【最高品質プリントをつくる4つのこと】 4. ジクレー・アーカイバル・プリント方式
お話の内容は【写真中級者向け】です。
おはようございます。
アラスカの中島たかしでございます。
最高品質でプリントするために行う4つのこと。
最後の第4回目は、西洋の伝統的な印刷方法についてお話していきます。
今回も、米国で写真学習しつづけている僕が、欧米の情報をベースに、日本語で解説してゆきます。
メイン情報ソース:The Making of a Landscape Photograph by Robert Rodriguez Jr
【記事ジャンプ用】
さて、今日の結論はこうなります。
【今日の結論】
最高級というためには、5年で劣化してはダメ。100年以上の永続を保証してこそ最高品質プリントであり、そのためのルールを守る。
ということになります。それでは見ていきましょう。
今日の内容1
【顔料インクと染料インク】
まず、最高品質を出すためには、アート紙のなかで固定される色、つまりインクが最重要になります。
インクは大きく、顔料インクと染料インクに分けられます。
顔料インク(Pigment Ink)
利点:超高精細が可能。色が早く安定する。経年変化が少ない。さまざまな紙に印刷できる。
欠点:高価。色表現では、染料インクに劣る。
染料インク(Dye Ink)
利点:安価。ガンマ領域が広い(色表現が豊か)。光沢感が出やすい。
欠点:光によって退色しやすい。使用する紙が限定される。にじむ。
顔料インクを使うと、パーマネンスが上がります。つまり保存期間が長くなるのです。
なかでも、米国プロフェショナルの間で定評があり、よく使われているのが、EPSONのウルトラクロームK3インクですね。
エプソンSC-PX1VのインクUltrachrome K3 Ink カートリッジ
そして、ファインアート界のプリントスタンダードは、この顔料インクであることは必須条件となります。
今日の内容2
【プリンターの仕様】
最高品質を得るために必要なプリンターのスペックを考えてみましょう。
・レーザーではなく、インクジェットプリンターであること。
・顔料インクを扱うプリンターで行うこと
・6色以上のインクタンク(階調豊かに表現し、色域も上げる。)
・インクを吹き付けるドットが小さい(解像度の高い)プリンター
・アート紙の厚さでも給紙できるプリンターであること
では、どのプリンターが良いのか。
米国のプロあるいは、プロラボの印刷業者はみな、EPSONかCANONをつかっています。HPも参入していますが、しかし2択でしょう。
強いて車に例えるなら、EPSONは高級外車、CANONは安定した国産車といった感じです。
EPSONは使用している顔料インクに高評価が寄せられており、また、インクの吹付けの精度が優れていると言われます。しかし、CANONよりもトラブルが起こりやすいのも事実のようです。
ひとつ例を上げれば、僕はいまエプソンのSC-PX1Vを使用しています。旧5Vからだいぶ改善されたことが謳われましたが、難点の一つは、Lightroomのプリンターモジュールにて互換性が完璧ではないという点です。
今年7月に発売されたエプソンプリンターSC-PX1V
表現力がすばらしい機器です。
プリントする際にはパソコンからの色の指示書である、ICCプロファイルというものがとても重要なのですが、その指示書が適切に表示されない、というトラブルがあり、発売から半年過ぎた今(2020年11月)でも、未だ解決されていません。
僕は、さまざまなレビューを見ていたので、その覚悟を決めてEPSONにしましたが、CANONも高い評価を得ているので、買う前に調べてみてください。
今日の内容3
【ジクレー・アーカイバル・プリント方式とは】
天然素材ベースのアート紙を使った、顔料インクによる吹付けで、100年以上の耐久性をたもったプリントを制作するための方法のことを、ジクレー・アーカイバル・プリント方式と呼びます。
ジクレー方式を説明する証明書(Certificate of Authenticity)
この方式は、1840年代のフォックス・タルボットの時代から、西洋絵画を写真機で写して印刷し、複数の人へ届けるための技術として発展してきた経緯があります。
あたりまえですが、絵画の場合はオリジナルは一つ、ですよね。それを写真で撮影し、丁寧にプリントすることで、複数の絵を作り、上の画像にあるような真正性証明書をつけて、それを販売していたのです。
ジクレーというワードは、なかなか日本では聞かない言葉だと思いますが、米国のファインアートプリントの世界では、この印刷方式を用いてはじめて、作品として表に出すことができます。
では、このジクレー・アーカイバル・プリントの方式で必要なことは、具体的に何なのでしょうか。
以下にこれまでのまとめとして、条件を見てみましょう。
・OBA*の入っていないアート紙を使う
・デジタル画質に負けない高精度なプリンターをつかう
・退色・変色・色ニジミのしない顔料インクを使う。
*OBAとは、Optical Brightning Additiveの略で、白を強調する蛍光増白剤と言われるものです。この薬品が紙に使われていると、印刷後に発色良く見えますが、長持ちはしません。
他にも細かい部分はありますが、すくなくとも、上記3点のルールで印刷をすると、数百年の耐久性がでると言われています。それと比べてしまえば、デジタルはあまりに刹那的で、一瞬で走り去る映像に過ぎず、異なるメディアだと言わざるを得ないですね。
→ 余談ですが、一昔前、20年くらい前までは、デジタル画像とプリンターのふきつけ解像度が低かったために、手作業で行う伝統的な写真プリントにはまったく敵わなかったのです。それが、デジタル工程のクオリティが技術的に飛躍したことで、デジタル画像からインクジェットプリンターを介したプリント工程でも、「ジクレー」の名を得ることができたのだそうです。
僕の自宅スタジオでの制作風景
☆西洋発祥の伝統印刷方式(ルール)を用いてこそ、プリントの最高品質を得ることができるのですね。
写真は西洋が発祥です。その文化が発展しているもの、残念ながら日本よりも西洋です。その最高基準に従って作品を制作することは、僕は理に適っていると考えています。
4つの記事からなる【最高品質のプリントをつくる】は今回で完結です。ジクレー・アーカイバル・プリントという西洋の伝統印刷方式が、その集大成となるわけですね。
【最高品質】シリーズ 記事の総まとめ
では、最後にこの「最高品質」をテーマでお伝えしてきた4つの記事のポントを以下にまとめます。
1.高ビットRAWデータで撮影する。(14ビットRAWのお話)
2.人が見るようにはカメラは色をとらえないので、マルチホワイトバランス調整をする。
3.プリントはリアル!最高品質の写真のために、アート紙を使う。
4.100年以上の永続を保証してこそ、最高級プリントであり、そのためのルールを守る。
以上になります。
【カラーマネジメントについては、別記事にまとめてゆきます。】
※じつは、プリントプロセスのなかで非常に重要なカラーマネジメントについて、この4記事では述べられていません。CMS(カラーマネジメントシステム)は非常にディープな内容になるため、このテーマの中で解説する事ができませんでした。別項目でまとめていきますので参考にしてください。
この記事をここまで読み進めてくれた方は、おそらく写真の作品づくりを真剣に考えられている方だと思います。
これからも英語圏の教材をベースに、ハイクオリティな写真を制作するための内容を少しづつ記事にしていく予定です。
ぜひコメント・ご感想くだされば幸いです!
中島たかし
Nakashima Photography 公式ホームページ