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果てしない物語☆製品価格の持続的上昇☆~半導体製造装置の場合~

こんにちは。暑い日が続きます。お体ご自愛ください。なかのアセットの運用部の山本です。
 
今回は、クオリティ・グロースの実例です。製品価格の長期かつ持続的な上昇について、半導体製造装置を例にとってご説明いたします。

「クオリティ・グロース投資とはなんぞや?」については、パンローリング社から2024年3月に出版した書籍があります。タイトルは、ずばりそのまま「クオリティ・グロース投資入門」です(笑)。クオリティ・グロースとは何かを最終的に定量的に落とし込み、数式入りの書籍となったため、ある種の難解さを伴ってしまいました。

 

24年3月出版の幣著「クオリティ・グロース投資入門」の表紙

もう少し、わかりやすく、数式を使わないで、クオリティ・グロースとは何かについての6分程度の動画を作りました。これはマンスリーの月次報告会の一部を編集したものです。

 https://www.youtube.com/watch?v=3Ib8lvqVZ2k

※なかのアセットマネジメントのyou-tubeは登録がわずか1300人足らずで、上記の説明動画も再生回数は800回程度に留まっています。投資を文化に高めたいと考えるわたしたち、なかのアセットの社員一同の励みになりますので、なかのアセットのnoteのフォローやyou-tubeのご登録をお願い申し上げます。もっと、みなさまの応援が必要なのです!

 この動画の中で、グロースとは何かを説明しています。商品やサービスの価格が長期的に上昇するものの例として、半導体の製造装置があげられていました。1980年代の露光装置1台が1億円。これが2020年代には1台300億円になりました。つまり40年で数百倍に価格が上昇しています。過去40年間、毎年平均して15%も製品価格が上がっているのです。

価格が上がれば利益が上がる。利益が上がれば企業価値が上がる

 価格が数百倍になれば、もちろん、利益も数百倍になるわけです。昨日、運用部の佐藤栄二PMが書いたように、PERの水準が同じであれば株価も数百倍になるわけです。もちろん数十年という長い年月がかかります。

グロースはなぜ生じる?生産性の向上がもたらす製品価格の上昇 

ASMLのEUV露光装置(extreme ultraviolet)はシリーズ化されており、新製品はEXE:5000です。2024年の第2四半期に2台目が出荷されました。EUV露光装置の前シリーズはEXE:3800Eに代表される3000シリーズです。

 これから数年間は5000シリーズがバージョンアップしていきます。装置の性能が向上すると、スループットに応じて、製品の価格は今後も上がっていきます。

 3000シリーズでは13 nano meter(nm 10^-9 m)の加工ができますが、5000シリーズでは8nmの加工ができます。

面積比でいけば、8/13の2乗(=0.37)ですから、3800Eのチップ面積の37%まで5000シリーズで回路の面積を小さくできます。つまり、半導体ウェハーあたりの取れ数が5000シリーズでは3000シリーズの3倍弱も多く取れるわけです。

 「生産能力が3倍になるのだから、装置価格は3倍とはいわないから、2倍ぐらいで買ってください」というセールストークが成り立つわけです。これが製品価格の上昇のロジックです。

 もう少し、5000シリーズと3000シリーズの違いを見ていきましょう。

開口率(以下NA : Numerical Aperture)という指標があります。NAとはシンプルに光学的な特性だとお考え下さい。5000ではNAが0.55まで高まります。3000シリーズではNAは0.33でした。NA値が高い方が特性がよいと考えてください。

NAが高まるとそれだけ、光学系と呼ばれるミラーが大きくなります。露光装置に使われる光学系は膨大な部品点数になりますが、ミラーひとつひとつが大きくなるわけです。

 方式も変わりました。縦横4分の1縮小投影であったものが、一方だけ8分の1縮小に変わったため、フォトマスクが2個使いになりました。投資家は、「レンズの重さが数倍になって、レンズメーカーが大変そうだな、光学系の参入障壁はますます高まるな」と考えます。ミラーの価格は2倍程度に上がることになります。(論文によれば、重さが最大8倍程度になるので、ミラーの価格は数倍になる可能性があります。)

 また、フォトマスクの枚数はstitchingの2個使いのため、2倍に増えていくでしょう。

そういうことは、どこに書いてあるかというと、特許情報学会誌に書いてあります。

たとえば、この論文に書かれています。

 https://spie.org/profile/Harry.Levinson-7245

High-NA EUV lithography: current status and outlook for the future

By Harry J. Levinson 2022 Jpn. J. Appl. Phys. 61 SD0803

 ハリーさんは、露光技術の専門家です。日本物理学会の学会誌に寄稿されています。


ハリーさんの論文より


上の図の右側が5000シリーズで採用された8分の1投影で、マスクがAとBの2枚使いになっています。それをつなぎ合わせるstitchingという手法が採用されています。

 投資家の目線では、「フォトマスクの需要が増えるのだから、マスク関連は調査をしなければならないな」となります。検査も2倍必要になるでしょう。

 EUV露光は、深い角度で照射できません。減衰が激しすぎるからです。ところが、NAが高くなると、どうしても斜めから照射しなければならなくなります。NAと照射角との関係式は’sinθ=NA/lens reduction’であり、縮小率をあげることで照射角θを保ったのが5000シリーズの工夫です。このθを小さくする必要があったのですね。

 そのため、ミラーが左右対称ではなく、難易度が上がってしまいました。平坦度の精度もピコメートル単位になっています。減衰が激しいEUVでは、マスクを保護するペリクルを使うことを止めています。ペリクルを使わないので、ドライ洗浄を常備しなければならず、大量で強力な排気システムが必要になりました。日本の真空ポンプが大量に使われていますね。 

こうして、ひとつの製品の進化をみるだけで、投資のインプリケーションが多数得られるのです。

 そもそも、どうしてこれほどの微細化が必要になるのでしょうか。

それは、AIが絡んでいるのです。特に、機械学習が関連しています。

AIといえばGPUというグラフィックチップを大量に使います。

主要サプライヤーのNVIDIAという企業が有名ですね。

 半導体上の演算や計算はMOSというスイッチ(電界トランジスタ)を介しているわけですが、その演算部分はCPUと呼ばれています。このCPUが並列に多数並んでいるのです。その横にキャッシュと呼ばれるSRAMという種類のメモリーが同じウェハー上に形成されるのです。SRAMの中でも特に6つのトランジスタを使う6T-SRAMというものが多数並んでいるのです。これが大量の情報を処理するために必要になります。つまり、GPUとはCPUとSRAMのお化けのようなもの、とお考えください。そのGPUの周りに大量のDRAMが積まれています。ただ、DRAMは別のウェハーから作ります。いま、問題となっているのは、SRAMの面積が大きすぎるということです。6つもトランジスタを使うわけですから、これを小さくしなければならない。そのために、ゲート・オール・アラウンド(GAA)という手法が普及していく見通しとなっています。GAAとは、馬鹿でかいSRAMをなるべく小さくするためのひとつの手段、とお考えください。このGAAをやりきるためには、ウェハー(のレイヤー毎)の平坦度が求められるのです。GAAとは、ゲートを多層にするものであり、その分、さらにフォトマスクが多く必要になります。CMP(機械・化学的な研磨)と呼ばれる工程も露光もエッチング(etching)も全部増えます。増えるだけではなく、難しくなります。

(装置の価格上昇=装置の生産性の向上=微細化による取れ数の増加=装置の性能向上に伴うシステムの長大化)

 

材料ならば、純度を上げる。純度だけではなく、材料の粒度を抑える。そうなると、材料も価格が上がります。

純度一桁上げると価格は一声10倍になるというのが相場です。

 回路を描き切った、ウェハーの単価は、SUVタイプの新車が買えるほどの値段になります。

以前は、軽自動車、数十年前は、自転車ぐらいの値段でした。半導体そのものの値段も跳ね上がっていくのです。

 最先端の露光装置(5000シリーズなど)もいまでは1台、数百億円の値段です。フォトマスクを検査する装置が数十億円もします。さらに、フォトマスクを作成する描画装置も数十億円の値段になっています。

 純度の高い半導体の材料のひとつ、たとえば高誘電材料などは、重さ当たりでは、ゴールドよりもはるかに高価です。

 なかの日本成長ファンドでは、CMPのスラリー材料の高純度コロイダルシリカを寡占している扶桑化学などに投資をしています。今月には、露光のプロセスに関わる企業を組み入れています。

 グロースとは、長期的な展望に基づく数量成長と価格成長の積です。特に半導体製造装置については、特許や論文も豊富であり、NAが変わるだけで、何が変わるのかも容易に把握できるため、長期的な展望は確度高く想定できます。業績はシクリカルだけれども、技術のトレンドはクオリティを持って想定できるのです。

EUVを使うのは露光装置だけでありません。いまでは、マスク検査装置にもEUVが使われます。そうなると、同じ論理で、同じストーリーで光学系の会社に大きな恩恵が及ぶことがわかります。

 価格上昇の論理

 

製造装置のトレンドとして、スループットが増加していくというトレンドがあります。そのため、高速の機構が必要になり、その高速な動きを保証するのも、最先端の半導体なのです。露光装置や多くの製造装置にはPLC (Programmable Logic Controller)と呼ばれる機械専用のコンピューターが多数搭載されていますが、そのハイエンドを担うのがオムロンです。オムロンの制御機器事業のセグメントは製造装置の受注がよくなればよくなる傾向があります。彼らのPLCは同業よりも一桁、スピードが速いということがカタログを読めば確認ができます。

 スピードというのは、スループットに直結し、それはまた、製品の価格に直結します。

2倍速く動く機械であれば、同じアウトプットをつくるにも、消費電力は半分で済みますね。

 半導体の中を通る電子や正孔といったキャリアは、これまで前後左右、「横」に動いていました。これからは、横に加えてウェハーの上下、「縦」を動くことになります。タワーマンションで一番高い建物はいま、ニューヨークにあって、131階のものがあるようですが、半導体の層数は、それを大きく超えて、数百階という層があります。

 回路を乗せた完成ウェハーの値段は、十年後には中古住宅の値段に迫っていくでしょう。露光装置1台の値段が1000億円を超える日もいつかくるでしょう。見返りとして、その圧倒的な計算能力や処理能力を、人類は享受することになります。家事や退屈な作業はロボットが全部やる時代になります。人の仕事は、これからは社会の再生や自然の再生になっていくでしょう。あるいは、人が人を喜ばせる、人が人を幸せにするというのが仕事の主な内容になっていくでしょう。いまのスマホには情報という情報はすべて入っています。世界中の文学作品から図書館にあるすべての論文や特許まで。昔、百科事典をそろえるのに数十万円もかかっていた時代もあったのです。いま、スマホ1台の中に、世界がすべて丸ごと入っている、そのような時代になりました。

 倫理をみなで考えるのが長期投資の醍醐味

 

この1000億円という将来の露光装置が、はたして安いのか、高いのか、わたしにはわかりかねます。ひとりひとりが考えていかなければならない問題ではないでしょうか。たとえば人類が人工太陽というものを作れたとして、それを安全に制御できるのだろうか。太陽はどの程度の経済価値に換算すべきなのだろうか。たとえば温暖化阻止のために、力ずくで二酸化炭素を大量に閉じ込める超大型装置を作ることも可能でしょう。それをすぐにやるべきなのだろうか。その経済価値(あるいは経済損失)はいくらに換算できるのだろうか。そのような倫理的な問題を、わたしたちは、次世代のために、責任をもって、これから論じていかなければならないのです。

 さて、今回は、グロースの根っこにある考え方、価格の上昇のロジックについて、例をあげて書いてみました。

10年後には、ASMLの装置の価格の平均値はいまよりずっと高いものになります。同様に、利益も配当もいまよりも高いものになるでしょう。フォトマスクのサイズもいまよりも大きなものになっていくでしょう。最先端の装置は、スループットを犠牲にしないで、さらにスケールアップしていくことでしょう。

 果てしない物語 Never Ending Story

 

微細化はどこまで進むでしょうか。これはまだまだ果てがないといわざるを得ません。たとえば、原子数個分の加工はもうすでにできますが、素粒子レベルはこれからです。たとえば、生物は、多量の水素結合で情報を処理しています。動物は究極の省エネ情報処理システムを備えています。人類は使える情報をまったく使いこなせていない状況です。

量子コンピューターが普及し、その先に、水素結合を計算に利用できるようになるまでにはまだ100年以上、かかるのではないでしょうか。

わたしが所属する、なかのアセットは、積み立て王子こと、中野晴啓(なかのはるひろ)さんがオーナー兼経営者として率いる長期成長株投資に特化した少数精鋭の資産運用会社です。株式運用を高度化し、国民文化に昇華していくことは、なかのアセットの社会的責務のひとつです。わたしたちは短期の株価動向に一喜一憂する態度から一線を画します。そして、確固たる長期展望に基づき、長期投資の在り方を社会に対して提唱していきたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。みなさまのご指導ご鞭撻、応援をよろしくお願いします。

(山本 潤)

この記事は情報提供を目的として、なかのアセットマネジメント株式会社によって作成された資料であり、金融商品取引法に基づく開示資料ではありません。投資信託は値動きのある有価証券等に投資しますので基準価額は変動します。その結果、購入時の価額を下回ることもあります。また、投資信託は銘柄ごとに設定された信託報酬等の費用がかかります。各投資信託のリスク、費用については投資信託説明書(交付目論見書)の内容を必ずご確認のうえ、ご自身でご判断ください。

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