【最高品質プリントをつくる4つのこと】 3. そもそもプリントは必要? アート紙についてのお話
お話の内容は【写真中級者向け】です。
おはようございます。
アラスカの中島たかしでございます。
今回も、米国で写真学習をつづけている僕が、欧米の情報をベースに、日本語で解説してゆきますので、ここで新しいことを学んでいってください。
最高品質プリントをつくるために行う4つのこと。
その第3回目は、プリントをする意味を考えながら、印刷紙についてお話していきます。
デジタルでも十分に写真を楽しめる現代、プリントするならデジタルを超える何かが必要です。そんななか、たんなるプリントではない、高品質のファインアートプリントの需要が、米国では非常に高まっています。
今日のメイン情報ソース
Print Workshop by Robert Rodriguez Jr.
【記事ジャンプ用】
【今日の結論】
今日の結論として、最終的にまとまる一文は、以下になります。
プリントはリアル!最高品質の写真のために、アート紙を使う。
ということになります。シンプルですね。
今日の内容1
【なぜプリントするの?】
では、多くの写真家がプリントをするのはなぜでしょうか。それは、プリントがデジタルよりも、豊かに表現できるからです。ひとつ秘密を言うと、印画紙の上には、視覚だけでなく、触覚をうすく乗せられるということにあります。
紙の質感が、生きものや風景の「感じ」をデジタルよりもより強く伝える、といったところです。
ところで、皆さんは撮影した写真をご自身でプリントしたことがありますか?良いプリンターを買うのは少しハードルが高いことなので、いちど、プロラボに印刷をお願いしてみるというのが良いと思います。
余談ですが、いままで僕がお願いしてきた日本のプロラボの中でのベストは、東京表参道にギャラリーのある、ピクトリコプリント工房さんです。日本の写真展で展示する作品は、いまではすべてこちらにお願いしています。
では、本題に入る前に、ひとつ考えておきましょう。
見た目に近いとはいえ、本当にプリントする必要があるのですか?
ということです。一昔前までは、印刷しなければ写真のイメージ自体見られなかったわけですから、写真→プリントが当たり前だったわけですが、いまではモニターがあります。タブレットがあります。スマホがあります。このさき、さらに紙の印刷媒体は減るでしょうね。
それなのに、紙にプリントをするのはなぜですか?
それを一度、ご自身に問うてみてください。
僕の場合のその答えは、「自然の翻訳」ということにあります。突き詰めると、デジタルではどうしても臨場感がでないのです。これは、モニターでみる写真が電気信号だからでしょうね。
デジタル写真の臨場感について、このさき発展するかもしれませんが、まだ全然ダメですね。これが、質感のあるアート紙に印刷し、「物体」としてのプリントが目の前にあると、自然そのものにかなり近づけることができます。
これは、言葉で伝えるよりも実物を見て比べていただいたほうが遥かにわかるのですが、ヒグマがサケを取るシーンの水しぶきや、オオヤマネコの冬毛のあたたかそうな質感。それはプリントしてみると、驚くほどのリアルさ・臨場感が出るのです。
そして僕は、自然のシーンを多くの人に見て知ってもらうため、僕の言葉(=写真表現)で、自然を翻訳し、皆さんの前に提出する、という印刷に対する哲学があります。
プリントにチャレンジする方は、ご自身でも一度「なぜプリントをするのか」考えてみてください。
そして今日の内容の中核は、臨場感を出す=最高品質の作品を作るために大切なことになります。
では、アート紙についてみていきましょう。
↑ マット調のアート紙の例 竹をベースとした、質感あるアート紙(Hahnemuhle Banboo 290gsm)
↑ ハーフ・グロッシー(半光沢)のアート紙の例 僕のお気に入り、フォト・ラグ・バライタ(Hahnemuhle PhotoRag Baryta 315 gsm)
今日の内容2
【アート紙とRCペーパー】
印刷する紙はとても重要です。ハッキリ言ってしまえば、デジタル画像でも十分に写真を楽しめる現代、安価なそこそこのクオリティでプリントを作るよりも、せっかくプリントするなら最高品質を追求すべきです。
そして、「どうせ印刷するのなら、どこかのポイントでデジタルを凌駕しなくてはなりません」と、冒頭で書きました。そこで登場してもらうのが、個性あるアート紙です。
高級とはいえ、平均一枚100円〜200円ですし、簡単に手に入りますので、ここぞという写真でぜひチャレンジしてください。
紙の種類をわかりやすく品質順に並べてみます。
1.アート紙(個性があり、奥行き・臨場感が最大に出る紙)
2.バライタ紙(酸化バリウムのコーティング。かなり色を追える)
3.RC(レジン樹脂コート:一般的に印画紙といわれるもの。テストプリントに最適)
4.フォト光沢紙など(キャストコート:スーパーで買える写真用紙。高品質プリントではつかえません。)
5.普通紙 写真の印刷では使いません。
細かい紙の違いについては、別記事に委ねますので、ここでは扱いません。ここでは概要を掴んでいただければと思います。
まず、写真専用の印画紙はアート紙とRCの2種に大別できます。
アート紙とは、一般的には綿(コットン)とアルファ・セルロースといった天然素材をベースにした高品質な紙のことです。日本ではよく使われているバライタ紙もファイバーベースの紙なので、ここに入ります。
これを専門に製造しているブランドに、Canson Infinity(キャンソン)、Hahnemuehle (ハーネミューレ)があります。これはカメラメーカーでいえば、一昔前のキャノンとニコンのような、アート紙業界の二大巨塔といえます。(日本での見方は違うかもしれません…ここに、Fuji, EPSON, ILFORDといった大手も入るでしょう。)
ここに僕は、ソニーが参入してキャノンニコンに並んだように、アワガミファクトリーを横に並べています。徳島県阿波の和紙で、インクジェットプリンター用のアート和紙を制作されています。独特な風合いがあり、モノクロでは本当に水墨画の趣味が出せます。ここの、プレミオ楮(こうぞ)という紙を僕は使っています。
またまた余談ですが、グレゴリー・コルベールという著名な芸術家がアワガミファクトリーの用紙を使ったことで、とくに有名になりました。おかげでアメリカにいる僕でも同じ様にアワガミファクトリーの和紙が手に入ります。
さて、話を戻すと、アート紙は極めて種類が多いので、的を絞って一定期間使い続けるのがおすすめです。そうしなければ、他との違いがなかなかつかめないからです。
まずは、サンプルを手にしてみるのがおすすめです。ハーネミューレ社がこのような、とても親切なものを作ってくれています。
すみません、今調べたら、日本での販売はないようです。しかし、サンプルパックがありますので、こちらの「グロッシー(光沢)」「マット」の2種類のサンプルパックを購入されるのがおすすめです。
印刷する前に、一度手で触ってその紙の質感を確かめてみてください。そして気に入ったものを4〜5オーダーするのが良いでしょう。
オススメは、バライタ(Baryta)と名前のついたものを1点含む、光沢あるものを2点セレクト。そして、アート紙の本流であるマット(Matt)仕上がりの中から、紙面のテクスチャーが荒いものと滑らかなもの(Ultrasmooth)を1点づつセレクトして始めることです。
次は、もう一つの印画紙である、RCペーパーです。
RCペーパーとは、レジン(樹脂)コートの略で、一般的に印画紙と言われているものです。スーパーで買える写真用紙よりも、ベースの紙が厚いことや塗料の違いなどのうえで、高品質になります。
RCは、ベースの紙の層の上に、特殊な塗料が塗られていて、基本的には光沢を出すように作られています。最近はその反射を抑えたものも多くありますが、RCペーパーは基本的に光沢のある印画紙と思っていただければ良いと思います。
▶RCは、一般の写真用紙とは違います。(外部リンク)
RCは高品質なものですが、アート紙に比べたら安価で手に入るので、僕は多くの人が行っているように、テストプリント、試しの印刷で使用します。マットで完成させる作品のときは難しいのですが、けっこう深く色を追い込んでいけるので、重宝しています。
まとめると、
RCペーパーは、色を追い込む際のテストをするものとして用いて、アート紙で完結させる。アート紙は、自然を自然のままに表現できる稀有な紙である。ということです。
今日は以上になります。
4つの記事からなる【最高品質のプリントをつくる】は次回で完結です。ジクレー・アーカイバル・プリントという西洋の伝統印刷方式が、その集大成となります。
この記事をここまで読み進めてくれた方は、おそらく写真の作品づくりを真剣に考えられている方だと思います。
これからも英語圏の教材をベースに、ハイクオリティな写真を制作するための内容を少しづつ記事にしていく予定です。
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