プライベートサロンで独立は出来る?
自分のお店を持ちたい。そんな夢を持ってサロンで働いている人は多いと思います。でも、スタッフを雇ってお店を持ちたいか?と言われると、「自分のやりたいことをしたい」、「スタッフを雇うのは大変そう」と言われる方が多いです。プライベートサロンで成功している人の話はたくさんあると思いますので、成功とは言えない独立、失敗してしまった独立について話します(楽しそうでないね)。
■ プライベートサロンの作り方
セット面は1面か2面、シャンプー台1台、お店の広さは10坪前後。お店の駐車場は「なし」か「1台」。用意するのはこれだけです。プライベートサロンですから、たくさんの人に知ってもらうのではなく、「知っている人だけ」が来店してもらえいい、だからホットペッパービューティーや何十万もお金をかけたホームページも要らない。だから、お店を作るお金もそんなに大きなお金は必要ない。
■ 本当にお店を作るのに大きなお金は要らないの?
セット面4面、シャンプー台2台、15坪から20坪前後。これくらいの美容室をテナントとして内装工事をしようとすると600万円から800万円程度は必要になります。もちろん、どんなデザインにするのか、どの施工会社さんに依頼するかにより値段は変わります。めっちゃオシャレなデザイナーさんの会社だと1000万円を超えることもあったりします。比較するために15坪から20坪前後で600万円の施工費用だとしましょう。プライベートサロンで必要な坪数が10坪だからといって、施工費用は半額の300万円前後になるでしょうか?施工業者さんからすれば、その金額でも可能です、と言ってくれる会社さんのあると思いますが、実際には難しい。工事をするという時点で、それが10坪だろうが15坪だろうが、一定額のコストは発生する。むしろ、坪数が狭い方が、坪当たりの工事原価は高くなったりします。だから、半額ではできない。400万円前後の工事費用は必要になっても不思議ではありません。
では、美容機材はどうでしょうか?せっかくのプライベートサロン。中古でも何でもいいと思う方は少ないと思います。プライベートサロンですから、客単価を求める必要があるし、最高の空間で、最高のサービスを提供したい。となれば、導入する美容機材もタカラのYUME じゃないと、と言われる方も多いです。セット面と設置費用を含めて100万円前後。ボーラーは不要で給湯器、小さくでもエアコンは必要。美容室として揃えるべき機材は、セット面とシャンプー台の数が少なくなる程度で、それほどお金が抑えられる訳ではありません。むしろ、セット面4面、シャンプー台2台で、中高か、ビューティーガレージのPB商品でも良い、と言われる方と機材の予算は変わらなかった、なんてこともあります。
だから、プライベートサロンだからと言って、お店を作るお金は決して安く抑えられるとは限らない、ということです。
■ プライベートサロンの売上はどれくらい?
私のお店は客単価2万円。毎月の売上は150万円、200万円あります。そんな話を聞いたことがあると思います。野球で言えば、イチロー選手のような人。いますよ。もちろん、スゴイ人は。でも、私にも出来るのか?いつかできることを前提に独立していいのか?「やればできるよ!」「きっとできるよ!」そんな言葉に背中を押されて、多額の借金をしていいのか?借金をしなくていいなら、そんなチャレンジは大賛成ですが、もし、守るべき家族があり、失敗が許されない独立で、そのチャレンジはすべきではない。5年ほど前に創業融資をお手伝いさせていただいたお客様で、プライベートサロンを経営されている方がいます。その方の売上は今でも月30万円前後。当時借りたお金は1000万円でした。なぜ、止めなかったのか。当時の私は、本人がやりたいと言っていて、独立するための経験と自己資金を持っていたから融資を受けても問題ないと考えていました。大反省です。今の自分だったら、絶対に止めています。必死に止めています。
月の稼働日数は24日。客単価は1万円。一日の来店客数は3人だとします。一日の売上は3万円。これが24日ですから、72万円。客単価が1万5千円なら108万円。一日の来店客数が5人なら180万円。うっしっし、皮算用が進みますね。
でも、いざ、自分がお店をオープンさせて、本当にそれだけの客単価が取れるのか、客数が取れるのか、その状態を維持し続けられるのか、が課題になります。
■ プライベートサロンを経営するのに必要な経費は?
材料費は概ね売上の10%から20%。プライベートサロンの場合は、品質にこだわる結果、材料比率は高くなります。人件費はなし。広告費も集客しないならそれほど不要。店舗家賃は自宅サロンであれば不要ですが、それ以外なら必要。地域よりますが、10坪前後であれば10万円前後とします。それ以外の経営に必要な経費は概ね10万円から15万円程度。家賃と必要な経費は、お店が存在しれば必ず必要な経費です。このお金だけで20万円。材料費は5万円だとすると25万円。これに広告費を加えたら30万円近くになります。自分の必要な生活費はいくら?このお店からいくらのお金を稼ぐ必要があるか?そのお金が20万円だとします。そうすると、広告にお金を使わないにしても、45万円は最低必要な売上になります。もし、お金を借りてお店を作っていたら、これに返済も必要です。1000万円の融資なら月額10万円、500万円の融資なら5万円。500万円の借入だったとして、絶対に達成しなければならない売上は50万になります。
■ プライベートサロンで独立した時点で、売上の上限が決まります。
毎月5万円の返済と、私に必要な生活費20万円を確保するために必要な売上は50万円。このストーリーでいくと、私は、客単価1万円で24日稼働、一日に2名のお客様で概ね達成。いけるじゃん。なんとかなるね。
確かにそうです。めちゃめちゃ頑張って、売上が70万円まで達成する月もあるとおもいます。70万円を達成すれば、生活費が40万円になります。これだけあれば今の私には十分、そう考えるかもしれません。
でも、このお店は、1年後も、3年後も、5年後も、10年後もこの状態です。客単価2万円で、毎日7名のお客様が押し掛けるお店になる可能性はもちろんありますが、ほとんどの場合はそうではない。プライベートサロンを選んだ時点で、私のお店の上限は決まってしまいます。これを分かってプライベートサロンを独立する必要があります。
■ 私のやりたいことは何?
これは生き方でもあるし、考え方でもあるので、プライベートサロンでの独立は、大切な夢の実現のための選択肢だと思います。重要なことは、プライベートサロンだからと言って、少ないお金で気軽に始められるものではないという事実です。この事実を知ってほしい。借金はたくさんあり、毎月の使えるお金はサロンで勤務していた時と変わらない、この先も大きく変えられる要素が少ない。そんな状態になってから、これが私のやりたいことだったのか?なんて思ってほしくない。未来は変えられるけど、経営の原理原則は変わらない。自分のやりたいことを実現するために、分かっていることは知っておいたほうが良い。
■ プライベートサロンで上手く行く人。
一言でいえば、お店を維持するための経費が少なくて済む人。売上の上限が決まる以上は、使う経費が少ない方が有利です。私以外のだれかが必要な生活費を確保し、私はそれほど大きなお金をお店から生み出す必要がない。店舗兼住宅で住宅ローンの返済は私以外がしている場合。この場合は家賃の支払いが必要なく、家賃と同じ意味に住宅ローンの支払いの必要もない。固定的な経費である家賃と絶対に確保しなければならない生活費に縛られない人。この環境が持てる人は、比較的安心してプライベートサロンでの独立は可能です。
■ プライベートサロンでの独立を応援しています。
ここまでネガティブなことを書いておいて言うのも何ですが、『必ず生存できる美容室をつくる』環境が持てたらな、自分のやりたいお店は持った方が絶対にいい。そんなプライベートサロンの独立は積極的に応援しています。お伝えしたいことは、お店の独立を『博打』にしてはいけないということ。孤立して、前に進むしかない状態になっても、絶対に立ち止まってほしい。セット面4面でも集客しないと上手く行きません。セット面1でも集客すれば上手く行きます。そんなやり方はあります。でも、集客すれば何とかなるという考え方ではなく、まずは生存できる環境を作ること。その条件が揃ってから集客の仕組みを学び、行動する。だからやりたいことは実現できます。
失敗した事例から学ぶことはたくさんあります。今回はあえてネガティブな内容をお伝えしましたが、逆を言えば、このやり方を選択しなければ、もしくは、分かってやるならば、必ず生存できる美容室をつくることが出来ます。
なかしま税務労務事務所 税理士 中嶋 政雄 社労士 中嶋 有美
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