「坊っちゃん文学賞よみ芝居」視聴ノススメ③『再配達』

こちらは松山市の主催する坊っちゃん文学賞の第18回にて佳作を受賞された知花沙季さんのショートショートを「よみ芝居」として舞台化したものです。

以下の「視聴ノススメ」にて、解説上どうしてもストーリーの核心に触れる(ネタバレする)部分がありますので、先に上記の動画をご視聴頂くか、下記リンクから原作をお読みください。原作をお読み頂くことでこの「よみ芝居」がいかに丁寧に舞台化されているかが分かり、さらに深くお楽しみ頂けると思います。

知花沙季さん著「再配達」原作
https://www.city.matsuyama.ehime.jp/shisei/machizukuri/kotoba/bocchan.files/18th-02-saihaitatsu.pdf


さて、ご視聴(お読み)頂いた通り、この「再配達」のお話の全体像は、所謂「入れ子構造」と言われる形式になっています。
つまり、【果たされなかった過去の経験(a)】がその外側を覆う【現在進行のストーリー(A)】の中に組み込まれるという形です。

具体的に言いますと、主人公である青年が中学生の千夏の家を訪れ、世界的感染症の影響で中止となった小学生の頃の体育祭を彼女とその母親に再配達する【果たされなかった経験(a)】を、実際には現在の青年に向けて彼自身が再配達していた【現在進行のストーリー(A)】という構造です。

4000字というショートショートの中に上記のようなテクニカルな構造を用いている知花さんの筆力も素晴らしいのですが、このお話を「よみ芝居」として観客にできるだけわかりやすく伝えるために、ごそく楼の皆さんによる演出上の様々な創意・工夫が施されています。

まず、お気づきかと思いますが、再配達を仕事にしている青年役をあえて別の二人の俳優さんが演じている点。
これは上記で解説した【果たされなかった経験(a)】と【現在のストーリー(A)】が別の時間軸であることを強調するための演出であると思われます。

青年が千夏の母親に再配達という仕事をこれで最後にする理由を語る場面で、青年役の二人の俳優が舞台上に同時に姿を現し、台詞を分担して言い合う場面は、この【果たされなかった経験(a)】と【現在(A)】が青年の中で一つに重なっていることを観客に伝えるための演出であると同時に、ラストの種明かし(実は千夏への経験できなかった体育祭の再配達という行為そのものが青年にとっての果たせなかった経験だったということ)への伏線にもなっているわけです。

そこまで理解できると、劇の最初に青年が舞台に一人で立ち、カバンのチャックを開いた直後に暗転するまでのシーンが実は【現在(A)】の時間軸を示し、明転後のシーンがカバンの中から取り出された青年自身の【果たされなかった経験(a)】だったのだとパズルのピースがピタリとはまるように合点がいきます。

青年が千夏の母親に語る「たとえ再配達されずに経験できないことがあったとしても、人はその経験できなかったという辛い過去にも意味を見い出し、強く、美しく成長していける。そういう今の自分こそが実は大切な存在なのだ」という趣旨の言葉は、新型コロナウィルスに翻弄され、様々な経験を諦めざるを得なかった現実を生きる我々への知花さんからの温かなエールなのだと私は思います。

新型コロナの世界的感染に現在も苦しめられている我々の胸にまっすぐ届き、一人の青年を通してこれからの生き方をも問いかける知花沙季さんの素晴らしいショートショート。それをもとに創意と工夫溢れる演出と演技で見せる「よみ芝居」を是非ご堪能ください。


大好評のうちに幕を閉じた2023年11月公演に続き、2024年8月公演の開催が迫って参りました。以下はそのご紹介になります。

「坊っちゃん文学賞よみ芝居2024」

観劇チケットのご予約は下記の予約フォームからお願い致します。https://forms.gle/qnPnGyeXWdsCFxvCA

各回200名様。
前売り:一般2,000円・高校生以下1,000円
当日 :一般2,500円・高校生以下1,500円 
※前売り券は当日券に比べて500円割引になります。

公演日程は以下の通りです。
8月3日(土曜日)18:00開演
8月4日(日曜日)11:00開演・15:00開演

会場は松山市総合福祉センター1階 大会議室(松山市若草町8-2)です。

観劇前に原作をチェック!

今回舞台化される3作品の原作を読んでみたいという方は
下記のリンク先(松山市ホームページ)からPDF形式にてお読み頂けます。

『ドリームダイバー』
https://www.city.matsuyama.ehime.jp/shisei/machizukuri/kotoba/bocchan.files/17th-01-dream.pdf

『父の化石頭』
https://www.city.matsuyama.ehime.jp/shisei/machizukuri/kotoba/bocchan.files/18th-04-chichikaseki.pdf

『空色ネイル』
https://www.city.matsuyama.ehime.jp/shisei/machizukuri/kotoba/bocchan.files/19th-03-sorairo.pdf

過去に上演された「坊っちゃん文学賞よみ芝居」をご覧になりたい方は
下記YouTubeチャンネルから!

https://m.youtube.com/@engeki.office59

ご興味を抱かれた方は是非ともよろしくお願い致します。

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