登山道は川だった(2/)
2022年夏のYAMAP LIFE CAMPUS『登山道整備編 第二期』について、前回の参加経緯(以下のリンク先参照)に続き、今回は学んだことを記録する。
なお、座学・フィールドワークともに、メインの講師は大雪山・山守隊の岡崎哲三さんだったが、以下に記載する内容はすべて僕が理解したことだ。当然ながら内容に誤りがある場合、責任は僕にある。
登山道は川だった
座学とフィールドワークで学んだことは多岐にわたるが、一番おどろいたのは『登山道は川だった』ことだ。それを理解するためには、まず登山道が浸食される仕組みを理解する必要がある。簡単にまとめると以下の通り。
登山者が歩くルートに植物が生えなくなり裸地化する(踏圧浸食)
裸地化した道に雨水や雪解け水が流れ、土が流される(流水浸食)
浸食が進むと登山者は元の道の横を通るようになる(複線化)
複線化した道が流水浸食される
1.と2.を比較すると、影響の大きさは踏圧浸食<<<流水浸食となる。僕は、これまで漠然と『登山道は人に踏まれることで荒れて、大きくえぐれる(土壌が削られる)』ものと思っていたが、人が歩くことはきっかけにすぎなかった。
また、よほどの急登でない限り登山道を流れる水は自然に蛇行しようとするため、一定の深さに浸食された登山道では側面が削られる。さらに落差があれば落ちた先の土壌を削ることになる。これらの性質は河川そのものなので、水の流れを考慮しない登山道整備は効果がでないことになる。
つまり、登山道は水の流れる道=川と考えることができる。これを知った時は興奮したけど、ほとんどの登山者には伝わらないだろうな‥
植生のために
大雪山でのフィールドワーク中に、何度も「ありがとうございます」「歩きやすいです」と感謝の声をかけられた。登山道整備している人が『登山者のためにボランティアしている人』と認識されているからだと思う。僕も登山者として山で整備している人にあったら感謝の言葉をかける。それ自体、もちろん悪いことではないが、講習では『登山者のための登山道整備』とは別の視点を学んだ。
それは、『登山者が植生に与えたダメージを回復させる』ために登山道を整備するというものだ。登山者が安全に歩くために設置されたと思っていた階段や木道には、適切な場所を歩くことで自然に与えるダメージを軽減するという大事な目的があった。人間より植生優先。
この考え方はあくまで今回学んだ1つの価値観(そして僕が気に入った考え方)で、当然ながら絶対ではない。登山者のために登山道を整備することを否定するものではない。
だけど、僕には『植生のための登山道整備』という視点が痛快だったし、性に合っている。植生へのダメージに自覚的な登山者でいたい。
近自然工法
登山道は川であり、その整備目的を植生の復元にすると、これまで行政が民間業者に発注してきた施工方法では合わないようだ。
行政が整備を発注する事業者は登山道が川だと認識していないので、設計に水の流れが考慮されていない。そのために施工物を長期間維持することは難しい。施工物が壊れると整備前より悪化する例もある。また、行政は登山者の安全確保を優先したいため、植生復元は後まわしにされやすいと思われる。
大雪山のフィールドワークで体験した登山道整備は近自然工法によるもので、人が山に入ることで崩れた『生態系のバランスを復元させる』発想で施工する。近自然工法は、スイスで誕生した近自然河川工法を福留脩文さんが日本に持ち込み、さらに登山道整備に応用されたものだ。
初回のフィールドワークでは大雪高原沼めぐりコースに木柵階段をつくった。資材の丸太は事前に持ち込まれたものだったが、釘などは使わず現地にある石や土で組んだ。2回目の白雲岳避難小屋周辺では、雪解けシーズンに流れる大量の水を減らす施工をした。資材は現場にあった石と、ボランティアによって運ばれたヤシの土のうで行ったが、大規模な施工になった。3回目の当麻乗越周辺では、現地で木道を大量生産してぬかるみに敷いた。
今回教わったことの多くは無料で公開されているので、興味がある方はぜひ読んでほしい。
他にも、国立公園の現状、大雪山の地質、海外のトレイル事情など、カリキュラム的には多くのことを学んだが、書ききれないのでここまでにする。
最後に雑感を少しだけ書いてみた。
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