声優養成所を辞めたら人生が好転した話。

みなさん、はじめまして。中野の怪人と申します。
突然ですが今回は僕の人生最大の失敗とそこから立ち直った経緯についてお話ししたいと思います。

大学時代、僕は就職活動したことがありません。する気力も無かったのです。あちこちで心にも無い志望動機を唱えながら実態のよくわからない「仕事」という社会活動を懇願するという儀式がどうしてもやる気になれなかったのです。思い返せば本当にアホアホな選択だったのですが、いまこの瞬間に大学時代に戻って人並みの就職活動ができるかと問われれば、なんとも言えません。

それだけでも十分な失態だったのですが、その後、大学を卒業して2,3年ブラブラとフリーターをやっていました。このまま何も人生の目指す場所が無いんじゃないかと焦った僕は、何を思ったか人生最大の悪手を選択してしまいます。それが声優養成所でした。溺れる者は藁をもつかむとはよく言ったものです。中高生の頃、養成所のチラシを見て漠然とした憧れを抱いていた声優という存在に挑戦してやろうじゃないかという謎のハングリー精神が当時の僕には宿っていました。

アルバイト代を貯金して授業料を払い、業界では大手事務所の付属養成所に入所しました。日々の授業は本当に忙しかったけど充実感を感じていました。夢を追いかける自分に酔っていたのかもしれません。高校からストレートで養成所に入ってきた同期もいる中で、大学既卒という遅いスタートではありましたが、自分なりに全力だったと思います。それでも残念ながら、その養成所では採用にはなりませんでした。

声優を目指す者は養成所の所属オーディションで採用されなかった時、主に2つの選択を迫られます。夢を諦めるか、別の養成所に入ってまた一から所属のチャンスを狙うかです。その時、僕は後者を選択しました。

次に入所したのは比較的規模の小さい事務所の養成所だったのですが、これが良くなかったのかもしれません。講師と折り合いが悪かったのです。

インターネット上でよく言われる「嫌な上司」の条件をパーフェクトに満たしているような感じの人物で、
「こんなこと聞かなくてもわからないのか!」
みたいな感じの怒声は日常茶飯事でした。
例えるなら、
「このハゲーッ!!!」
で有名になった某元議員みたいなテンション。
マジであんな感じでした。

それでも当時の僕は頑張って日々の課題に取り組んでいましたが、その講師は僕のことがどうも気に入らなかったようで、
「お前はその人間性をなんとかしろ」
「お前の今までの友達はみんなお前のことを対等な人間だと思っていなかったんじゃないのか」
等々、なかなかハードな人格攻撃を展開してきました。
中でもトドメの一撃になったのは
「お前は夢を追っているフリをして社会に適応するのを拒んでずる賢く生きてきたんだ」
という言葉でした。
完全にやる気が無くなって、その養成所は辞めました。

しかしながら、その言葉だけはその通りだったのかもしれないと自分でも納得しています。その講師は、僕の人生の中で出会った『先生』とか『指導者』に類する人物の中でキング・オブ・クソ・オブ・クソだったとは思いますが、その人に出会わなければ、僕は声優を目指す夢という底なし沼から脱出できなかったかもしれません。
それに僕の人生がちょっとだけいい方向に傾き始めたのもここからです。

両親には演劇とか声優を目指すことはほとんど非公認の状態で、養成所を辞めて「今まで好き勝手やってすまなかった」とはじめて謝りました。それまでちょっと気まずかった家庭内の関係も大分和らぎましたし、今では就職のための資格試験の勉強をしていて、それは両親にも応援してもらっています。
その資格試験に合格できれば必ず就職できるという類のものではないかもしれませんが、それでも声優を目指すという蜃気楼を追いかけるような当て所の無い旅路に比べれば、遥かに未来が見えています。何より大学卒業してから今までフリーターの身分だったのが、正規職員で雇って貰える場所が見つかるだけでめっけもんです。

この文章を一体どれだけの人の目に留まるかはわかりません。ですがもし、これを読んでいる人の中に、「声優を目指したい」、「声優養成所に行きたい」と考える人や、その親御さんがいるとしたら、

悪いことは言わないから、やめた方がいいし、止めた方がいいです。

わざわざ自分の人生をウルトラハードモードにする必要はありません。
先述したような講師のような人もいます。クリエイターの世界というのは何処もそうかもしれませんが、声優という分野は特に、
「結果が出なければ自己責任であとは知らん」
という体育会系の精神と自由競争の論理が悪魔合体したような世紀末の世界です。僕は幸いにも両親の応援があってギリギリで人生をリカバリーできる可能性を残すことが出来ましたが、それが無かったとしたら、考えただけでも恐ろしいです。
何よりも僕自身、高校や大学を卒業してすぐに、現在勉強している分野の世界を目指していれば、今頃就職して自立して結婚して子供が生まれて、もっと別の人生があったんじゃないかと常々思うのです。

この社会には「夢を追うことは素晴らしい」というメッセージがそこかしこに溢れています。でもそれは必ずしも真実じゃない。

「夢の無い人生だって素晴らしい」

むしろ僕は、声優という夢を失ってしまったからこそ、人生の心の安寧を手に入れることが出来たし、新しい道を見つけることが出来ました。あらゆる人々の個々の人生は平等に「くだらない」し、平等に「素晴らしい」のだ。


ここまで読んでくれて、ありがとうございました。ではまた。

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