえるだけの器量よしやけど、いつも漫才の相方が邪魔ばっかりしてからに」
いくよ:それ反対やろ!
くるよ:(普通の喋り方に戻り)全国の男性の皆さん、どなたでも結構です。たまには私を嫁さんに貰ってみる気になりませんか
いくよ:たまにはて
くるよ:会場のそこのおじいちゃんでもいいんですよ
いくよ:ちょっと待ちいな!
くるよ:嫁にもらってもろて、私は夢をかなえたいんです
いくよ:夢というと?
くるよ:この次の同窓会には、みんなに負けんように思いきり主人の悪口言いたいんです
いくよ:そんなアホな!