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日本の社会保険制度が崩壊して喜ぶのは誰か?

やれやれと村上春樹の小説の登場人物のようなモノローグを独り言ちそうになりながらこの文章を書いている。またやってるのか。

彼はアンチフェミニズムをはじめとした反・反差別ともいうべき、社会正義に対するカウンター言論を得意とするインフルエンサーなのだが、最近のその標的は「現役世代VS高齢者」の世代間対立の扇動にご執心のようだ。
私はその独特の感性に惹かれて彼の書く文章を購読していたのだが、近頃は何処からかお小遣いをもらっているのか、政界のお偉方におもねった文章しか書かなくなって、文筆家としての氏には価値を感じなくなってしまった。

まず大前提として、どれだけ少子高齢化が進もうともそれ自体が原因で日本は財政破綻など絶対にしない。なぜなら通貨発行権があるからである。
これで全て論破したということにしてもいいのだが、もう少し解像度を上げて反論していこう。
彼をはじめ、日本の社会の困窮を高齢者の罪としてなすりつけたい勢力はSNSでは珍しい生き物ではなくなったように思う。
高齢者の医療費を全額自己負担にした所で、現役世代の給料は絶対に上がらない。なぜなら国民全体の使えるお金、可処分所得が減るからである。

高齢者が医療施設をサロンのように憩いの場として利用しているのが気に入らないとして高齢者ヘイトを煽る界隈を「反サロ」と呼ぶらしいのだが、私は医療機関で働く者として、反サロには「恥を知れ!恥を!」とサブウェイで注文が怪しい都知事候補の1000倍の剣幕で怒鳴りつけたい思いでいっぱいである。

一見して元気なように見える高齢者でも、その体内には人工血管や、人工関節、骨折を繋ぎとめるためのボルトなどのインプラントが入っていることは珍しくない。そういった術後の経過観察のために、病院に来ているし、そうなるまでには必死でリハビリに励んで身体機能を回復させ社会復帰しているのである。その人生のステージを貶めるようなことはどんな社会的成功者にでも許されるものではない。

通貨発行権に話題を戻す。大腿骨が骨折した時に挿入するチタン合金製の人工関節は1つにつき80万円以上はする。(消費税込みだ!)そうした医療機器や入院や投薬にかかる費用を全て自己負担にしたらどうなるだろうか。
骨折さえしなければかからなかった80万円という費用は、もしかしたら孫にあげるお小遣いになったかも知れないし、入学祝いやランドセルになったりして、現役世代のお父さんお母さんを助けたかもしれない。子供や孫がいない世帯の人だって、国内旅行をしたり、老後にちょっと贅沢をすることで経済は廻り、巡りめぐって現役世代の給料となるのである。
高齢者の自己負担割合を増やすというのは、その高齢者の人生において必要経費となる医療費でいっぱいいっぱいにして、文字通り経済の流れの中で本当に高齢者を足手まといにしてしまおうという完全に逆効果の政策である。

医療費が払えない貧しい高齢者はどうなるのか。先述した大腿骨の骨折で手術ができなければ、そのお爺ちゃんお婆ちゃんは完全に寝たきりが確定してしまう。トイレに立つこともできないし、身体を動かせないから痴呆も一気に進んでしまう。その後に介護する側の労力やコストが爆上がりしてしまうのである。経費をケチって余計に苦労をする羽目になる。先見性に欠ける強欲な経営者がやりがちな失敗である。

こうした医療上のリスクに備えるための社会『保険』であるのだが、この保険が不公平だと騒ぎ立てて、多くの国民の不安を煽ることで最も得をするのは誰か?

それは民間の保険会社である

国民の多くが日本の社会保険に不信感を持てば、ウキウキで「そんなこともあろうかとアナタにピッタリな保険をご用意しました!」とそれに代替するシステムを掲げる保険会社の登場にみんな飛びついてしまうだろう。しかし公平性を謳うだけで公的医療保険よりも搾取されてしまうことは想像に難くない。現在の所、有力候補は政治権力に寄生している竹中平蔵率いるパソナグループ傘下のオリックス社だろうか。他にも外資系の保険会社を国内に招き入れて、アメリカの如く1回手術を受けるだけでも数千万円を請求されるような社会に舵を切るだろうか。現在の自民党ならばやりかねない。

そもそも、不意に転倒して骨折しただけで人生が詰んでしまうような社会が、先進国として、現代文明としてあるべき姿だろうか。怪我をして傷ついた個体が生き残れないのは自己責任って、野生動物じゃねえんだぞ。

そうではなく、人生における不慮の事故や災害に対する保証は公費によって負担して、各々の財産はそれぞれの人生を向上させるために使ってくれと言える社会の方がリスクを取って行動しやすい、発展する可能性の高い社会と言えるだろう。
結びとして、「自己責任だ」などと困窮する人々に手を差し伸べないことを正当化する輩の思考は、餓鬼畜生の発する獣の唸り声にも劣る論理であるように私は思う。

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